二人がビックリしたのは、まず内容がすごく具体的だということだった。そして、次に気になったのが、どうしてそんなに具体的に言えたのかということだった。
「よくそんなに犯人を見てたわね」
「人間観察が趣味なんです」
「そ、そうなの……」
ちょっとドヤ顔で言った黒子に引いた佐藤刑事は何事もなかったかのように次の話へいこうとしたのだが……
プルルルル プルルルル
誰かの携帯が鳴った。
「はい、もしもし!」
高木刑事の電話だ。
「はい………はい………本当ですか!?……よかったです。………はい………そうでしたか。ありがとうございました」
「高木くん、何の電話?」
「病院からで、今、被害者が目を覚ましたそうです!!」
「本当なの!?」
「黒子さんの止血がなかったらかなり危なかったようですよ」
「よかった、よかったです。僕、死にそうな人に会うのは初めてで、止血も初めてで、不安だったんですけど、助かって本当よかったです」
事件に遭遇するのが初めてな黒子は、態度には出さなかったが、実のところ今の今まで緊張していた。だから、被害者が無事だと聞き、緊張して微妙に体全身に入っていた力はようやく今抜けたのだった。
ほっとしながらも嬉しそうによかった、よかったと繰り返す黒子に少しその場が和んだ。
「は!こうしちゃいられません。僕は被害者に話を聞きに行ってきます!!」
「よろしく、高木くん」
「はい!」
こうして高木刑事は去って行った。
この場に残ったのは佐藤刑事と黒子と子供達だ。といっても、黒子は事件発見にいたる経緯も、犯人の特徴も、もう全て話してある。後は念のための連絡先を黒子から聞けば、もう黒子は帰ってもいい。
「黒子くん、もうだいたい聞きたい事は聞いたから、連絡先を教えてくれたらもう帰っても大丈夫よ」
黒子が了承して連絡先を教えようとした時。
「えぇぇーーー!!!もうお兄さん帰っちゃうの!?!?」
聞き込みという探偵ごっこを終えた子供達が黒子の元に戻って来た。
「もう一回ミソなんちゃら見せてくれるんじゃなかったのかよ!」
「ミスディレクションですよ元太くん!」
もう一回見せるなんて約束はしてないのだが、また今度にするという言葉を都合よく変え、もう一回見せる約束したと思い込んでる子供達は黒子にねだった。
「今度こそ見せてください!」
「見せてくれるまで逃さねーぜ!」
「歩美も見たい!」
「貴方達……」
ここでストッパー役の灰原は子供達をまた迷惑がかかる前に止めようとしたのだが、それを阻止する者が一人。
「僕にも見せてよお兄さん!」
さっきは黒子のミスディレクションを見てなかったコナンだ。彼を止められる者は今この場にいない。
「江戸川くんまで……。はぁ、私からもお願いするわ」
もう止められないと悟ったのか、今度は灰原もお願いしてきた。さすがにここまでくれば、黒子も断れない。
黒子はしゃがんで目線を子供達に合わせた。
「仕方ないですね。引っかからなくても文句は言わないで下さいよ。あ、また誰か何でもいいので物を貸してくれませんか?」
「じゃあ僕のスマホ使って!」
そう差し出して来たのはコナンだ。
「ありがとうございます。では、さっきとは変えて、今度は僕の目を見続けて下さい」
「「「はーい」」」
黒子の言葉に、みんな仲良く返事をする。
全員が自分の目を見てると判断した黒子は、手に持っていたスマホを上に投げて、キャッチした。
「どうでしょう。スマホに目が行きませんでしたか?」
「本当だぜ!!」
「また目を逸らしちゃった」
「うぅー、悔しいです」
「成功したようで何よりです。スマホ、ありがとうございました」
黒子は貸してくれたスマホをコナンに返す。
「お兄さんすごーい!でも、なんでそんなこと出来るの?普通はやらないよね、ミスディレクションなんて!」
受け取ったコナンは子供っぽく、あざとく聞いて来た。
確かに普通は日常的にミスディレクションなんて使う人はいない。いても、手品師くらいだろう。しかし、黒子はバスケで使ってるのだ。練習的な意味を込めて、毎日ミスディレクションを使って生きている。
また、WCで目立ってしまってから、自分の存在がバレやすくなったと感じていた黒子は、前よりもバスケとは関係ないところでもミスディレクションを使うようにして、練習していた。より、コートから目立たなくなるために。
「とある事情から僕は毎日ミスディレクションを使って存在を薄くしています。だから手品ではないですが、簡単なのならすぐにパッと視線を誘導できますよ。もちろん回数は限られてますけどね」
とある事情とはもちろんバスケなのだが、子供にバスケでミスディレクションを使ってますなんて言っても理解できないだろうと考えた黒子は、あえてぼかして言った。
(毎日存在を薄く……?なんでそんなことする必要があるんだ??それにとある事情って何だよ。視線誘導なんて手品以外で使いどころないだろ。それをわざわざぼかして言うってことは、使い道は手品じゃない。なら、何に使ってるんだ……?存在を消して、何をやってるんだ……?この男、やっぱりなんか怪しい)
ぼかして言ったことがコナンにさらなる誤解を与えていたのだが、当然黒子は気づく筈がない。
「おーい!こんなとこにおったのか!!」
そこに登場したのが、迷子(笑)になっていた博士だ。コナンは具体的な事情を聞こうとしていたのだが、博士の登場によって見事にできなくなった。
「さ、阿笠博士も来たことだし、貴方達はもう帰りなさい」
「えぇぇーーー」
「まだ犯人つかまってねーじゃんかよ!!」
「そうですよ!事件が解決するまで帰りません!!」
「被害者は目を覚ましたことだし、犯人の特徴も聞いたから、すぐに犯人は見つかるわよ。だから、もう今日は大丈夫。いつも手伝ってくれてありがとね」
そう言われれば、子供も残る!なんてワガママ言えなかった。
「わかりました………」
「ちぇっ!犯人逮捕まで見たかったな!」
「仕方ないよ。もうやることないんだもん」
「えっ?僕まだ聞きたいことが!!」
「ワガママ言っちゃダメだよコナンくん」
「そうだぜコナン。俺だってまだここにいてーよ」
「それに、僕たち遊んでる途中でした。博士と合流できたことですし、次の目的地にいきましょう」
佐藤刑事は子供を操る才能があるのかもしれない。普段はもっと駄々をこねる子供達が、すっぱりと事件を諦めれた。すごい。
そんな会話を尻目に、黒子は今度こそ自分の連絡先を佐藤刑事に渡した。
「ありがとう。また後日調書を書いてもらう時に連絡するわ」
「わかりました。では、スマホを忘れたまま家を出てからもう数時間経ってて、家族が心配していると思うので、僕はもう帰りますね」
「あ、待って!黒子くん、服に血がついてるわよ。このまま帰ってもご家族に心配かけるだけだから、送ってくわ」
「いいんですか?」
「ええ。運転手は私で大丈夫かしら?」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。佐藤さんの運転で問題ないですよ。このまま帰ったら何言われるかわからないので本当に助かります」
「じゃあ行くわよ」
「はい。よろしくお願いします」
こうしてようやく黒子は家に帰れることになった。
「あ、お兄さんも帰るんだね!」
「じゃあな!」
「また会いましょう!」
「あ、ちょっ、聞きたいことが!」
「まだ言ってるのコナンくん」
「そうですよ。僕たちももう行きましょうよー」
コナンは子供達に連行され、博士と灰原と一緒に次の目的地に向かっていった。
黒子も、コナンが聞きたいことが何なのか少し気になるものの、時間もないのでさようならとだけ言ってあとはスルーし、佐藤刑事の車に乗って家に送ってもらった。
黒子のコナンへの不信感と、コナンの黒子への疑念は何も解決されてないのだが、とりあえずこの場は解散された。
二人の不信感と疑念は解決されることがあるのか、そもそも二人はまた会うことがあるのか、それはまだ分からない。
ちなみに、被害者はその後なんの後遺症もなく動けるようになり、犯人も黒子と被害者の証言と警察の努力により捕まったことを言っておこう。
何はともあれ、こうして事件は解決したのだ。
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