日が傾き始めた校舎は、昼間のざわめきが嘘みたいに静かだった。
廊下を歩いていると、
ひとつだけ灯りのついた教室が目に入る。
――新入り。
机に向かって、背筋を伸ばして座っている女の子。
ペンを持つ指先の動きはゆっくりで、でも迷いがない。
……まだ、勉強してるのか。
ここ数日で分かったことがある。
おっとりしている。
人当たりが柔らかい。
でも、芯が通っている。
放っておけば無理をする。
自分のことは、後回しにするタイプの善人だ。
……柄じゃない。
そう思いながらも、
気づけば教室の敷居に足をかけていた。
「……」
一歩、足を踏み入れる。
かすかな物音に気づいたのか、
彼女は静かに顔を上げた。
「……あ」
柔らかい表情。
性格の良さが、そのまま滲み出ているみたいな微笑み。
「伏黒くん、どうしたの?」
「別に。通りかかっただけだ」
そう言って立ち止まったままになる。
「……そっか」
納得したように小さく呟いて、
また教材に視線を落とす。
……が。
ペンを握っている右手が、止まったままだ。
伏黒は、自然とその文面に目をやった。
……ここか。
「これは」
考えるより先に、口が動いた。
「術式の要領を整理して、
呪力量を足して考えれば分かる」
自分でも驚くくらい、ぽろっと出た言葉だった。
彼女はまた顔を上げて、
今度は真剣に問題を見る。
「……あ」
数秒後。
「そっか!」
ぱっと表情が明るくなって、
今度は迷いなくペンが走り出す。
スラスラと解答を書き進めていく。
「……」
その様子を、伏黒は黙って見ていた。
「ありがとう、伏黒くん」
書き終えてから、またこちらを見る。
「助かった」
にこっと、控えめな笑顔。
……真面目すぎるだろ。
そう思うと同時に、
胸の奥が、少しだけこそばゆくなる。
「……別に」
ぶっきらぼうに返しながら、
伏黒は前の椅子を引いた。
「ここ、他にも分かりにくいとこあるだろ」
「……え?」
「勉強、教えてやる」
仕方ない、という体を装って腰を下ろす。
彼女は一瞬きょとんとしてから、
嬉しそうに、でも遠慮がちに頷いた。
「……うん。お願いします」
……満更でもないな。
そう思った自分に、
少しだけ苦笑しながら。
伏黒は静かに、
隣でノートを覗き込んだ。