・ルフィの姉設定、捏造あり
・差別的、キャラクターの印象を損なう表現があります
・胸糞注意
・名前変換なし



ルフィは泣いた。近所に住むガキ大将に海賊をバカにされ、あげく子供らしいつまらない屁理屈で言い負かされたから。
もう悔しくて悔しくて、たまらずその子の頭をこつんとして逃げた。こつんと、いや、みしりといやな音がした。

帰ると姉が鬼の形相で腕組みして待っていた。
時折祖父よりもそら恐ろしく感じる姉は、常に品行方正で礼儀正しく、賢しく謙虚で、ルフィとは似ても似つかぬ娘であった。
口では叶わないとわかっていながら必死に言い訳を並べ立てるルフィを一瞥して、姉は一言だけ「野蛮人」と言い放った。

こんなに冷たい瞳で見下されて、底冷えするような低い声でものを言われたことは初めてだった。


「ちゃんと飲み込んでから喋るのよ。行儀が悪いわ」
「お手洗いから出たら手を洗いなさい。不衛生でしょう」
「お勉強は終わったの?わからないことがあったら聞きにきてね」


ルフィは勉強なんて大嫌いだったからろくに本を読みもしなかったし、食べ物を咀嚼しながら大声でうまいと叫ぶ癖も直らなかった。体を清める暇があるなら喧嘩の練習ばかりした。


「海賊なんてだめよ。絶対だめ。許すもんですか」
「ルフィ、行動には常に責任と結果が伴うの。自分がしたことがどんな影響を与えるのか、よくよく考えるのよ」
「…マキノさんも、どうしてルフィを甘やかすのかしら…あの男の轍を踏みたくないのに…あの子のためにもらならないのに…」


シャンクスは村を助けた良い海賊なんだと口を酸っぱくして言っても、姉は所詮犯罪者だろうと一刀両断するだけ。
シャンクスの人柄や仲間たちがどんなに気のいい楽しい奴らか教えても、姉は無教養で下劣な連中だと顔をしかめた。


「すみませんが、ルフィに酒場の出入りをやめるよう言ってもらえませんか?あの子、もう私の言うこと聞いてくれなくて」
「宝払い?なんですか、それ……そんな!無銭飲食じゃない!ああ、どうしよう、ごめんなさい…私の稼ぎから引いてください、きっと全額返しますから…ごめんなさいごめんなさい…」


マキノと二人でこそこそ話すとき、姉はいつも謝っていた。
酒場の裏で料理や皿洗いに勤しむ傍ら、昼間は服の修繕などの内職のほかはひとりで机に向かって勉強ばかりで、一緒に遊んでくれなくてルフィはとてもつまらなかった。


だから。

「…おれ、悪くねえのに…最初にふっかけてきたのはあいつなのに…」
「なんで姉ちゃんはわかってくれないんだよ!おれのことも、シャンクスたちのことも、海賊のことも、怒ってばっかり!おれ、ずっと我慢してた…」

姉ちゃんなんか大嫌いだ
姉ちゃんなんか、おれの姉ちゃんじゃない
姉ちゃんなんか、姉ちゃんなんか
いなくなっちゃえばいいのに!


姉は、翌日来航した定期船に乗って遠くへ行ってしまった。



あとになって、叱責を受け、後悔したのだ。
己の未熟さと、過ちと、姉がどれだけ想ってくれていたか。だから、どうしてもひとこと謝りたかっただけ。

風の噂でどこぞの商人と結婚してどこそこに居を構えていると聞きつけ、さっそくルフィはグランドラインの隅も隅にある件の春島へ向かった。仲間たちも、仲直りできるといいねと肩を押してくれた。
長閑な田園風景が続く道を走り抜けて辿り着いたのは、やっぱり長閑な邸宅だった。手入れの行き届いた庭園には赤いゼラニウムが咲き誇っていた。
はやる気持ちを抑えて手早く身なりを整えた。麦わら帽子をかぶり直して、服についたホコリをはたいて。姉はいつもこういうことにうるさかったから。
ベルを鳴らすと年配の女が出た。姉の名を告げると、不思議そうに首を傾げて奥へ引っ込んだ後、ひとりの女性を伴ってやってきた。
そのひとは記憶の中の姉よりも、ずっとずっと美しかった。

「奥様、この方が奥様の弟君だと仰っておりますが」
「弟…?」

眉をひそめてルフィを頭のてっぺんからつま先まで眺めた女は、やがてはっとしたように口を押さえた。

「…ルフィ…?」
「…あ…ね、ねえちゃ…」

心臓がどきりと跳ねた。姉ちゃん。言おうとして、口内がえらく渇いていたことに気付いた。
名前を呼んでくれたので、少しだけ舞い上がってしまった。許されると思ってしまった。

「何しに来たのよ!どうしてここが分かったの!この、頭の遅れた出来損ない!」

浴びせられた罵声に呆然とした。
自分に向けられた言葉だと脳が認識しなかった。

「海賊になんぞなりやがって!あれだけ、あれだけ海賊はやめろって言ったのに!やっぱり親子ね!あんたには糞親父の穢れた血が、確かに流れてるわよ!自分の子供よりも世界とやらを救うだのほざいて蒸発した人非人の血がね!」

「私はあんたの姉じゃない!私に兄弟はいない!こんな、犯罪者の身内なんていない!」

「帰って!帰れ!帰れよ!二度とその面見せないで!」

謝罪を口にする暇もなかった。
先ほどまで慎ましやかな婦人であったその女は、今や髪を振り乱し目は血走り、半狂乱になってルフィを口汚く罵った。
騒ぎを聞きつけて現れた男は恐らく良人であろう、清潔で品の良い身なりに整った顔立ち、ルフィやシャンクスなどとはまさしく対極に位置する風態だった。

「君、今日のところは引き取ってくれないか」

女の肩を抱きながらそう言うなり、ルフィの返事も待たずに扉は固く閉ざされた。
こうして姉弟久方ぶりの再開は幕を下ろしたのである。




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