さて、
それは、人を殺す薬ではないということ。
では、TTRX630はいったい何の薬なのか。
都内某所。人目につかない裏路地を進んだ先に、古びたビルがあった。
蔓が壁を覆って、おびただしい雰囲気のある外見とは違って、内装はとても綺麗で、まるで病院のようだ。
そこの一室で、青年が寝かされていた。腕には点滴が繋がっている。
彼がここに運び込まれてから、もう2週間が経とうとしていた。
「時間的にはそろそろなんだけどな」
「効果には個人差があると言っていただろう」
「ま、ゆっくり待ってようぜ」
「このまま目覚めないかもって思わないわけ?」
「花宮が作った薬が失敗してると思ってんのか?あの花宮だぞ?」
「確かに花宮が失敗してるなんて考えられないけどさぁ……」
青年が寝ているベッドを囲み、4人が喋っている。
「待て、今少し動かなかったか?」
「マジ!?……あ、起きた!!」
「おはよう。目覚めてくれて嬉しい」
「待って、俺が一番最初に言おうと思ったのに。おはよう!!」
「おはよう。遅かっ「予定通りだよ。おはよう」
「こんな時まで被せるなよ!!」
TTRX630は、潜入捜査官である花宮真を殺した薬だ。それは絶対に変えられない事実である。
だから、潜入捜査官をしていた花宮真はもういない。
「ふはっ、うるせーよ。お前ら」
かわりに、自分の欲望に忠実な、ただの花宮真が生きている。