自分でも随分と滑稽だと思った。
 それでも、この状況ではどうすることもできないとわかっていた。

 目の前で頭を抱えうずくまるナマエを横目に、僕も同じようにうずくまる。
 ぐわんぐわんと揺れる視界と脳内によって吐き気がする。ああ、どうしてこう僕はダメなんだろう。助けたいと思っていたのに、助けることができない。せめて彼女だけでも逃げられるようにと棺の中の人形に彼女を描いた。しかしそれはハンターもわかっていたようで、ナマエを椅子に縛ることはしなかった。
 彼女も僕も既にこの状態から一度起き上がっている。おそらくこれ以上状態が回復することはできない。

 「…ごめんねカール君、せっかく助けに来てくれたのに。痛い思いをさせちゃって」

 力なく笑う苦しそうな顔がいやに残る。僕は答えるように首を横に振った。
 言葉は出ない。何を言ったところで状況がよくなるわけではないから、何を言っていいのかわからない。ただ、そっと彼女の手を握ることしかできなかった。

 端末から聞こえる心音が微かに響く。近くにハンターが来ている。
 僕は倒れるギリギリに何とか逃げ切り這いずって逃げる彼女の元へ来た。後少し、後少しで彼女を助けられそうだったのに…。恐怖のせいなのか、おぼつかない僕の手は彼女の治療を終える前に動かなくなってしまった。
 二人、フィールドの隅っこでいつ来るかわからないハンターに息を殺す。
 まぁ、ここまでくればもしかしたら場所は気づかれているのかもしれないけれど。
 どうせ僕達しか残っていない。このまま僕らが意識を失えば彼の勝ちだ。

 遠くから微かに愉快そうな鼻歌が聞こえてくる。
 わかってて、来ていない。

 「…これじゃあなんだか心中みたいだね」
 「え…」
 「なんちゃって」

 握っていた手がゆっくりと動く。彼女の手はそのまま僕の頬へ、頭へと優しくなでるように動き、ぱたりと地面に落ちた。

 「私なんかじゃ不満だろうけど」
 「そんなこと!」
 「ん?」
 「…っ、そんなこと、ない…」

 こんな状況でそんなに柔らかな笑みを見せないでほしい。
 別に本当に死ぬわけではないとわかっている。それでもこの瞬間の恐怖はぬぐえない。
 仲間が失う瞬間も、自分の意識がなくなる瞬間も。でも、ナマエはそんなこと気にしてもいないように笑う。どんな時でも、こんな時でも。

 「…ねぇナマエ、戻ったら何をしようか」
 「え?」

 僕の唐突の言葉にナマエは首をかしげる。僕は可笑しくて少し笑って続ける。

 「荘園に戻ったら、まずは暖かい紅茶でも入れましょう。ここは少し寒いから、体が冷えてしまってますし。あぁ、でもお腹も少し空いてるかな。せっかくですし誰かに頼んで甘いものでも用意してもらいましょうか。暖炉の側でのんびり休みましょう。庭で音楽を聴くのも悪くないかな、他には−−−…」

 次々と続ける僕の言葉に、彼女はただただ頷き一言だけ。

 「うん、そうしよっか」

 嬉しそうに答えてくれた。
 もう一度手を伸ばす。それに応えるようにナマエも僕に手を伸ばす。
 お互いの手が握られる。ほとんど力は残っていない、視界はもう見えなくなりそうだ。
 それでも確実に感じる温もりに、あぁ、なんて滑稽な心中ごっこだろうと笑った。

 「じゃあ、私はアッサムにしてね」

 その言葉が聞こえたころに、僕はふっと目を閉じた。