4.白梅
「…ウン、名前、合ってる。」
渋々ではあるが頷くと、「やっぱりな!」と言ってわかりやすく顔を綻ばせる。
思い出せなくてもやもやしていたのを思い出し、スッキリしたときの気持ちはわかるので責めるに責められなかった。
聞かれて海堂がすぐに教えそうな感じもないし(そもそも"一緒にいる"ってだけで騒がれるのも気の毒だけど)、何度か聞いたことのあるデータがすごい先輩が調べ上げたんだろう。名前なんて、学校生活で隠してもないことだからすぐにわかるとは思うけど…。
「モモシロくん、部活。行かなくていいの?」
手当が終わり、鼻に詰め物をされている間抜けな状態を眺められているのも居心地が悪い。私も帰りたいし、彼もきっと申し訳なさでここまで来てくれたはずだから、とそっと退室を促した。
「あー、まぁ、俺足怪我してて今部活行ってもあんまバリバリ出来るわけじゃねーんだよ。」
少しだけばつが悪そうにそう言い、"まぁでも油売るよか良いか。行くわ"と付け足して彼は重そうなラケットバッグを背負い直す。
私も荷物を持って立ち上がり、なんだかんだ流れで一緒に下駄箱まで行くことになってしまった。
特に会話があるわけでもなく、気まずいわけでもなく、モモシロくんは謎の歌みたいなものを口ずさみながら進んでいく。
モモシロくんは、とっても背の低い男の子にテニスコートを尋ねられていた。あっちあっち、と適当に指差した方向は、全然違う方向なんだけど…訂正を入れる前に、一年生っぽい男の子たちは"逆"に向かってしまった。「おぉ、冗談って言い損ねちまった。ごめんな一年!」全く悪気がなさそうに彼等の背中へと手を合わせるモモシロくん。かわいそ、一年生。
きっと1年間、彼はいいクラスメイトになるんだろうなぁ、とこっそり頭の中で思案する。男子は嫌いではないし苦手でもないけれど、得意でたくさん喋れるかと言われればそうではない。少しでも会話しやすい男子がいるのはいいことだと思う。
じゃあね、と校門に向かおうとしたとき。桃城くんが訝しげにテニスコートの方を見、「…何やってんだ、アイツら」と呟いた。
なんだか、テニスコートの方の様子が普段とは少し違う気がした。
「…あれ、今日レギュラー居ないの?ジャージ、トリコロールカラーの人居ないね」
部活中にテニスコートを見たとき、普段なら普通の部員より人数が少ない分、レギュラーのジャージは目立っている。今日はその目立つジャージの人たちが、居ない。
「…今日は、レギュラー陣が別ントコで練習してんだよな。俺は怪我してっから行ってねえんだけど。」
モモシロくんは、眉根を顰めてコートへ向かった。「みょうじ、また明日な。」
彼の背中はなんだか、ヒーローのようだった気がする。結局、なんでテニスコートが騒がしかったのかはわからないままだけど。わたしには関係ないし、まぁいいや。はやく帰ってご飯食べたい。