第一印象は少し大人びた真面目な好青年だった。目標に向かって真っ直ぐ進む頑張り屋さんな子。思わず応援してしまいたくなるような子。同期のみんなもそうだったけれど、その子だけはどうしてか目で追ってしまうようだった。それが気になると自覚すれば、特別になるのは早かった。
「芹沢ちゃん、今回の隊士も頼むわ」
「はい。既にデータはいただいてるので、簡単な測定が終われば大丈夫ですよ」
「さすが仕事が早いなぁ」
副隊長へ書類を渡す。
「今週末に朝9時からです」
「助かるわ。他の怪我人も見なあかんのにすまんな」
「いえ。お易い御用ですよ」
医療班として勤めていた私が、今回入隊する隊士の健康診断を行う予定だった。
試験中、四ノ宮キコルが負傷し、目が覚める。
「気分はどう?」
「…はい、少し痛みますが、」
「点滴で鎮痛剤を入れてるから少し和らいでると思うわ。後は安静にしてたら良くなるから」
「ありがとうございます、」
「それから、1週間後に定期健診をするから、体調管理を整えておくように」
副隊長の声で解散となった。少し後ろで私もお辞儀をして帰る
それからすぐに訓練は始まった。保科副隊長の厳しい訓練にもみんなしっかりついていっている。四ノ宮さんの様子を確認に来たけれど、一際目に入ってしまったのが彼、市川レノくんだ。
「おぉ。どないしてん芹沢ちゃん」
「はい。四ノ宮さんの処置後観察で」
上から見る中で彼が銃を打っていたところだった。
「芹沢ちゃんが気になるなんて珍しいな」
「え?」
保科副隊長はニコリと笑ってまた下を見た。
「彼、新入隊員の中ではトップクラスの成長スピードや。技術面の順位は芹沢ちゃんも知ってると思うけど伸び代があるのは市川レノやな」
再び私を見られて何だかむず痒くなった。気になってはいるけれど何故かそんな面白い感じに捉えないでほしい。
「応援したくなるって感じです。あ、…あまり変な感じにしないでください」
「ははっ。そりゃ良かったわ。芹沢ちゃんのファンが泣くからな」
「またからかって……!」
「いやほんまやって」
笑う保科副隊長に背を向けてバインダーと書類を持って下へ向かう。
「ほな外周回って今日は仕舞いや。四ノ宮、経過観察があるから終わった後来てくれるか」
「は、はい!」
外周が終わる頃に下へ向かった。みんなは防具を外し帰り支度をしている途中だった。もちろん、その中に彼もいるのだけれど。
私の顔を見て四ノ宮さんが駆け寄る。
「芹沢さん!お待たせしました!」
「ううん、上がりなのに時間とってごめんなさいね」
「い、いえ!そんなことないです!」
「ありがとう。すぐ終わるから、そこに座ってもらえるかな」
私の声に従って椅子に座った彼女の腕をとる。
「うん、筋肉も血圧も安定してるね。あとは傷を庇うようになるのが癖になっちゃうから、それが無くなるように重心強化に努めてみて」
書類とデータを見ながら伝える。四ノ宮さんは目を輝かせて頷いた。
それから1週間後の定期健診。
1人ずつ身体測定も主だけれど、その後のデータ化してそれぞれの筋力などのチェックも可能となる。
まず違和感を覚えたのは日比野カフカだった。採血による少し遺伝子に変化があった。怪獣の研究もしている立場の私は確信はないけれど可能性は感じていた。ただ、訓練中の彼を見ていれば誰にも言うことはできなかった。
「食事量や睡眠にも問題はないですか?」
「はい!特には」
「そうですか。もし何かあれば伝えてくださいね」
善良を集めたような人。太陽のような人だと思った確信ができたらにしてみよう。そう思った。
「よろしくお願いします」
初めての会話はそれだった。
「入隊して1週間だけど、体調面は問題ない?」
「はい」
「分かりました。検査結果も今のところ異常ないので何かあればすぐ言ってくださいね」
「あの。自分はもう少し瞬発力を上げたいのですが、どのトレーニングが適してますか」
「え?」
「この前四ノ宮に体力調整のアドバイスしてましたよね。俺にも分析可能でしょうか」
人の事よく見てるな。
「市川くんは年齢的にもまだ成長期だから、いまの基礎トレーニングでも身体能力は伸びるはずだよ。あとは、左足に力が寄っちゃうからバランス力で筋肉の分散を意識したらいいと思うよ」
「……ありがとうございます!」
何故か無理しないでね。とは言えなかった。
「応援してるよ」
「はい!」
笑顔で退出した彼の背中を見つめた。
「2人とも声でかい!」
「かい、じゅう…?」
ぽかんとしたように見つめる芹沢。
「あ、えと!それは…」
「日比野さんのことかな」
「え」
驚かない様子の彼女に今度は3人がぽかんとした。
「場所、変えた方が良さそうかな」
彼女の計らいで場所を変えた
「えと、芹沢さんは気づいてたんですか」
「健診からずっとね。私、怪獣の分析もしてたから、日比野さんの遺伝子細胞に少し違和感があって」
「おおおねがいします!このことはどうか内密に!!」
「ちょ、先輩!」
「なにやってんのよ日比野カフカ!離れなさい!」
芹沢さんに飛びつく先輩を四ノ宮と引き剥がす。何故か彼女には安心感があった。ここまで落ち着いて俺たちに話をしている。本来ならば隊に報告して先輩はもういないはずなのに。彼女はきっと誰にも話していない。分かっていたのにも関わらずどうして。
「確信は無かったから、っていうのが前提にはあるけど、私は日比野さんを危険だとは思えなかった」
「…え」
「今だってそうです。こうして2人ともあなたのことを守ってる。例え怪獣だったとしても、あなたを大切に思ってる人がいるから」
「べ、別にこんなおっさん大切だなんて!」
四ノ宮は少し照れながらそっぽを向いたけど、先輩は驚いたように笑った。
「もちろん正直悩みました。だけど今ちゃんと日比野さんと話して、思いました」
考えるような素振りを見せる芹沢さん。長いまつ毛が影を落とす。どこか過去を思い描くように。
「やっぱり怪獣のことは、きっとよく思わない人はいると思います。受け入れてくれるとは思えません。それが防衛隊なら尚更」
真っ直ぐ見つめる彼女に先輩も俺も息を飲む。
「でも、私は日比野さんを信じたいって思ってます」
背を押すように、微笑んだ彼女に見とれた。
「あ、ありがとうございます!」
頭を下げた先輩に続いて俺も頭を下げる。
「か、顔を上げてください!そんな大したことじゃ……」
「いや、なんか頑張ろって思えた。俺防衛隊に入ってよかったわ」
怪獣も人間も、共存できる世界だったら。そう誰かが言っていた。怪獣が悪なのか人間が善なのか、そんなこと誰にも分からない。ただ、誰も傷つかない世の中になればと考えるだけは許して欲しい。
「ただ、日比野さん怪獣のコントロール」