新入生歓迎会は、生徒会からの挨拶と校内紹介、そして部活紹介がメインの行事である。基本的に生徒会に携わっていない人、または部活で役に当たっていない人は教室で延々と配られるプリントや教科書をしまっていく退屈な時間であった。
去年1年間で使い切ったと思える教科書なんて主要の5教科くらいなものなのに、あまり使った覚えのない音楽や美術まで2年生の教科書が用意されてるのってすっごく腑に落ちない。というか重いし使わないなら勿体無いから作らないほうがいい、なんて思いつつも午前中を過ごし、明日から本格的に始まる授業の時間割の説明を受けた私たちは気の抜けたさようならーという声と共に解散した。
文化部なので毎日部活があるわけでもない私は荷物をまとめ、ゆるりと立ち上がり、教室を後にしようとしていた。
「っしゃあ!部活行くぜー!」
という元気のいい声と共に背負われたラケットバッグに勢いよく顔面をビンタされ、「ぶべっ」という情けない声を上げて床にへたり込むまでは。
「おぉ!?悪りィ!!居たの見えなかった!鼻ぶつけただろ、鼻血出たりしてねぇ?」
あたふたと慌ててしゃがみこみ、へたっている私と目線を合わせたその人物は、桃城武その人だった。
「だ、だいじょうぶ…」
鼻を抑え、ぐらぐらと受けた衝撃の余波を感じつつ答えた私の顔を見たモモシロくんはまじまじと人の顔を観察して「あ?…なんだつけ、お前なんか知ってるなあ」と言う。
「いやほんと、大丈夫だから…部活行く途中なんでしょ?」
鼻を抑えてゆっくりと立ち上がり、耳にした発言を流して帰ろうとした私の腕を掴んだモモシロくんは、
「いやお前、鼻血出てんぞ。俺が悪いんだし、保健室連れて行く。」
などと宣った。
散々抵抗したが結局言いくるめられ、保健室へ連行。挙げ句の果てにモモシロくんの目の前で鼻に詰め物をされる始末。
( あぁー…なんで私こんな目に )
どくどくと流血する感覚を鼻に感じながらぼんやりと今日の不幸を呪う。そういえば朝、ロッカーの鍵なかなか開かなかったところから不幸は始まってた。昼までだけどお腹減るしつまめるようにって思って持ってこようとしてたおやつは忘れてきてたし、昨日仲良くなった横の席の女の子は熱出して休んでるし、ああもう本当に。
降りかかった大小様々な不幸たちを脳内に羅列しまくっていたその時、不意にモモシロくんがポン!と手を叩いた。
「おっもいだしたわ。お前、マムシとたまに一緒にいた女子だろ!」
やーすっきりしたぜー。そりゃ見たことあるよなぁー!なんて1人でどんどん自己解決していく彼に、素で「いやマムシって誰?」とツッコミを入れてしまった。
「あぁ、マムシじゃわかんねぇか。海堂だよ海堂!去年お前クラス一緒だっただろ。英二先輩が海堂が同じ女の子とよく喋ってる!つって騒いで、乾先輩まで気にして、一回みんなで見に行ったことあんだよお前のこと。」
………ははぁ、なるほど。海堂が部活の愚痴をこぼすのは同級生だけではなく先輩たちへも時々棘のあることを言っていたのを覚えていたのだが、この時に初めて海堂に深く同情してやれた。
「名前、確かみょうじだっけ?」
名前まで知られているとは…と思ったものの、誰のことでも執拗に調べてしまう先輩がいるんだと海堂が言っていたことも思い出す。おいおい、テニス部の人たちはデリカシーがない集団なのか?本当に海堂に同情しかしない。ただでさえ少しずつ失われる血液になんとなくぼんやりする頭が、更に考えるのをやめた気がした。