1.泡雪

あんなに慣れなくて、サイズがかなり大きいとさえ感じていた制服も、1年経てば随分と自分のものだという感覚が湧いていた。

"着られている"といった、初めの方に色んな人から出てくる言葉なんて無かったくらいに、珍しい配色のセーラー服は馴染んでいる。4月とはいえ、まだまだ肌寒い季節だった。

一年前の今頃は、無事に受験を終えて入学した私立の中学校での生活に胸を躍らせていた…と、思う。たった1年前のことなのに、あまり詳しく思い出せない。
1年間この青春学園で過ごした日々は、実際の日々よりも長かったような短かったような濃さを持っていた。…私は、今日の始業式で無事に2年生へと進級しようとしている。

何故地元の公立中学ではなく私立を選んだかと問われれば、今ここで青学に入学してしまえば高校、上手くいけば大学までこのままエスカレーターで上がれてしまうからである。小学校までの友達つきあいよりもそちらを選べてしまう自分はなんだか少し薄情な気もしたが、自転車で通える距離にあるこの学校は、私にとってとても好都合だった。


校舎の前に学年別に貼り出されたクラス名簿の中から、"みょうじなまえ"の文字を探す。

「…おいみょうじ。お前、何組だった。」

ふと背後から、すっかり声変わりし切った低い声が聞こえてきた。

「ああ、海堂じゃん。まだ見つけてないよ。…そっちは?」

振り向いて答えると、そこには大きめのバッグを背負った目付きの悪い男子が立っていた。
海堂薫。1年生のときに同じクラスで、特別何か関係があった訳ではなかったものの、何かと縁があってよく行動を共にしていた。

「俺は7組だった。」

私より早く到着していたであろう海堂は既に自分の名前を見つけていて、"お前の名前は7組にはなかったな"と付け足した。

「あらら、そうなのか。じゃあ今年は別々なんだ。去年はお世話になりました。ありがとうございますゥ。」

態とらしくお辞儀をして見せると、「思ってもねェ癖によくやるな」と呆れ気味の声で言われる。あまり冗談は通じないけど、芯の通った接しやすい男子で、1年の時に同じクラスだった男子の中では最も会話をした奴だったと今更ながらに思う。

「酷いなあ、3割くらいは思ってるって。………ていうか、私何組なんだろ。うーん」

軽口を叩きながら巨大な紙の上に目線を滑らせ、自分の名前を探していたその時。後ろから「あぁ────っ!!!あったァ!!!!」と叫ぶ声、そしてそれとほぼ同時に海堂の大きな舌打ちが聞こえた。

「………うるっせェんだよ桃城の奴、」

元々悪い目つきを更に悪くし、言葉尻に長く息を絡ませて吐き出す彼の目線の先には、快活そうな男子がいた。

「え!ちょ!見てくれよ!俺、2年8組16番!2×8=16!!すげー覚えやすくね?!」

うわぁ、わかるけど、しょうもねぇ。

思わずそんな感想を抱いてしまったものの、確かに気持ちいいくらい九九に当てはまっている。そんな彼の声につられて8組の名簿をぼんやりと眺めていると、その中に自分の名前を見つけてしまった。

「ああー、わたし、8組だ…」

ぽつりとこぼすと、海堂は気の毒そうに私のことを見た。

「喧しい奴と同じクラスになっちまったな。まぁ、せいぜい頑張れ」

喧しいというのは手に取るように分かる。別に煩いのは嫌いではないし、暑苦しさに巻き込まれなければいいか…と思ったその時、私ははたと気がついた。

「………桃城?そういや海堂、テニス部で一緒じゃなかったっけ、」

時々海堂がこぼす愚痴の中に出てくる部活の部員の中に、そんな名前の人がいたような。そして、海堂があれだけ言うなんて思ったよりも面倒くさい人なのかも、なんて、大して知りもしないのに勝手にモモシロくんをそう分類した。

だがしかし、1年間賑やかになることがほぼ確定したその瞬間に、私は少しだけ今までより楽しいといいななんて、柄にもないようなことを考えてしまったのである。冬の寒さは少しずつ雪と共に溶け、春の暖かさが訪れつつあった。