理解されたかった瀬戸の話


俺と周りでは何かがズレてる。見えない壁に阻まれた様に、話が通じない。言葉が届かない。誰も自分のことを理解してくれない。本当に同じ世界で生きてるのだろうかと疑問に思ったことすらある。

話が合わないから友達が出来たことはない。両親すらも、俺の事を化け物の様に見てくる。おかしいのはそっちなのに、俺の方が正しいはずなのに、いつも違うとされるのは俺のほうだった。

まるで自分が世界から取り残されてる様だ。なら、自分から遮断しても変わらないんじゃないだろうか。寝ていれば周りと関わることはなくなる。そうしたら周りとの違いも分からなくなる。そうして俺は一日中ずっと寝てる様になった。

そんな時に出会ったのが花宮だ。

事前テストの成績で決まる新入生代表。テストは解き終わったら次のプリントが渡され、それが終わったらまた次のプリントが渡される加点方式。100点満点からの減点方式だったら、同率一位で俺以外の人物が新入生代表になってもおかしくないと思ってたけど、この方式なら一位になるのは俺だと思ってた。

でも違った。

実際一位になったのは花宮真だった。俺より頭の良い人がいるなんて思わなかった。それと同時に思ったのが、もしかしたら彼となら話が通じるかもしれない、ということだ。

だから俺は彼に会いに行った。

花宮の教室に行って、彼に話しかけようと思ったけど、花宮は俺と違って、周り人たちと溶け込んでいた。彼もまた別世界の人だったのだ。残念に思う気持ちはあったけど、それより凄いという感情があった。俺は何かに阻まれているというのに、花宮は俺より上の頭脳を持っていながら俺より下の頭脳と関わりを持てるのだ。俺の中でそれはあり得ないことだった。
俺はそんな花宮に話しかけることができず、結局教室に戻った。

その放課後、今度は花宮が俺に会いに来た。その時の会話を俺は一生忘れない。




「瀬戸くんだよね?」

「そうだけど……?」

「さっき、俺の事見てたから気になってさ」

「気づいてたんだ」

「まぁね」

「で、なんかよう?」

「様子を見に来ただけだよ」

「それだけ?」

「瀬戸くんはまるで世界から置いてけぼりになったかのような目をするんだね」

「花宮にはわからないよ」

「俺の名前知ってるんだ」

「花宮も俺の名前知ってたでしょ」

「そういえばそうだったね。じゃあ話を戻そうか」

「うん」

「瀬戸くんは自分より頭の良い人がいるなんて思ってなかったんだよね」

「なんで……」

「見てれば分かるよ。それでさっき俺の事見に来たんだろ?」

「その口調」

「猫被ってるといろいろ楽だからな。お前はそんな事はしないで絶望してたみたいだけど」

「だって」

「世界には頭の良い奴なんてたくさんいる。もちろん俺よりも頭がいいやつもな。その程度の頭脳で絶望すんなよ。したければ俺より頭が良くなってからにしろ」

「なんでそんな事言ってくるんだ?」

「俺ほどじゃないにしろ、そのくらい頭脳を持つやつは貴重だからな。凡人どもの世界から省かれたくらいで潰れるのはもったいない」

「ずっと、俺の言葉が理解できない人たちをバカにしてた」

「うん、で?」

「でもさ、あっちから見れば俺の方が訳の分からない奴だったんだよ」

「そうだな」

「実際に見下されてたのは俺だった。俺の方が頭良いのにね。でもそれが嫌で俺は周りを遮断したんだ」

「へー」

「だから、花宮を見て驚いたよ。俺より頭が良くて、なのに周りに馴染んでるなんて。本当にすごいと思った」

「ふはっ、そうかよ」

「だからさ、花宮が俺より上の頭脳である限り、俺は花宮に従うよ」

「は?」

「だって、花宮のおかげで俺は救われたから。その恩を返したいって思うのはおかしい事かな?」

「いや、いい。好きにしろ。俺はお前をこき使ってやるからな。代わりに、お前の望み通りお前より俺が頭が良い事を証明し続けてやるよ」

「これからよろしく」

「あぁ」




初めて自分の言葉が通じた。初めて自分より上の頭脳がいるとわかった。初めて自分を肯定された。初めて自分理解してくれた。

それだけで俺は救われた。

花宮を慕う理由なんてそれだけで充分だ。
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