「謝ってください」
凛とした声が響いたのはそこだった。
「名前ちゃん、もうやめなさい」
「いいのよ、あなたが危ないわ」
それでも彼女は譲らなかった。
「おい女。俺が間違ったこと言ったか?」
「お金はいいです。ただあなたの言葉に対して謝罪すべきだと思います」
恰幅ある男に負けじと見上げる彼女。
強い女だと思った。
虫も殺せぬような太陽みたいな明るい笑顔を振りまいて、輪郭もぼやけるような軟弱な喋り方と澄んだ声と、喜怒哀楽の怒は母ちゃんの腹の中に残してきたんじゃないかというほどお人好しな性格で。
万事屋も近藤さんや土方や真選組のヤツらも誰が見てもそう思っただろうに。だけど、自分の決めたことはやり通す曲がったことは嫌いなその芯の通った魂に、不覚にも強い女だと思った。
だからこそ彼女に惹かれるヤツらは多いのだろう。このかぶき町でバカみたいに騒ぎ立てる連中にも流されず、だけど人を選ばず、出会い別れ人を大切にしている彼女だから、俺も不思議と惹かれたのだろう。
その姿はいつか見たあの料亭の女だった。
忙しなく動き回る従業員。お役人の奴らに横暴に振る舞われ指図され、それでもペコペコと頭を下げる皆は気疲れしてなんとも言えない顔つきしかいないと思っていた。護衛で行ったがこいつらはこんなペコペコする人生で楽しいのだろうかと、つまらない護衛についている時に辺りを見ていた。
そんな中、ただ1人、お待たせしました。こちら刺身盛り合わせです。凛とした声。ただ、楽しそうに。働いている彼女が目に入った。
それからあの料亭は潰れたと耳にした。
ふらりと行った団子屋に、彼女の姿が目に入った。今もそう。あの時の楽しそうな笑顔とは違うが、凛とした声は変わらなかった。