選択を避けてきた山崎の話


自分が周りに影響されやすい人間だと気づいたのは、つい最近の話だ。よくよく考えてみれば、小さい頃からそうだったんだろうが、俺は花宮に指摘されるまで気づかなかった。

俺には兄と姉が居て、よく遊んで貰ってた。自分で何かしたいとは言ったことはない。言う前に兄も姉も俺に構ってくれたし、構って貰ってるのに文句を言おうとは思わなかったからだ。良く言えば聞き分けのいい子、悪く言えば自分の意思の無い子、になるんだろう。

そんな環境で育ったからか、何をするにしても周りに合わせていた。幼稚園の時、遊びを決めるのも周りに任せていたし、小学校の頃、友達によって趣味が変化した。中学では周りがバスケ部に入るというから俺もバスケ部に入った。霧崎第一を選んだのは先生がそう言ったからで、高校でバスケ部に入ったのは、周りが中学と同じ部活に入ると言っていたから、俺も中学と同じバスケ部に入った。

だから影響されやすい、なんて当然だ。そもそもそこに俺の意思なんて無いんだからな。ある必要性を感じたこともない。だってそれで今まで生きてきたからさ。それにそのやり方でなんとかなってきた。

ということで、俺が周りに影響されやすい人間だと気づいたところで何も変わらない。俺の入ったバスケ部が世間から見れば異常だろうが、今、俺の周りにいる人達が花宮の信者なんだったら俺も花宮の言うことは聞く。それで問題ないはずだ。はず……なんだけどな…………

どういう訳か、花宮は俺に選択肢を与えてくる。




「ザキ、これやっといてくれるか?」

「やるけどさ」

「何か問題でもあるか?」

「いや、前から思ってたんだけどよ。なんで俺には命令じゃなくて疑問形で物を頼むんだ?」

「あぁ、それか。確かに命令してもザキはそのまま従うんだろうな」

「そうだな。それで別にいいじゃねーか」

「でもそれじゃつまんねーだろ。俺はお前の意思で俺に従わせたい」

「それ、お前が命令すんのとどう違うんだよ」

「これだからザキは……」

「え、なにそれ酷くね?」

「わざわざ説明するの面倒くさいんだよ。健太郎あたりなら察する」

「俺と瀬戸を一緒にすんなし……俺は凡人だからな」

「じゃあバカなお前のために説明してやるよ」

「なんかムカつくけど花宮よりバカなのは確かだからそのまま聞こ……」

「世間の常識が分かっているのに、それでも周りに合わせる歪んだお前も面白いとは思う。けどな、周りが従うから俺に従う?ふざけんな、そこにお前の意思は無いんだったら、俺は人形を従えてる事になる。人形を従えてる人間なんて滑稽なだけだろ。俺はそんな人間にはなりたくない」

「いや、人形は酷くね?流石に俺はそこまでじゃないと思うぜ」

「じゃあ、お前は何かを自分で選んだ事はあるか?お前の意思はどこにある?」

「それは……」

「答えらんねーだろ。お前が何をしようにも、それは周りがどうするかで考えた結果でしかない。だから人形って言ってるんだよ。いや、環境によって変わるんだから、ロボットって言った方がいいか?どっちにしろ似たような人間が増えるだけだから、人形もロボットも俺には必要ない」

「そうかよ。じゃあ俺はお前には必要ないってことか」

「今のままだったらな。けど、俺はザキを人形のままでは置いておかない。お前が周りを同じ選択をしたとしても、それをお前の意思で選ばせる。お前が周りに合わせたいと思っていても、俺はお前を周りに合わさせない。これが理由だ。満足か?」

「理由はわかった」

「俺がわざわざ人形から人間に進化させてやってるんだ。感謝しろよ?」

「はあ!?そうする事を選んだのは花宮だろ?なんで俺が感謝するんだよ」

「確かにそうだな。けど、ザキはいつか俺に感謝するさ」

「うっわ凄い自信だな……花宮が言うならそうなるんだろうけど、今のところそんな気持ち微塵もないぞ、俺……」

「高校の内にそんな気持ちにさせる。だから別に今はいい」

「今も未来も感謝しねーよ!」

「それがお前の意思か?よかったな、一歩人間に近づいたぞ」

「ぜってーしなねぇからな!!」

「はいはい」



花宮が、俺が自分の意思を持ったらもう従わなくなる可能性に気付かないわけがない。それでも俺に選択肢を与え続けると言うのなら、それはもう自分の為じゃなくて俺の為じゃねーか……ものすごいデレを聞いた気がする。

確かに最初は周りがそうだったという理由からだ。けど、こんだけ言われて信者を辞めるという奴が居るだろうか。いやいない。
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