5.end roll

かといって、物理的に見ればそこまでなまえの生活が激変するわけではなかった。
学校はいつも通りあるし、アルバイトも行くし、帰って来たらなるべく自炊して、テレビやスマホを見て、風呂に入って寝る。その生活は家族達が田舎に引っ越してしまってから何一つ変わることはなく、家事もそこそこ上手く回せるようになってきた。 
そう、物理的にはあまり変わりない生活。けれどひとつだけ、彼女の中で変わったことがある。


もうすぐ寝る前の23時、ふとなまえのスマホが長いバイブレーションを鳴らす。パッと着信相手を見てから、すぐに応答のボタンを押した。

「あ、もしも〜し。こんばんは」
「ジュンくん!こんばんは」
「お疲れさんです。今って大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ」

彼女の中でたったひとつ変わったこと。それは家族や友達以外に、大切な人が出来た事だった。
彼氏になって日も浅い電話口の彼、漣ジュンはトップの道を歩く生粋のアイドルである。勿論会える時間もほとんどない。けれどこうして時間があればその合間を縫って電話やメッセージをくれるので、なまえは彼に対してなんの不満もない。それよりも自分の存在が彼の足手まといにならないように細心の注意を払おうと常々思っている。
そんな中、電話口の向こうで少し間を置いたジュンがおずおずと話し出した。

「あ、あの…実は来週の土曜、オレ1日オフなんです」
「え、そうなの?」

思いがけず気分が跳ね上がる。もしかしたらほんの少しだけ会える時間があるかもしれない。朝でも夜遅くでもいいから少し会えるなら本当に嬉しいと、なまえは声を弾ませた。わくわくしながらジュンの返事を待つと彼は一度ふぅ、と息を吐いてから、緊張したように声を震わせた。

「えっと、もし迷惑じゃなければ、その日なまえさんの家に遊びに行きたいんですけど、いいですか…?」
「え…、えぇ!?」

思わず大声で驚く。静かな1Kの部屋になまえの声が響いて、誰もいないのに一度部屋をきょろきょろと見回してから、またスマホを耳につける。
するとジュンは慌てたように声色を変えた。

「あ、無理なら…」
「違うの違うの!ごめんなさい。少しびっくりして」

ジュンくんの都合がいいならぜひ遊びに来て!と前のめりに言うと、更に緊張したようなジュンの声が聞こえた。

「まじですか?じゃあ遊びに行きます。後でメッセージに住所入れておいてくれれば家まで行きますんで」
「本当?じゃあ後で送っておきます」
「よろしくっす」

すると電話口の遠くの方で日和さんの「ジュンく〜ん」という声が聞こえた。やっぱり忙しい中時間を作って電話をしてくれたようだ。

「あ、すんません。おひいさんが呼んでるんでこれで」
「うん。忙しいのにありがとう。またね」
「はい。それじゃあ」

電話が切れて、通話の表示が消える。私はスマホをぽい、とソファに置くと、自分の部屋をぐるりと見回した。

「掃除…掃除しなきゃ」

来週だからまだ時間があるというのに、なまえは気持ちだけを慌てさせながら、それでも彼がここに来てくれることを想像して顔をにやけさせてさせた。


それから一週間なんてあっという間に経ってしまった。なまえは事前にジュンに住所を送ると彼からは昼頃に行く、という連絡がきた。

『なんか適当に昼飯買って行きましょうか?』
『いいの?ありがとう』

よろしくお願いします。とメッセージを返す。本当は勇気を出して何か作ろうかと書こうとしたけれど、まだ一人暮らしを始めて間もないなまえは、自分の作る料理に自信が持てなかった。

部屋もきちんと掃除をして、ルームフレグランスも新しいものを買った。クッションカバーも洗って、来客用のマグカップもちゃんと漂白しておく。ローテーブルを拭いたところで、スマホが着信で震えた。

「はい」
「あ、オレです。多分今なまえさんのマンション前にいると思うんすけど…合ってます?」

そう言われてなまえは一度表通りにある玄関に出る。するとマンションの前に、変装をしているらしきジュンがいた。うっかり手を振りそうになって、慌ててスマホに耳を当てる。

「合ってるよ。302号室です」
「了解っす。じゃあ行きますね」

電話が切れる。途端になまえの中で一気に緊張がせり上がってきた。好きな人が自分の家に来るなんて、初めてのことだった。

「ど、どうしよ…」

今になって自分がいかに軽く彼を招いたことに気が付く。けれど久しぶりに会える喜びの方が強い。なまえはゆっくり階段を上って来ているであろう、聞こえるはずもない彼の足音に心臓をドキドキと高鳴らせた。やがて部屋のインターフォンが鳴る。来ることはわかっているのに、思わず肩が跳ね上がってしまったが、「はぁい」と返事をして玄関を開ける。そこにはマスクをしたジュンが、少し緊張したような面持ちで立っていた。

「いらっしゃいジュンくん」
「こんちは……」
「どうぞ。狭いですけど」

なまえはスリッパを玄関におろし、先に部屋の中へ入る。ジュンが玄関の鍵を掛けてくれた音を聞きながらリビングまで先に進めば、彼はぱたぱたとスリッパを鳴らして付いてきた。

「ソファ座っててください。とりあえず麦茶でいいかな?」
「大丈夫。あ、昼飯弁当でよかったですか?」
「ありがとう!」

時刻はお昼時。なまえはジュンが買ってきた弁当を預かると、電子レンジで軽く温める。それを麦茶と一緒に持って行った。

「美味しそうなお弁当。ありがとうジュンくん」
「ここのデリ、おひいさんの最近のお気に入りなんすよ。野菜いも多いし美味いからオレも気に入ってて」

お弁当にありがちなお肉とご飯のお弁当ではなく、副菜の野菜がたっぷり入ったお弁当は、盛り付けもおしゃれで綺麗なOLがお昼ご飯にしていそうなそれだな。なんて感想が浮かぶ。

「日和さんってこういうおしゃれなの確かに好きそう…」
「こういうのよく見つけてくるし、見つけてきたものは大抵すげ〜美味いものばっかりで、びっくりします」

ジュンと付き合い始めてから、なまえはこっそりSNSにアカウントを作り、EdenやEveのアカウントをフォローしてみた。見るだけのアカウントなので、たまに彼らの投稿を見ては顔を綻ばせる毎日である。
その中でも日和はおしゃれなお菓子や食事を写真に撮ることも多く、ファンは同じものを求めてお店に行くこともあるらしい。

「確かに美味しい」
「他にも結構種類あるんですよ。今度また来た時買ってきますね」

なまえがありがとう。と言ってジュンを見ると、なぜかジュンは一人顔を赤くして俯いていた。

「ジュンくん…?」
「あ、いや、なんでもない…」

慌てるようにがつがつとご飯を口に入れ麦茶で流し込むジュンを見て、なまえは彼がなぜ頬を赤くしたことになんとなく気が付いた。多分だが、またここに来るという意思表示をナチュラルにしてしまい、照れたのだろう。
そんな風だとこちらも緊張するのに。と思いながら、なまえは彼の照れが移ってしまう前にカボチャのサラダを口に入れた。


「ご馳走様。美味しかった!」
「よかった」

食後にコーヒーか紅茶を淹れようと思って彼に尋ねようとすると、ジュンは少し真剣そうな顔でなまえの目を見た。

「あの、なまえさん」
「は、はい」
「なかなか会えなくてすんません。…その、会いたかったです」
「あ、は、は、はい。私も、会いたかった、です」

緊張でどもりながらそう言うと、彼はちら、と私の手を見た。

「あのぅ、ちょっと抱っこさせてもいい、ですか…?」
「ひぇ、は、はい…」

悲鳴みたいな声を漏らしてしまったけれど、肯定の返事をちゃんと返すと、「じゃ、じゃあ…」とジュンの手がおずおすとなまえに伸びてきた。
抱っこ、というよりもそのままそっと触れる程度に抱きしめてくる。また手のやり場をどうしていいかわからなくて、彼の胸辺りの服をぎゅっと掴んだ。
ふぅ、と彼がほっとしたような息を吐いたのが聞こえた。

「久々に会えたの、本当に嬉しいです。なまえさんは…?その、嬉しい?」
「うん。嬉しい、です。今日がずっと楽しみだった」
「オレも。今日が楽しみで、今週ずっとテンションが高かったみたいでおひいさんにも茨にも呆れられちまって…」

その様子になまえは思わずふふ、と笑いをこぼす。

「私もだよ。友達に機嫌いいねって言われたもん。掃除も一応気合入れたんだ。粗が見えてたらごめんね」
「粗なんてないっすよ。部屋、#name1さんらしくてかわいいっつ〜か…その、いい匂い、いや、なんでもない」
「あのね。ルームフレグランス新しいのにしたんだ。ダメな匂いじゃなくてよかった」

そうじゃなくて…とジュンは一度呟いてから、なんでもない、と首を小さく振った。彼の髪が微かに耳に触れてくすぐったい。
ふと、互いに黙り込む。その空気が居た堪れなくて、なまえは顔を上げてジュンを見た。

「あ、あの…コーヒーか紅茶淹れるよ。どっちがいい?」

至近距離でそう言うと、ジュンはぼうっとした顔でなまえを見つめていたようで、なまえの声でハッとしたように微かに目を見開いた。

「ど、どっちでも…」
「わかった。じゃあ淹れてくるね」

なまえがそっとジュンから離れると、少し名残惜しそうな顔で手を放した。
平静を装いながらキッチンに向かって、なまえはお湯を沸かす。キッチンからチラ、とジュンを見ると彼はソファに座ってぼんやりとしている。テレビでは見ることの出来ない表情に、心臓が疼く。アイドルとしての顔ではない表情は早朝に太郎を散歩していた時に見ていたけれど、気の抜けたような顔は少し幼くて可愛く見えてしまう。

アイドルと付き合うなんておこがましいと思っているのは今も変わらないけれど、それでもあんな表情を見られるのが嬉しくて、なまえはますます彼に恋をしてしまう。無意識に頬を緩めながらケトルのお湯をティーポットに移し、二人分のカップと一緒に持って行った。


「紅茶でいいですか?」
「あ、ありがとう。そうだ。お菓子持ってきたんですよ」

彼が持ってきていた小さな紙袋を取り出す。中には小さなワッフルがいくつか入っていた。カスタードクリームが挟まっているものと、生クリームとイチゴが挟まっているものが箱の中で交互に並んでいる。

「美味しそう!どうもありがとう」
「食後ですけど入ります?」
「もちろん!甘いものは別腹だよ」

はっきりと言ったなまえに、ジュンは小さく笑いを零した。はしゃぎすぎたことが恥ずかしくて、なまえは顔が熱くなるのを感じる。

「わかりますよ。いくら飯食っても、甘いものは入りますよね」
「ジュンくん甘いもの好きなんだ?」
「あの…イチゴが結構好きで…」

少し恥ずかしそうに言うのがかわいらしくてなまえはまた心臓はむずむずとさせるけれど、実は知っている。プロフィールに書いてあるのを見ているのだが、わざと聞いてみた。本人の口から『イチゴが好き』というかわいい台詞を聞きたかっただけである。

「私もイチゴ好きだよ。ワッフル美味しそう。頂いていい?」
「あ、もちろん」

頂きます。と封を開けてワッフルにパクつく。弁当と同じでワッフルも上品な味がして美味しい。これも日和のおすすめだろうか、と思いながら、いそいそとワッフルをかじるジュンを見ていたら、ごくんと飲み込んだジュンが「あんま見ね〜でくださいよ」と言うのがおかしくて思わず笑ってしまう。少し居心地悪そうに紅茶でワッフルを流すと、ジュンは話題を切り替えた。

「そうだ。太郎くん元気ですか」
「うん、元気みたい。この前動画送られてきたの」
「へぇ、見たいっす」

田舎に引っ越した両親はたまに愛犬の太郎の写真を送ってくれるので、ジュンと知り合うきっかけとなった太郎の写真をたまにジュンに送っていたが、この前動画が送られてきたのでそれを彼が遊びに来た時見せようと思っていたのだ。

「見て見て。すごいかわいいの」

スマホの画面が見られるように、ジュンにぴたりと寄り添って動画を再生した。自然の中で太郎があちこち匂いを嗅ぎながら歩く姿が映っている。時折なまえの母が太郎を呼ぶと、そちらをチラチラ気にしながらもずんずん歩いていく、変わらない太郎の姿である。

「おぉ〜。変わってないみたいですね。相変わらずかわいい」
「ね〜!もう歳的にはおじさんなんだけど、かわいいの」
「でもなんか、なまえさんが散歩していた時よりリード張ってないですね」
「……」

太郎の中で母は一番偉い人、なまえは舎弟、といった感じの認識なのである。

「あ、すんません」
「いいの。太郎にとって一番偉いのはお母さんだもん…」

少しいじけるように言えば、ジュンが「すんませんってば」となまえの頭を撫でてくる。

「なまえと散歩していた時の太郎くん、すごい楽しそうでしたよ」
「そう…?」

うん。と首を縦に振ったジュンが、不意になまえの頭を撫でていた手をするすると下に下ろし、耳から頬に触れてくる。急に触れられて、なまえは思わずビクリと体を揺らした。

「……」
「…あの、ジュン、くん」

ぼんやりとした顔でなまえの頬を手の甲で撫でてくるジュンに、一気になまえは緊張を走らせた。

「ジュンくん…」
「あの、オレ、なまえさんのこと好きです」
「えっ」

突然言われた言葉に驚いたような声を上げてしまった。たまに電話越しに言ってくれる言葉だけれど、面と向かって言われるとやはり違う。つい先ほどまで太郎の動画を見て癒されていたはずなのに、顔がカッと赤くなってしまう。恥ずかしくて俯いていたら頬の感触を楽しむように軽くふにふにとつねられた。

「好きって言えば許されるわけじゃないってのはわかってるんすけど…」

口ごもりながらジュンが呟く。その直後、彼が唾液を飲み込む音が微かに聞こえた。その音が妙に耳に入り込み、なまえは体が熱くなる。

「もう少しだけ、ほんの少し、触ってもいいですか…」
「……」
「好きなんで、もっと近づきたい…」

少し余裕のない表情のジュンが、じっとなまえを見つめていた。その視線が強くて熱くて、勢いに押されてなまえは一度視線を外す。けれど自分も同じ気持ちだった。先ほど抱きしめられた時既に抱えていた感情なのだ。

「大丈夫、です…」

そう震える声で言って、自分から抱き着いた。先ほどは触れ合う程度だった身体が、ジュンの体の熱さがわかるほどに近くなる。

「……、」

ジュンが息を呑むような音が聞こえて、そのまま先ほどとは比にならない力で抱きしめられた。腕の力が強くて少し苦しいけれど、それだけ求めてくれたのがなまえは嬉しかった。

「あんま会えないの、ほんとすんません。オレ、実は結構不安で…」

ジュンが耳元で話し始める。先ほどより甘くなっている彼の声が、よりなまえの身体を熱くしていく。

「…不安て、なぁに?」

空気に飲まれて自分も甘えたような声を出してしまうのが恥ずかしい。こんな声、出るんだ。などと意識の端で思いながら彼の言葉を待った。

「だってオレなまえさんの彼氏なのに全然会いにいけないし、普段電話とメッセージくらいしかやり取りできねぇし…大学に行けば毎日会っている男、とかいるだろうからそういう奴に取られねーか…不安なんすよ」

なまえはなんだ。と体の力が抜ける。その後すぐに、そんなことを不安に思う必要なんてないのに。なんて考えてしまった。なまえはジュンの背に手を回し強くしがみつきながら、「ううん」と唸るように否定した。

「そんなの不安に思わないで。私は優しくて、忙しいのに時間見つけて電話くれて、私のこと気にしてくれるジュンくんが大好きです」
「なまえさん…」
「そんな事言ったら、私だって心配だよ。芸能界って綺麗な人もかわいい人もいっぱいいるもん。私なんて忘れちゃわないかなって」
「そんなわけ…!」

必死になまえの言葉を否定したジュンに、自分ではますます抑えきれない感情を募らせる。

「私も同じ。会えなくても大好きです。テレビでは見れない顔見れるのがこんなに嬉しいなんて思わなかったんだ。今日それが知れてよかった」
「……オレ、顔ずっとにやけてました?」
「ううん。でもかわいいなって思った」
「それも恥ずかしいですね…」
「今日来てくれてありがとう。余計に好きになったよ」
「そんな風に言われると、」

ちょっと、我慢できないんすけど。と焦るように言ったジュンが、一度体を離してなまえを見た。強い視線がなまえを射抜く。

「あの、一回だけキスしても、」
「……えっと、」
「一回だけ…」

そう面と向かって言われると、自然にされるより恥ずかしい。何せ、なまえが是非を選ばなければいけないのだ。

でも、答えはもう出ていた。なまえは小さく頷く。
ジュンの手がなまえの頬に触れた。そっと顔を上げられたなまえは、どうしていいかわからなくて目を閉じた。ゆっくりジュンが近づいてくる気配がして、唇にそっと柔らかい感触が下りてくる。少しだけ押し当てられるような感覚がしてから、ゆっくり唇が離れた。おずおずと目を開ければ、彼の低い満月のような色をした瞳と視線がぶつかった。それが恥ずかしくてふと目線を逸らす。しかしそれが彼は気に入らなかったのか、ジュンはなまえが目線を逸らした方の頬にちゅっとキスをしてくる。

「!!」
「一回だけって言ったのは、唇へのキス、なんで…」
「聞いてない…」
「言ってないです」

そう言って、ジュンが何度も頬にキスをしてくる。それがくすぐったくて、けれど甘ったるくてなすがままにされていたら、やがて満足したのかジュンが体を離した。ホッとしたような、なんとなく名残惜しいような気分になりながら彼を見つめていたらジュンは少し睨むようになまえを見てくる。

「あんま見ないでください…これでも我慢してるんで…」

これ以上何かされたらキャパシティオーバーになってしまう。なまえはごめん、と呟いて、一区切りする為に紅茶を一口飲んだ。

「今度オフの日遊びに来れたら、またしてもいいですか…」

そうねだるように言われて、また心臓が早鐘になる。次の約束が、あまりに甘ったるい。
けれど自分だって、ジュンに近づきたいのである。なまえは頷くと、彼に一つ宿題を出した。

「じゃあ次来るまでに私のこと呼び捨てで呼べたら、その、いいよ」

恋人になってからずっと気になっていたこと。自分は『ジュンさん』から『ジュンくん』に呼び方を変えたのに、彼は『なまえさん』のままだった。彼の砕けた敬語はきっといつもの口調なのだろうから直さなくてもいいと思っているけれど、もっと近づく為には、なまえにとっては大事なことなのである。

「え、それだけでいいんすか?」
「いいよ」

そう軽い口調で言うと、ジュンはカッと顔を赤くした。

「あの、今呼び方変えれば、もっかいしてもいいですか…」
「……変えられますか?」

そうじっとジュンを見れば、困ったように目線を揺らしてから、なまえの耳元でそっと囁いた。

「なまえ…もっかいキス、させてください」
「はい」

すぐそう返事して目を閉じれば、少し乱暴に両腕を掴まれて、さっきよりも強引なキスをされた。実はいっぱいいっぱいなのを必死に隠して彼の唇に応える。キスの合間に名前を呼ばれるのが嬉しくて、思い切って頷いてよかった。と胸を熱くしたのだった。


彼の次のオフが楽しみな反面、次は何を強請られるのだろう。そんなことを考えると、彼の次のオフまで何も手につかなくなってしまいそうで、少し怖かった。

.