2.八重霞

新しいクラスになってからの始業式、ホームルームは何事もなく普通に終わった。相変わらず校長の話は適度に長くて眠たくなってしまったし、クラス教室に帰ってからも担任の自己紹介、それから名前だけ名乗る程度の生徒の自己紹介、委員会決め…と、特に珍しくもないプログラムだった。


ああ、でも、名前を名乗る程度でいい自己紹介でも"モモシロくん"はとても目立っていた。

「桃城武!テニス部だ!2×8=16でめっちゃ出席番号覚えやすいし、クラス全員覚えてくれよなー!」

そんな自己紹介に、何処からともなくお前の出席番号を覚えて何の得になんだよ!というツッコミと共に笑いが起きる。1日目のこの時点で彼がこのクラスのムードメーカーなのは一目瞭然だったし、ただただ名乗って終わった私の自己紹介とは全く違った。遠すぎず、近すぎない彼の座る位置だけが、なんだか眩しいような気がしてしまう。

その後の委員会決めでは何とか役を逃れた私だが、その代わりにクラスの役割で「写真係」というところに振り分けられてしまった。2年生の間の行事の際に、卒業アルバムに残すための写真を記録するというなんとも不向きそうなところに当たってしまい、我ながら運の悪さにしょげる。

そのままやんわりと先生が解散を呼びかけ、始業式の日はお開きになった。

ぞろぞろと皆が出て行く中、そういえば初日なのに部活の集まりがあるということを思い出し、私は重たい腰を上げて部室へと向かったのである。

次の日。翌日の新入生歓迎会のため、私たち2年生は総出で体育館の掃除やら設備やらをさせられていた。

私たちが始業式を終えた1時間後に体育館で入学式を終えた彼らの使った椅子やシートを直し、箒で掃き、雑巾で拭き…と、色々役目はあるものの学年総出なので、皆が皆少しずつ手を抜いて作業しているような状況だった。

そんな中手抜きをせずキビキビと動く海堂の背中を遠くから発見し、ここぞとばかりにちょっかいをかけたのは少し反省している。

「おいみょうじ、真面目にやってんのか」
「やだなぁちゃんとやってるよ。見てこの雑巾の汚れ」

即座にやや叱られるものの、雑巾を見て態度を緩めた海堂のテンポ感にとても安心する。ちょっと男子ィ真面目にやってよーとか言いたくないし、ちゃんとやってくれるけど嫌味じゃないような男子というものは重宝すべきだと去年1年で学んだ。

掃除も佳境に入ったあたりで手持ち無沙汰になった幾らかの生徒が入り口付近でわいわいと談笑し始めた頃、「遅ぇよ桃城〜〜〜!もう掃除終わっちまっただろうが〜〜!!」という大きな誰かの声が響いた。

朝いなかったことに全然気が付かなかったけれど、どうやらモモシロくんは遅刻してきたらしい。病院行ってたんだよーなんて言いながら歩く彼の足元が少しだけ不自然なことに気が付いた。

「……ねー海堂。モモシロくん、なんで足怪我してるの?」

同じ部活だし知ってる?と付け足しながら尋ねると、「チャリンコで転倒して捻挫したとか言ってたな。鈍臭ェ」と鼻で笑うように海堂は説明してくれた。

…テニスって、足捻挫してたら出来ないんじゃないのか?至極当たり前のことだけど、荷物も置かずに体育館へ来たらしい彼の肩にかかるラケットバッグを見て疑問に思う。

あんまりああいうクラスの中心!っていうタイプの人と関わってこなかった分、目立ちすぎる彼のことは何だか興味を持たざるを得なかった。