終わりを告げられた?回目


もう、何回目の挑戦だろう。また先輩を救えなかった。

相変わらずカラスは先輩の葬式の日に俺の目の前に現れる。


「まだ諦めないの?」

「うん」

「そう。でも残念……キミの寿命がね、10年を切ったんだよ」

「え……」

「つまり、キミがやり直せる回数は後9回。どんなに諦めなくても後9回でもう運命から逃れられなくなる」

「そんな……まだ全然方法が分かってないのに」

「寿命をほとんど消費した事は悲しまないんだね」

「俺が生きてる価値なんか無いから。俺の寿命を消費して繰り返してれば、いつかは先輩を助けられると思ってたけど……あと、9回か。考えてみれば、俺の命の価値が先輩より低いなら、俺の命を差し出したところで先輩が助かる訳がなかったんだけどな」

「ふふふっ、そんなに卑屈になるなよ。僕から見れば人間の命なんて全部等しい。ここまで寿命をくれたのはキミが始めてだ。だから僕にとってはキミの言う先輩より寿命をくれるキミの方がずうっと価値が高いよ」

「なら、この寿命全部あげるからって言ったら先輩助けてくれんの?」

「それは無理だよ。僕に運命を変える力はない。方法なら知ってるけどね」

「どうして……どうしてその方法を教えてくれないの……」

「キミはころころ口調が変わるねぇ。これだけやり直した人は居なかったからなぁ」


何回も繰り返しているうちにどれが本当の自分なのかわからなくなったよ。

先輩が死んだらもう演技する必要は無いから、口調が定まらなくなる。


そんな事より……


「あぁ、なんで方法を教えないのかって?そんなの決まってるじゃないか。教えたら、すぐ運命は変わって、もうキミはやり直す必要がなくなるだろ?そしたら僕は寿命を貰えなくなる」


そんな、そんな理由で教えてくれなかったのかよ。

いや、違う。本来なら先輩は死ぬ。それを変えられるチャンスをくれたのはコイツだ。このカラスが居なければ先輩が助かる可能性すらなかった。コイツを責めるべきじゃない。

チャンスが何度も何度も何度も何度も何度!も!!何度も!!!何度も!!!!たくさんあったのに、それでも先輩を救えなかった俺が悪いんだ。

けど、コイツは「人間の命なんて全部等しい」「寿命を貰えなくなる」と言っていた。なら、まだ可能性が残ってる。


「じゃあ、簡単な話しだ。先輩が助かる方法を教えてくれ。先輩が助かったら、寿命を全部とっていいから。もう残り少ないけど、余った寿命をあげるから」

「えっ、ほんとにいいの?キミの寿命全部くれる?約束は絶対だよ?」

「それで方法がわかるなら」

「なら、キミの命日は3月1日になるね!いいよ、交渉成立だ。教えてあげるよ」

「それで?」

「そう急かさないでよ。簡単に言えばキセキの世代を仲直りさせればいいんだよ」

「キセキの世代……なんであいつらを」

「世界は彼等に優しく出来てるんだ。あぁ、彼等というには少し語弊があるね。正しくは彼だ。彼は世界から愛されている。だからあんなにも才能を与えたんだよ。そして世界に愛されてる彼は周りによくも悪くも影響を与えやすい」


彼等から彼に言い直したという事は……キセキの世代の中の1人が世界から愛されている?

その人は誰だろう。

……いや、そんなの決まってるじゃないか。

何度やっても、何度繰り返しても、何度変えても、先輩が死ぬという以外に変わらなかった事実がある。

それは、インターハイでもウィンターカップでも洛山高校が優勝するという事。

テストの内容が変わらないのと同じだと思って気にしてなかったけど、今考えるとそれ以外の高校は俺がその高校に入った事によって順位が変わるのに、そこだけ覆らないのは確かにおかしい。

つまり、洛山高校にいるキセキの世代が、赤司征十郎が、世界に愛されている。


「彼を負けさせる事が鍵だ。でも、キミはそれに関わっちゃいけないよ。関わったらちゃんとキセキの世代は仲直りしないからね」

「わかった」

「ヒントは最初から変わってないよ。一番最初が一番近くて遠い」


近くて遠い……何もしなかったからキセキの世代は仲が悪いままだった。多分これが一番遠い部分だ。

なら一番近い部分は?

考えられるのは……先輩との関係性、選んだ高校、そしてキセキの世代との関わり具合?


「僕のおススメは霧崎第一に入ることかなぁ。あそこが一番ほかのキセキの世代に影響を与えやすいよ」


あぁ……確か………そう、一番最初の高校は、霧崎第一。

こいつのおススメに霧崎第一が入るのなら、ヒントの近い部分は高校じゃない。

なら、残りは先輩との関係性、そしてキセキの世代との関わり具合2つ。どちらか分からないのならどちらもやればいい。

この2つでもなかったらまた考えよう。


「キセキの世代と関わっちゃいけないのに影響を与えやすいのが霧崎第一って矛盾してるね」

「影響を与えないと運命が変わらないからね。ま、頑張りなよ。キミが過ごした時間と同じ時を僕は過ごしてるんだ。キミの寿命をもらえるのなら1人の人間の生死なんてどうでもいい。さっさと運命を変えて来てよ」

「ならさっさと戻してよ」

「はーい。じゃ、またね」


そして俺はいつも通り意識を失った。