第1話

もしも、もしもの話だよ。
と、有利が珍しくすごく真剣な顔で話しかけてきたから、最初は何事かとドキリとした。けれどだんだん冗談を言うようなトーンになって「実は俺、魔王だったんだって〜。あはははー」となんとも突拍子もない事を話すものだから、最初は有利までお兄ちゃんみたいになっちゃたのかとちょっと呆れ顔で聞いていたのだ。
でもその瞳は真剣のあまり揺れていて``ああ。勇気を出して話してくれたん´´って思ったのだ。だから私は有利の話しをすんなりと受け入れたし、有利の話しをすぐに信じた。
そりゃ、到底信じられない話しだったけど....。正直、信じない方が人として普通なのだと思う。でも、世界で唯一無二の片割れが言う事を、私が信じないで誰が信じるっていうの?
けれど、そんなにあっさり信じるとは思っていなかったのか、あの時の有利の顔は面白かった。
有利の口から出てくる言葉はテレビや本の中で聞くようなファンタジックなものばかりで、実は私も見てみたいなって思ったのだ。だって、魔法とか空飛ぶ種族とか誰でも1度は憧れるものでしょ?

「........っう」

あ、どうしよ。また立ちくらみだ。
最近なんだかよく調子が悪くなる。いきなり頭痛や目眩がして、力が抜けて立っていられなくなるのだ。ただの貧血かと思ってお母さんやお父さんには言ってないのだけれど、ここのところ結構酷い.....。次の休みにでも病院にいった方がいいかな。

(よかった。治まってきた。)

電信柱に手をついて目眩をしのいで、 ふと顔をあげた時だった。目の前が一瞬にして真っ白になった。目眩で倒れたとか気を失ったとか、そう言う真っ白ではなくて、なんというか....暖かい光に包まれたような....。どっちにしろ、思わず硬く目を瞑ってしまうとても眩しい光だったのだ。

「.....え?」

でもでも!目を開けた瞬間に私は呆然としてしまった。
だって目の前には、シンデレラに出てきそうなおっきなお城があるんだもの!

(ていうか、え?ここ何処??このお城なに!?)

太陽が雲に隠れて辺りには陰がさしていたけれど、お城の姿ははっきりと私の目に映っていた。
私の頭はパニック状態。思考はログアウト。
思わず手に持っていた鞄をぎゅっと胸に抱き締めるとウサギのヌイグルミのキーホルダーが、ゆらゆらと揺れるが微かに見えた。

(かばん....。そ、そうだよ。わたし、学校からお家に帰る途中で.....!!)


「何者だ」


「え?」

反射的に振り返った先にいたのは、銀を散らした瞳で私を睨む男の人だった。

(........あ...あ)

射殺すかごとく睨み付けてくる瞳に、私の身体は金縛りにあったみたいに言うことをきなくて、あわあわと視線を左右に振るだけで精一杯だった。

手にはいわゆる剣とか刀と呼ばれるものだろうか。
スッとより瞳が細められると、その人は腰からそれを抜いて私の方へ構えてきた。

(.....っ!!)

多分すべてが突然すぎて、今まで不安や恐怖と言うものは感じていなかったのだと思う。けど、その人が剣を向けられて、今まで感じなかった恐怖がドッと押し寄せてきた。

「答えてもらおうか。どうやって城の中にはいった。」

「...あ、......あぁ...」

そんなの私が知りたいのに。どうして怖い顔するの?どうして剣を私に向けるの?やだ、やめて、おろしてよ。怖い。逃げないと殺されちゃう。そう思うのに、身体は言うことを聞いてくれなくて、目は男の人の顔からはなせなかった。
雲がそれたのか太陽が顔を出して辺りを照らし、その光は男の人をはっきりと映しだした。

「................#ナマエ#?」

男の人が何て言ったのかは聞き取れなかったけれど、目を見開いて驚いた顔をした(ように見えた)あと、剣をしまってくれたのがまだ救いだった。

「こ、こっち、来ないで!」

救いだったが、あろうことか。その男の人がこっちに向かって歩いてきたのだ。いや。こないでよ。
言うこと聞かない足をなんとか動かして後ろに下がると、彼が口を開いて何が話そうとした時だった

「由子!??」

聞こえて来たのは毎日聞いてる声で。走って現れたのは双子の兄だった。

「....有利?」

「なに!?なんで!?なんで由子が眞魔国にいるの!?......って、由子?」

有利が驚いた顔でガチガチの私のとなりにきて、覗きこんでくるものだから、驚きと、安堵と、なにがなんだか分からない感情が全部入り交じり、なんとも言えない感情と涙がこみ上げてきて、有利がしりもちをつくのも構わず勢いよく抱きついた。

「ゆぅぅりぃぃぃぃぃぃぃ.....!!!」

他にも沢山人が来たようだったけれど、そんなこと知ったものか!だって、だって本当に怖かったんだかっ!

抜け切らない恐怖がまた襲ってきて涙が再びこみ上げてきて、私は有利にしばらく抱きついたままだった。





****





「ったく。やーと離れたよ由子やつ。」

さっきまで俺の胸で泣きじゃくっていた由子は、俺のベットで安心しきった顔で寝ている訳だけれど。

「なんか赤ちゃん寝かしつけた気分だよ」

そりゃ、いきなり異世界に来たら驚くのも分かるけどここまで引っ付いて泣かなくてもよくね?
俺だって最初はびっくりしたよ?泣きたい気分だったよ?....まぁ、俺の場合、ちがう意味のビックリで泣いてる暇もなかったけどさ。

「俺が怖がらせてしまったんです。」

「怖がらせたって?.....コンラッドが?」

「はい。日の加減でよく見えなくて....その、剣を向けてしまったんです。」

髪の色も目の色もよく見えなくて。それにユーリを狙った侵入者かと思いったんです。.....と、困ったように続けるコンラッドに俺、唖然。
剣を向けたって....しかも侵入者かと思ったて事はあれだろ

「もしかして、こわーい顔で睨み付けちゃった、とか?」

ほぼ確信で聞く俺にそれはそれは爽やかな苦笑でかえしてくるけど、コンラッド!笑い事じゃないから、それ!あんたの怒った時の顔、まじで怖いから!喰われると思うから!

「あちゃー。だったら、あんだけ泣くのも納得。
天然たらしのコンラッドだったら平気だと思うけど、あとで由子に誤っといてね。俺、名付け親と妹が仲悪くなるのなんてヤだからね」

「もちろんです。
それに、ギュンターにもこってり叱られてしまいました。」

ああ。あの後は大変だった。
由子が俺にしがみついて泣いてる間に皆集まってきて、ヴォラフラムは浮気者ーとか騒ぎだすし、ギュンターはすんごい勢いで汁撒き散らすし、グウェンダルは無言の圧力でこっち見てくるし....

それにしても、どうして由子までこっちの世界に来てるんだろうか。
ギュンターがいうにはウルリーケは由子をこっちに呼んだ覚えはないっていうし、そもそも分かっていたらコンラートだって剣なんて向けなかっただろうし....。
まぁ双黒で魔王の妹だし手荒に扱うことないと思うけど....
というか、由子を見たときのギュンターの汁は一段と凄かったな....。至るところからギュン汁が.....!!
てか、あれを見て由子は更に怯えたみたいだったし。
グウェンダルも何時もより眉間のシワ三倍ましで渋い顔してたしなー。

あー....だめだ。全然頭回らないや。やっとの思いでモルギフをもって帰ってきて、一息ついたとこだっしなー。

「由子も起きなさそうだし、とりあえず俺、風呂にでも入ってさっぱりしてくるわ。コンラッドも部屋に戻ってもう休んで。」

「分かりました。ではまた明日、伺いますね」

俺は疲れを癒すべく風呂へと足を進めた、のだが

「 ...........って、え!うそ!?このタイミングで!??」

浴槽に足を入れた瞬間をお湯の渦がおれ飲み込こんで....この感覚は.....!
まさか、まさか!このタイミングでスタツア!?由子いるのにどうするのー!??


――斯くして、俺は可愛い妹の姿を思い浮かべながら地球へ帰るのであった.....。


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