▼2021/07/18:メモ
痛い。頭がガンガンする。トイレに行こう。
「ほんとうざいよねー」
「なかおさきでしょ」
え?どういうこと?さきちゃんの悪口?後ろ姿を見れば御幸くんのクラスの女子だった。
「(名前)ちゃん、?」
「...あ、ごめんどうしたの?」
「...ずっと呼んでるんだけど」
「...あー、ちょっと頭痛くて」
「え、大丈夫?保健室に行く?」
「...大丈夫。1人で行くから」
「そっか、気を付けてね?」
保健室で休む。放課後だ。誰もいないであろう教室。
風邪で休む。
チャイムがなる。
「はーい...」
「あー、すいません、(名前)ちゃんいますか?」
「...」
閉める。
「いやいやいや、ちょっとひどくね?」
「...え、なにこれ夢?頭痛い」
「はっはっは。残念現実でした」
「なんで」
「心配だから」
「とりあえず台所借りていい?って...」
「...ご飯作ってる途中」
「いやいやいや、病人だろ。なんでお前が飯作ってんだよ」
「...私がみんなの帰り待ってないと...」
「...寝てろよ。俺が作るから」
「でも...」
「いーから。気にすんな」
「......」
ご飯作る。食べる
「そういや、カップケーキ美味かったよ」
「え...」
「お前が作ったんだろ?沢村に渡したんだよな」
「......私が作ったのなんて、他のさきちゃん達に比べたら...」
「俺さ、基本的に差し入れもお菓子も受け取らない主義なんだよね」
「...え、」
「何入ってるかわかんないし、1人受け取ったら他からもっとくるし」
「...でも、さきちゃんの受け取ったんじゃ」
「受け取ったっつーか、無理矢理押し付けられたから、後で無理だって返した」
「......」
「だからお菓子食べたのお前のだけ」
「...」
「この意味分かる?」
「...」
「...」
「...さいてぃ」
ここで分かった。さきちゃんが最近元気がなかった理由。
「...最低だよ...女の子がどんな気持ちで渡したのか、どんな気持ちで作ったのか、分かってるの...」
「......」
なんでか分からないけど、涙が止まらない。でも、さきちゃんの気持ちは分かる。恋する女の子がどれだけの勇気を振り絞って渡したのか。そんな勇気が出なかった私からしたら、すごく、すごく頑張ってた。
涙が出ると、更に頭ががんがんして、そんな頭を撫でられた。御幸くんはずっと黙っていた。それでも、大きな手は温かくて、私は意識を手放した。
「...俺、お前のそういうとこ、――
――ほんと好きだわ」
なんて言ったのかは聞こえなかったけれど、頭の温もりはずっと消えなかった。
数日の間だったけど学校を休んで登校すれば、不自然な雰囲気を感じた。クラスの女子。さきちゃんに誰も近づいてなくて、重苦しい空気に吐き気がした。
「さきちゃん...?」
「!(名前)ちゃん!おはよう...!」
声をかけたら笑顔で返してきたけれど、なんだろう。これ。
そしてまた合同体育ではっきりした。誰もがさきちゃんに狙い、当たりが強いボールが跳ね返る。さすがにあれは倒れるし痛いだろう。だけど誰も助けに行かない。なんだこれ。なんなのこれ。
当てたのは以前もいた御幸くんのクラスの女子。何人かのグループだけど、さきちゃんを見ながら笑い声が聞こえることに私は胸糞悪い。あんなにさきちゃんを慕っていた、好いていた私たちのクラスメイトも、見て見ぬふり。居心地が悪そうに、きっとあの女子たちが怖いから、誰も助けようとしない。苛立ちを覚える。
「(名前)、ちゃん...?」
「手貸すから、保健室行こう」
ほら、立てる?と支えてゆっくりと立ち上がる。
「よかったねぇ、まだ心配してくれる人がいて」
謝ろうともしない彼女たちに憤りを覚える。睨むように目を向けると、向こうも私を見た。
「なによ」
「...別に。謝罪もできないんだなと思って」
「わざとじゃないんだからしょうがないでしょ」
「人を傷付けて謝ることに理由なんかいらない」
「なまいき...」
振り返って保健室に急ぐ。私たちが歩き出して運動場を離れた時、背後から気配を感じたけれど、そこにはなぜかボールを持って女子と向き合う倉持くんがいて、彼は何も言わなかったけれど、私は気にせずそのまま保健室に向かった。
あれからさきちゃんのクラスや他の友達からのハブられようは続いた。そして、私への謎の女子からの当たりの強さも日に日にひどくなっていった。ドッチボール当日、保健室に連れていった後、放課後彼女が保健室にいて1人になった私を狙い、暴言を浴びせられ、周りからも白い目で見られ、あることないこと噂を立てられ。
「あんた、そう言えば影薄いから全く知らなかったけどいつもあの女に引っ付いているモブじゃない」
「いい加減あの子と一緒にいるのやめたら?どうせいいように使われてるだけだって」
始めはそんなことも言われた。だけど、本当に苦しんでいる子を1人になんかできない。
「あと、いつになったらあの子に謝ってくれますか」
「とことんムカつくわね。謝らないわよ。わざとじゃないから」
「てゆーか、あんたあの子を守る意味あるの?」
「あいつすごい性格悪いんだよ」
「利用されてんの分かってないの?」
「......」
ぽつりと呟いたら、癇に障ったようで激しく掴みかかり、強く押し倒されて身体に痣を作ったこともあった。
その後保健室に彼女の様子を見に行った時。
「さきちゃん...大丈夫?」
「ご、ごめんね...助けられなくて」
「いいよ、(名前)ちゃんが守ってくれるから」
惨めだな。なんて、自分で思う。いつから私はボディーガードになったんだ。
どんっと誰かにぶつかる。
「...御幸くん」
「何してんの?」
「...別に」
「...なぁ、それ、」
「なんでもないから」
「......」
「俺、お前のそういうとこ、すげぇ好きだぜ」
「え?」
「誰かのために一生懸命なところ。困ってる人を放っておけないとこ、それから」
「か、からかわないでよ!」
「マジ」
「......うそ...」
「次の休み、練習試合あるから来てよ」
「...」
そう言って去っていった。
本格的に暑くなってきた頃
こんなことが数日続き、クラスのみんなもさきちゃんにはほとんど関わらなくなった。私もどうしたらいいか分からなくなる。とりあえず移動教室だったため廊下を歩いていた時間。野球部が廊下を歩き、周りから声援をもらっていた。その中には少しマナーの悪い女子グループもいたようで、キャーキャーと手を振る。それが私たちに強く当たって。
「さきちゃん...!」
目の前のさきちゃんに当たりそうになって、咄嗟に彼女を守る。すると足場が悪かったようで丁度階段に差し掛かって、私はバランスを崩してそのまま転げ落ちた。意識はもう無い。それから何があったのかも分からない。ただ、大好きなあの人の焦ったような声が聞こえた気がした。
目を覚ませば白い天井だった。体を起こそうとすると酷い頭痛に襲われてまたベッドに沈み込む。
完全に病院だ。もうほとんど記憶にないけれどたぶん朝。なんかやっちゃった感じがする。
...このまま学校行かなかったら、楽になれるかな、なんて考えた。でも、彼女のことを考えると、なぜかじっとしていられなかった。
学校へ行く。身体もまだ完治ではないので入院した書類を職員室に提出して帰る時。廊下で罵声が聞こえた。
「(名前)ちゃん...」
「やりすぎでしょ」
「あんたもしつこいわね」
「それ以上やるとさすがに許さない」
去っていく。
「...なんで...私、(名前)ちゃんに酷いことしたのに...」
あの人たちの言う通り。いいように利用されてただけ。でも、
「...知ってた。知ってて、それでも、離れられなかったのは、私が弱かったから」
「...でも、」
「...それに、」
「...」
「それに、あの日、入学式の日。同じ中学の友達も居なくて、1人だった私に声をかけてくれた。それは、本当に嬉しかった」
「...(名前)ちゃん」
ごめん、ごめんね。そう何度も謝るさきちゃん。
「...私ね、振られたよ」
「え?」
「...御幸くんに。でも知ってた。御幸くんがずっと1人の女の子にしか興味が無いなんて」
「...」
「だから私、応援する」
「...」
「(名前)ちゃん。頑張ってね」
横を見れば見慣れない花が置いてあった。
そろそろ夏休みだ。甲子園。それもあるだろう。御幸くんの言った言葉が頭から離れない。私は少し重い気持ちでグラウンドへ向かった。