「俺は頭にきて、おまえにつらく当たるようになった。いっそ、もっと嫌われてやろうと思った。けれど、それはバカみたいな考えだった。おまえに避けられるようになって、俺は余計に腹が立って……好きになってもらえないなら、恐怖で支配すればいい、そんな風に考えるようになって……本当に馬鹿だ。俺は……」
「ボー、あのとき、私……びっくりしたの。好きでもない男の子と二人で出かけたいなんて思わない。あれで……ボーともっと仲良くなれたらいいなとは思ってた。でも、キスされるとは思ってなくて……そういうのは、大人のすることだとか思ってたし」
ユラが顔を上げると、ボーは心底驚いた様子だった。
「じゃあ、俺のこと好きなのか?」
「そうみたい。嫌いになれれば楽だった時期もあるけど、ずっと嫌いになれなかった」
「そうか……じゃあ、今ここでキスしたら……」
「試してみて」
ボーの柔らかな唇がユラの唇にそっと触れた。あの日のように。あの日と違うのは、もうユラはキスで驚いて逃げ出すことはないということと、あれから二人ともすっかり大人になったということだ。
どうしてこんなにも遠回りをしてしまったんだろう? ユラはそんなことも一瞬考えてみたが、ボーのキスによって何も考えられなくなってしまうのだった。
ユラが家に帰ると、蝋人形になって踊る両親と、ソファに座る蝋人形の兄がいた。すっかり慣れてしまった光景だったが、今日はなぜか異様なものに見えた。この町自体、狂気に満ちている。どうして、こんな悪魔の所業に手を貸すつもりになったのか。これはボーに恋したその日から決まっていた未来なのだろうか。
ボーは普通じゃない。そんなことはずっと前からわかっていた。けれど今ではユラは、この家もこの町も居心地が良いと感じるようになってしまっている。初めてキスをしたあの日に、ボーの狂気をユラの体はすっかり吸い込んでしまったのかもしれない。もう後戻りはできない。ユラはボーのためにもこの町を素晴らしいものにしようと改めて決心するのだった。