お店の前で立ち往生していた時だった。
坂本商店はこの街ではこじんまりしているけどなんでも売っていて、尚且つ困った時はなんでも助けてくれる何でも屋みたいなもので、仲良し夫婦と子供と3人で営業している親しみあるお店。
私もたまにだけれど何度か利用していたから何も戸惑うことなんてないはずなのに、最近1人の男の子に遭遇して、それがこのお店の新人バイトと分かって声をかけるか否かずっと悩んでいた。
それがたまたま帰ってきた葵さんに発見されて、尋問されて何故かキラキラした目で背中を押されたのが私の予想外の出来事の始まりだった。
「シンくんでしょ!名前ちゃんの言ってる男の子!」
「た、たぶんそうです…」
「危ないところを助けられて恋に落ちるなんてロマンチックね〜!シンくんすごい良い子だし絶対いいと思う!ほら!デートにでも誘っちゃいなよ!」
「え、いやいや…!そこまでは!」
平凡に生きてきて何もない普通の私には、確かに彼はかっこよくて人生で初めて自分から人目だけでもお礼がしたい、声をかけたいと動いてここまで来たのも事実だ。
本当はそう、お礼をして名前を聞いて、それだけでいいと思っていたけれど、葵さんの言葉や、改めて彼を見て、もっと仲良くなりたいなんて思ってしまった。
彼にとっては名前も知らない初対面の女に連絡先を教えてくれと、ご飯に行ってくれと言われて困惑しただろうし、気持ち悪かったかもしれない。それなのに、誘ったご飯も少しドライブに連れて行ってくれて、日が沈む頃には家まで送り届けてくれた。なんて健全なデートだっただろう。
それからまた数回、頻度が多いわけじゃないけど毎日欠かさずメッセージは送ってくれるし返事もしてくれる。葵さんが言っていた通り、本当に良い子で好青年だ。
今日の夜もシンくんに一つメッセージを送って布団に潜り込んだ。
──明日は友達とシュガーパークに行くから少し早いけど寝るね
おやすみなさい。と送って携帯を伏せた。ものの数分で返ってきたメッセージは確認しなかった。
いつかシンくんとも一緒に遊園地デートとかもしてみたいな、なんて。その願いがすぐ叶うことも知らずに。
──え!?あの!明日じゃなくて明後日の方がいいかもしれないです!明日はパレードも少ないみたいですし…
▽▽▽
「名前さん…メッセージ見てねぇ…」
「どうしたネ。スマホばっか見て」
「いや、別に…あ!返ってきた!」
──ごめん!朝からバタバタしてて!今友達とも合流しちゃったの…!
「……来ちゃってた〜……」
「名前も来てるのカ?すごい偶然ネ!良かったなシン!」
「ばっか!今この遊園地は殺し屋がわんさかいるってことなんだよ!名前さんまで危険にさらされたらどうすんだ!」
翌日、坂本家もシュガーパークにやってきていた。ただ、懸賞金をかけられた坂本に殺し屋が襲ってくるかもしれず、それに対して今日名前もこの場に来ているため、もしかしたら危険にさらされると心配でたまらないシンに坂本は肩を叩いた。
「奴らの狙いは俺だ。彼女とは接触しなければ危険にはならない」
「そ……すね」
何処か考えるようなシンに早速どこからか悲鳴と大きな音が届いた。
.
「名前ちゃんだ〜!!」
「あれ!偶然ね〜!」
「葵さん!はなちゃん!」
駆け寄ってきてくれたはなちゃんをしゃがんで受け止めて顔を上げる。まさかこんなところで会うなんて。
と、この2人がいるなら坂本さんもいるはずだ。そこから更に結び付けられる人に少し期待を乗せて辺りを見渡す。
「皆さんで遊びに来たんですか?」
「ええそうなの。今日はお店も休みでね名前ちゃんはお友達と?」
「あ、そうなんです…けど、」
バタバタと走ってきた坂本さんとルーちゃん、そしてシンくん。何やら焦ったような表情をしていて、不安な気持ちになった。私が今日来ると知っていながらも、今日は来ない方がいいと言うようなメッセージを送られてきた。何か理由があったのだろうか。それとも、私に会いたくなかったのだろうか。
目を合わせられなくて逸らしたまま葵さんの方へ向く。
「さっき急にこの乗り物が故障したみたいで、友達が気を失っちゃって医務室に運ばれたの、心配なんだけど放って帰る訳にも行かないし、どうしようかなって…」
特に大きな事故では無いから怪我人もいないし、他に乗っていた人も数人運ばれた。友達も少ししたら目が覚めると思うとお医者さんは言っていたし、それまで1人でどうしようかと思っていた。
「あらそうなの?じゃあ私たちと一緒に回りましょう」
「え、でも…」
「一緒にいこ!」
はなちゃんに手を取られて断る訳にも行かず、引かれるままについて行くことになった。少しだけ見えたシンくんや坂本さんの表情が困ったように見えてやっぱり会いたくなかったのかと気持ちが沈んでしまった。
「名前さん、あの…」
「はなちゃん!わたあめ食べよう」
「名前ちゃん、シンくんの隣に座りなよ」
「だ、大丈夫です!こっちに行きます!」
いろいろと乗り物にも乗ってご飯も食べて、だけどシンくんとは何故か話せない。そもそも彼達は私たちよりも1歩後ろの方にずっといる。不思議な感覚に違和感も感じるのは私だけではないみたいで、何度か葵さんも彼らを変だと疑うけれど誤魔化すように流される。
あまり気にしない方がいいのだろうか。せっかくシンくんといるのに全然話せないし、気まづい態度をとってしまう自分もいる。
「シン、お前避けられてないカ?」
「はぁ!?ンなことねぇ…はず」
そんな中で最後にお化け屋敷に向かった。
飛び出してくるゾンビに震えながらも前に進む。
「名前さん…!!!」
目の前が突然暗くなって、そして暖かかった。
何かの爆発音と共にシンくんが私を抱き締めている。
「こっちです!」
連れて行かれて葵さんとはなちゃんは気を失っている。シンくんは私を庇って守ってくれた。それはいつかの彼に見惚れたあの時と同じ。
大きな手のひらが私の手を包む。
と同時に、私は目の前に繰り広げられる見慣れない戦闘に呆然とするしかなかった。
「シンくん、」
「すみません…その、いろいろあって名前さんのこと危険に巻き込む訳にはいかなくて…」
わたわたと焦ったように説明を始めるシンくん。冷や汗も止まらないみたいにいつもの爽やかな雰囲気とは違ってなんだか面白い。
それでも、私を守ってくれたことも思わぬ場面でこうして彼と遊園地で過ごせたこともすごく幸せだったし、私を巻き込まないために今日来ることを懸念したことも嬉しかった。
「何も聞かないよ」
「え……?」
「いろいろあったってこと。でももし抱えきれなくなって助けて欲しいってなったら、いつでも私に教えてね」
「……、」
ぴくりと突然彼の動きが止まって、少しずつ顔に赤みが差していく。なんだか今日一日だけでもシンくんのいろんな顔が見られて楽しい。
「シンくん?」
「…あの、えっと、」
「?」
「ちょ、…いまこっち見ないでください、」
両手で隠すようにして顔を逸らす。愛おしさも彼といると増すばかりでどうしようもない。
あの手を握ってくれた感覚も、抱きしめてくれた感覚も忘れられないものになる。
友人も目が覚めて家に帰って一つメッセージが届いた。
──次は一緒に行きましょう
二つ返事で送り返すと共にベッドへダイブする。初めはこんなにも親密になりたいなんて思わなかったのに、気持ちは増すばかりで、既に彼に会いたいと思って今日も瞳を閉じた。