「遅れてごめんなさい」
「おー!やっと来たか!ここ座りや!」
遅れて参加した時にはすでに盛り上がっていた会場。
「名前さん!俺ちょっと挨拶に…」
「ちょ、私も!」
少し見渡せば市川くんもこちらに視線を向けていて傷も良くなったようだしホッとして微笑むと急に目を逸らされた。
「あの!この前はお世話になりました!」
「伊春くん。体調も回復して良かった」
「私お酒継ぎます!」
「ありがとう四宮さん」
懐いてくれる2人と話して数杯お酒も嗜んだ。
「杜鵑さん。」
「この前の治療、本当にありがとうございました!」
「ううん、順調に回復してよかった。」
グラスを片手に笑う李灯。
その笑顔につられるように、周りからも笑い声が広がる。
「李灯さん、今度またトレーニング見てもらってもいいですか!」
「もちろん。時間が合えば一緒に考えようか。」
「やった!」
「俺もお願いします!」
「はいはい、順番ね。」
困ったように笑いながら一人ひとりの話を聞いていく。
その姿は、いつもの医療班班長だった。
誰に対しても分け隔てなく優しい。
だからこそ自然と人が集まる。
(……すごいな。)
少し離れた席から見つめるレノは、小さく息をついた。
あの輪の中心にいるのが、あまりにも自然だった。
誰かが話しかければ笑って返す。
誰かが相談すれば真剣に耳を傾ける。
皆が安心して彼女の名前を呼ぶ。
「李灯さん。」
「杜鵑さん。」
「班長。」
そのたびに優しく微笑む姿を見ていると、胸の奥が少しだけ締め付けられる。
(……遠い。)
医務室では二人きりで話せる。
少し照れた笑顔も見られる。
「頑張ったね。」
そう言って笑ってくれる。
でも。
ここでは違う。
自分だけが知っている表情なんて、一つもない気がした。
⸻
「おい。」
伊春がレノの肩を軽く叩く。
「聞いてるか?」
「……あ。」
「何ぼーっとしてんだよ。」
「すみません。」
「さっきから杜鵑さんしか見てねぇじゃん。」
「見てません。」
「見てるって。」
「見てません。」
「いや、絶対見てる。」
伊春が笑う。
その様子を見てカフカも肩を揺らした。
「市川って意外と分かりやすいな。」
「違います。」
真顔で否定する。
だけど。
否定しながらも視線は自然と李灯へ向いてしまう。
(……なんなんだ。)
自分でも分からない。
話したい。
近付きたい。
でも。
あんなに人に囲まれている彼女を見ると、なんとなく足が止まってしまう。
「名字さん」
「市川くん」
市川くん、と呼ぶと少しムッとした表情の彼。
「どうしたの?」
「いえ。」
少しだけ視線を逸らす。
(なんだろう。)
前までは。
その呼び方で何も思わなかった。
でも今は。
“市川くん”
その距離が。
少しだけ遠く感じる。
「傷、もう大丈夫?」
「はい。」
「痛みは?」
「ありません。」
「よかった。」
そう言って笑う。
その笑顔を見るたび。
胸の奥が温かくなる。
李灯が心配そうに覗き込む。
「本当に大丈夫?」
「……はい。」
そう答えながらも。
胸の中には、小さなもやが残ったままだった。
どうしてだろう。
伊春には”伊春くん”と気軽に笑う。
キコルには”四ノ宮さん”と優しく微笑む。
自分にも同じように接してくれている。
それなのに。
“自分だけ特別になりたい”
そんな言葉にもできない感情が、胸の奥で小さく芽生え始めていた。