試行錯誤した残り9回目
中学1年生の時に戻ってきた。
もう何度目の中学生だろう。数は覚えていない。
そんな事より先輩が助かる方法を考えないと……
条件は先輩との関係は良好に、キセキの世代とはほぼ関わらずに赤司征十郎を負けさせ、キセキの世代を仲直りさせること。
そうだな……まず、どこを勝たせるか。
いろんな高校にいった中で、洛山高校の次に強かったのは桐皇学園だ。可能性があるとすれば青峰………いや、違う。それではダメだ。
1度先輩を優勝させるために桐皇学園に入って死力を尽くした事があったけど、最終的には負けた。俺がいる状態でも勝てないのにいない状態じゃ絶対に無理だ。青峰は赤司に勝てない。
となると他のところ……
秀徳高校の緑間の3Pシュートはすごいが、赤司はまず緑間へのパスを全て奪える。
海常高校の黄瀬は、そもそも青峰にすら勝てないのだから赤司に勝てるわけがない。
陽泉高校の紫原は、赤司に逆らわないと決めているのか、対洛山の時は絶対に試合に出てこない。
………どこも可能性がないじゃないか。
キセキの世代と関わっていいのならまだやりようはあったものの、関わらないで赤司を負けさせるという方法が全く思いつかない。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!!!
まさか、キセキの世代じゃ無理だと言うのか?
けど、キセキの世代に勝てる人なんて………
いや、待って、もう1人居たじゃないか。キセキと言われ、けれど居ない者と扱われていた存在。幻の6人目、黒子テツヤ。
けれど、常に勝利すると決まっている赤司や、行く高校や行動が決まっている他のキセキと違って、彼は不確定な存在だ。
黒子は誠凛に行くこともあるし、行かない事もある。高校ではバスケを辞めてる時もあるし、中学の最後にバスケ部を退部して、高校でまた始める時もあるし、中学からずっと辞めないで続けている時もある。
本当に存在感は薄く、俺が黒子の存在を知っているのは俺が誠凛に入った時にたまたま黒子も居て、バスケを続けていたからだ。
わざわざ調べもしないから、誠凛に黒子が行かなかった時、どこの高校に行ってるかは知らない。ただ共通するのは黒子は誠凛に行かなかった場合、必ずバスケを辞めている事だけ。
正直黒子でも赤司に勝てる気はしないが、明らかに他とは違う黒子にかけてみよう。
それに、誠凛は俺が行った高校の中で1番先輩の死ぬ日がズレたところだ。もしかしたら、これだけ繰り返しても全然未来を変えられない俺とは違って、誠凛は、黒子は運命を変える力を持ってるのかもしれない。
けれども黒子はバスケを辞めてしまう可能性もある。
黒子を確実にバスケを続けさせて、誠凛に入ってもらうのにはどうしたらいいのだろうか。
今回は先輩を助けるのを諦めて、黒子について調べた方がいいのかもしれない。
どうせ失敗したら先輩は死ぬのだから、次に活かせるように動いた方がいい。もうやり直せる回数は限られてる。
今回はとりあえずあのカラスが言っていたおすすめの高校、霧崎第一に入って、バスケは辞め、空いた時間を黒子とついでにキセキの世代について調べた。
赤司達がキセキの世代と呼ばれ始めたのは赤司達が一年の頃。その時無冠は期待のプレイヤーと紹介されていた。キセキの世代の呼び名が定着したのは彼らが2年生になってからで、その呼び名が定着するごとに無冠の名も定着していった。
黒子がバスケを辞めた原因はキセキの世代の仲違い……というよりチームプレーをしなくなったキセキが嫌になったから。全中最後の試合のゾロ目がトドメを刺したっぽいな。
バスケが嫌になった黒子はどうしてまた誠凛でバスケを始めたのかがわからない。
誠凛は確か新設校で、バスケ部が出来たのは俺が高校1年の時だ。木吉と共に日向を誘って自分で部を作ったからわりと覚えている。
でも、そんな歴史の浅い高校を何故黒子は選んだのだろう。接点がなさすぎる。
バスケが好きでやりたいだけならガチでやってるバスケ部よりバスケ同好会に入るだろう。それに黒子は誠凛でキセキに勝ちたいと言っていたような気がする。
けれどキセキに勝ちたいならもっと強豪に行くはず。
黒子が誠凛を選んだ理由…………チームプレーを大切にするチームだったから……??
いやでもそんなチームなら他にもたくさんいる。例えば霧崎第一はまさしくそんなチームだ。
それに、誠凛はそんなに有名じゃない。誠凛がチームプレーを大切にするところなんてわかるはずが…………
ああ、そうか、黒子はどこかで誠凛の試合を見たことがあるのか。
だから誠凛を知っていて、誠凛がチームプレーを大切にするところだと知っていて、そんなチームでプレーをしたいと思ったから誠凛に来た。
逆に言えば、誠凛以外のところではもうバスケをしたくないと思っていた。だから誠凛に来なかった黒子はバスケを辞めていた。
次は、そう、黒子はいつどこで誠凛の試合を見たのか。
誠凛の試合を見てたのなら、高校バスケの試合を見る趣味でもあったのだろうか。けど、それなら他の高校もチームプレーを大切にするところがあるとわかる筈だ。
なら、黒子が誠凛の試合を見たのはたまたま?
しかし、バスケは体育館でやっているスポーツ。たまたま試合を見る状況とはどういう状況だろうか。
……試合会場が同じだったとか?いやでも中高のバスケの試合会場が一緒なんてこと……広い場所ならありえなくはないのか?
そう、例えば全国大会の予選とか。
あぁ、もう、今考えてても仕方がないな。こういうのはちゃんと調べた方がいい。一旦置いておこう。
次に考えるのは、どうやって勝たせるか。
黒子だけでは当然勝てない。黒子は確かに天才だけれど、それはサポート方面。強い仲間が必要だ。
けれど誠凛には強い人は無冠の木吉くらいしかいない。その木吉も、足を壊して途中から部活に参加できなくなる。
それに、俺が高校2年生の時の誠凛対霧崎戦で事故が起こり、キャプテンである日向も抜けるのだ。
作った当初から目覚ましい活躍をしていた誠凛だったが、チームの支柱である2人を失ってしまい、誠凛は全国にすら行けてない。
その2人の怪我をなんとか防ぐか、時期をずらさなければ、誠凛に未来はない。
それにプラスして、キセキの世代までとはいかなくても、少なくとも無冠以上の実力を持ったプレイヤーが必要だ。
キセキの世代と関わってしまうから、俺は誠凛に入れない。
でも、そんなプレイヤー日本にいるのだろうか。もしかしたら海外を探して日本に連れてこなければならないかもしれない。
今回はもう時間がない。探すのは次の回に回しておこう。
誠凛と帝光の試合会場が同じ時があるのは今調べて……
先輩が死んだ。
今回は親密度を上げてなかったからか、あまり関わりを持たなかったからか、目の前では死ななかった。けれど死んだ事には変わりない。
後数回で先輩の命は救えるのだろうか。いや、救わないといけない。
相変わらずカラスは先輩の葬式がある日に俺の前に現れる。
「進展あった?」
「どうだろう」
「急いだ方がいいよ。キミの寿命はあと少しだ」
「そんなのわかってる」
「良いことを教えてあげようか」
「なに?」
「キミが選んだ彼の相棒を探すのならアメリカに住んでる日本人を探すといい」
「……なんでそんな事知ってるんだよ」
「僕の目は広いんだ」
「なら前回教えてくれてもよかったじゃないか」
「嫌だなぁ。彼を負けさせる方法はいくつかあるんだ。キミがその方法でバスケを選ぶとは思わないだろ?」
そうだ、こいつは運命を変えられる条件として、キセキの世代を仲直りさせる事、赤司を負けさせる事と言っていた。
別にその方法がバスケじゃなくてもいい。
ただ、またヒントを貰えたんだ。別の方法があると言われたからと言って、今回俺が選んだ方法を変える必要はないだろう。
それに、ヒントがあるという事は黒子に勝たせるという方向性は間違ってない。
アメリカに住んでる日本人、か。次はアメリカに行こう。………そもそもいけるかな。それにアメリカは広い。一回で見つかるとは限らないだろう。
「わかった。ならとっとと戻らせて」
「はーい」
何時ものように意識を失う寸前、カラスが何かを言っていたような気がしたけれど、俺には何を言っているのかわからなかった。