Prologue


昨日は普通に自宅で寝た筈なのに、目覚めて一番最初に目に入って来たのは知らない天井だった。とりあえず起き上がって部屋の中を見渡すも、知らない誰かの部屋ということしかわからない。この部屋の住人は引きこもりなのだろうか。ペットボトルやお菓子のゴミが散乱してるし、ベットのすぐ近くにはPCがあった。その周りには俺の知らない漫画やゲーム、ラノベが入った棚がある。壁はアニメのポスターだらけだ。

ここは誰の部屋なのだろう。そして何故俺はここに居るのだろうか。全くわからないな。

情報を求めて部屋の中を探ろうと立って気づいた。何かがおかしい。

バスケ部では低い方だとはいえ、俺の目線はこんなに低かったか?俺の体はこんなにも重かったか?視界に入る俺の前髪はこんなにも長かったか?

いや、違う。俺の目線はもっと高い。俺の体はもっと軽い。俺の前髪はもっと短い。

どうなってるんだよ……いや、予想はできる。けど、現実的に考えてあり得ない。でもそれ以外に考えられない。

俺は恐る恐る自分の手を見た。


「まじか」


そこにあったのは見慣れたいつもの筋肉がほどほどについてる手ではなく、知らない誰かの脂肪のついた手だった。

この部屋に鏡はないようだから、PC画面の反射を利用して自分の顔を見る。そこにあったのはやっぱり知らない人の顔だった。

認めなくないはが、ここまで来て現実逃避も出来ない。

どうやら俺は知らない誰かと入れ替わったらしい。

どうやったら入れ替われるんだろうな。気になるところだが、まずは先に俺が誰と入れ替わったのか把握しよう。

さっき中断した部屋漁りをやるか。

他人の部屋だろうが今は俺の部屋だ。躊躇なく荒らす。そしたら、勉強机らしき引き出しから、テストプリントが出て来た。

これは……霧崎第一の1年生の時のテスト?

名前の欄には、岡谷芳樹と書いてある。

俺はもう一度今の自分の顔をよく見た。なるほど、俺の知ってる姿からかなり太ってて気づかなかったが、俺は岡谷芳樹と入れ替わったのか。

岡谷芳樹は、去年俺と同じクラスだった。関わりなどなかったけどな。そんな岡谷は冬休みが明けてから学校に来ることがなくなった。霧崎ではよくあることだ。勉強には自信があったのに、周りとのレベルが違い過ぎてついていけなくなって、精神を病む。これで学校を辞める奴もいるが、岡谷はただ休んでいただけで、いわゆる不登校になった。

普通学校に来なければ留年か自主退学してもらう形になるのだろうけど、霧崎は違う。家の都合から学校に来れない生徒が割といるのだ。だから、そんな生徒のための救済措置として、テストの成績がよければ進級出来るというものがあった。

岡谷もそれを使ったようで、2年生のクラス発表の時に名前を見た覚えがある。教師からは、成績があんまり良くない癖に学校に来ず、救済措置を使う面倒な生徒という愚痴も聞いていた。

だから、存在と名前は知っている。けど、何故こいつと俺が入れ替わったのだろうか。

さらに部屋を漁っていると、机から3枚のルーズリーフが出て来た。ぐちゃぐちゃ過ぎてゴミかと思ったが、どうやら手紙のようだ。


花宮くんへ
花宮くんはいいよね。頭も良くて運動も出来て友達もいっぱいいて先生にも気に入られてるし、顔だっていい。僕とは大違いだ。いいなぁ羨ましいなぁ。僕は運動苦手だし、先生には認識さてれるかすらわからない。運動出来ないかわりに勉強を頑張ってたから友達もいない。頑張ってた勉強ですら花宮くんには敵わない。俺くんが羨ましいよ。
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましいを羨ましい!!
だからさ、僕の幸せの犠牲になってよ。
僕はこれから運動と勉強も顔も完璧な花宮くんとしてみんなにちやほやされながら楽しい生活を送るんだ。花宮くんは今までいい思いしてたんだから、別に僕になっても問題ないよね?それに、花宮くんは優しいから、こんなことしても許してくれるでしょ?
あ、そうだ!花宮くんが元の体に戻ることは一生ないよ!戻る方法は僕が自分の体に戻りたいって思った時だけだもん。僕は絶対自分の体に戻りたいなんて思わないからさ。
入れ替わるなんておまじない成功すると思わなかったけど、入れ替われたんだから、僕はきっと神様に愛されてたんだろうね。そこだけは唯一花宮くんに勝ってたんだ。嬉しいなぁ、僕が花宮くんに勝てるとこがあるなんて!
じゃあ、僕は運動出来ないし友達もいないし顔だってよくないからこれから大変だろうけど、頑張ってね。
僕は花宮くんの体を大切に使うよ。犠牲になってくれてありがとう。


字が汚過ぎて読みづらいが、なんとか最後まで読むことができた。特に2枚目は酷かった。内容が羨ましいだけだったからな。

というかこいつ頭大丈夫か?わざわざ状況を説明する手紙を残すのもそうだし、俺のことをただの優しくて運動も勉強も出来る優等生だと思ってることもそうだけど、いろいろと考えが足りてない。

あいつらレギュラーのやつらもいるし、霧崎に残れないようなこいつが俺の体でやっていける訳がないので、俺は俺でのんびりこいつの居場所を削っていこう。

そうだな、とりあえずネットにスレでも建てるか。

簡単に言えば暇つぶしだ。
××× | BACK | 次へ
TOP