報われなかった8回目
一度先輩を殺したことで、俺から躊躇いが消えた。
5回目の時の誘拐はヌルすぎたんだ。
誘拐した後先輩と対面すべきではなかった。
窓がない、ドアしかない部屋に閉じ込めとくのが一番だったんだ。もっというなら、どこにも行けないよう、何もできないよう、手足を椅子にでも縛り付けて、誘拐した犯人と誘拐場所についてなにもヒントを与えないよう目隠しをすればよかったんだ。26日まで待ってくださいなんて言わないで、何も言わずにただ拘束だけしてればよかったんだ。
今回は間違えない。
先輩を死なせない為なら、俺は犯罪だって犯してやる。
運命はそんなに簡単に変わらない。2回目にカラスに言われた言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。
突然背後から襲われた先輩は抵抗できずにあっさりを意識を失った。
一度やってるから、スムーズに監禁場所に運べた。
もう、油断なんかしない。
誘拐して、閉じ込めて、その後は監視カメラでずっと見張っていた。
椅子に拘束された先輩は最初少し暴れたようだけど、すぐに大人しくなった。暴れて体力を無くすのは得策ではないと考えたのだろう。
猿轡はしなかったから、先輩は何かを言っていたようだけれど、監視カメラ越しではなにを言っているかわからない。
なにを言ってるか分からないけど、これも先輩の命を助ける為だから、許してほしい。ちゃんと26日になったら家に帰す。
罪悪感などなかった。
日付が変わったら鳴るようにしていたタイマーが鳴った。
つまり、今は2月26日。ついに運命を変えられたんだ。
俺は歓喜した。
何度も目の前で死んだ先輩が今、生きてるのが嬉しい。
あぁ、そうだ、日付が過ぎたから先輩を解放しないと。
閉じ込めていた部屋の鍵を開けて、暴れないように一回スタンガンで意識を失わせてから拘束を全てとく。
怖い思いをさせてすみませんでした。でも俺はそうまでして先輩の命を助けたかったんです。
けど、これで、これで………
先輩は死んだ。相変わらず俺の前で死んだ。
目が覚めた先輩が、拘束が解かれたと気づいて、外に出た。きっと気持ち悪く思ってるだろう。
気がついたら拘束されていて、気がついたら拘束が解かれていた。まるで夢のようだと思ったのかもしれない。
先輩の表情は困惑していた。先輩の表情が見れるくらい俺は近くにいた。
心配だったからだ。
そんな先輩は警察か、自宅に向かう途中で事故にあった。
庇う暇もなかった。
なんで、どうして、25日は過ぎたのに。死ぬ日は回避出来たのに。ここまでやったのに、まだ足りないと言うのか。どうすれば先輩は助かるのか。
もう、俺にはわからない。
カラスが俺の前に来た。先輩が死んでからずっと部屋に引きこもっていた俺はそれで今日が先輩の葬式の日だと知った。
「すごいじゃないか」
無邪気にこのカラスは俺の事を褒めるが、全く嬉しくない。
1日ずれたとはいえ先輩が死んだのだ。これじゃあ今までと何も変わらない。
また俺は助けられなかった。
「無駄だった」
「いやー、本当にびっくりしたよ」
「なんで、25日は過ぎたのに先輩が死ぬんだよ」
「運命からはそう簡単に逃げられないって事だよ」
「25日さえ過ぎればいいと思ってたんだ。でも違った。どうすれば、どうすれば先輩は……」
「だからそれは教えないって」
「わからないんだ、もう」
「でも、良いことを教えてあげる」
今更なんだと言うんだ。
俺は先輩が助かる方法が知りたいんだ。
「キミが変えようとしている運命はね、3月1日を迎えれば無くなるよ」
「……え?」
「運命の日を1日伸ばしたキミへのご褒美だ。さて、じゃあ聞こう。また戻る?」
「当たり前だ」
3月1日。そこまで先輩の命を引き延ばせれば……