ひとりめ

花宮真は死んだ。

しかし次の瞬間には転生した。

花宮真、彼は天才だ。でも、天才とは言え、彼が"自分が転生した"という状況を認めるのに1日かかった。それ程までに、記憶を持ったまま転生するのは異常なのだ。これが普通の人に比べて早いのが遅いのかはわからない。

そして花宮真が転生してから3日後、彼は自分の置かれている状況を完全に把握した。

要するに、今の自分は3才の男の子で名前は箱山波人。3階建てのボロボロアパートの1番上の角部屋に住んでいて、自分部屋は押入れ。父はいなくて母はアルコール依存症、そしてネグレストを受けていて、このままいけば半年以内に死にそう、という事だ。

なかなか悲惨な環境だが、彼は天才で、しかも二度目の人生。何もしない筈がなかった。

まず、彼は母を見捨てた。子供がいるのに自分の依存症を治そうとしないで放置する人に更生する希望はないと早々諦めたのだ。

次に、家を出た。これは家出という訳ではない。母が食べ物をくれないから、自分で探しに行くことにしたのだ。食べ物が無ければどんな人間であろうと死んでしまう。

警察などに頼って保護してもらえばいいものを、彼がそうしなかったのは、完全放置されているという状況が自分にとって好都合だから。もし保護の道を選ぶなら、孤児院に預けられるか、親戚や里親などに引き取られるかして、普通の3歳児として生きていかなくてはならない。いくら彼が猫被りに慣れていたとしても、3歳児のフリをするのは苦痛だ。そして彼は他人から干渉されるのを嫌う。保護されたらネグレストを受けていた可哀想な子として構われる可能性が高くなる。

だから花宮真は(今の本名は箱山波人だが、ややこしくなるのでここでは花宮真で統一する)今の状況から抜け出さなかった。

そうして食料を探しに旅に出た彼は、ショタコン共を利用する事にした。ちょっと常人には理解できそうにないが、兎に角彼はそうする事にした。

彼いわく、自分の見た目は前世と目の色以外ほぼ同じ。そして自分の今は痩せているどころかガリガリで骨が浮き出てるが、見た目は良いと自覚している。更に、この見た目が変態共に好かれやすいというのは前世で散々体験した。で、今は二度目なので人を[[rb:言いなりにする> 扱う]]術がある。

まとめると、変態共に好かれやすいこの見た目を使って食料をゲット!ついでに下僕もゲット!ってことだ。

わかりやすく言ってもやはりちょっと意味がわかない。何をどう思ったら保護してもらい3歳児の演技するのと、ショタコンを利用し下僕化する危険な橋を渡ろうとするのでは、後者を選ぶのだろうか。常人には天才の思考についていけない。

それで生きていけるのかとか、身は安全なのかとか、本当に出来るのかとか、ものすごく心配だ。けれど、彼はやってのけた。見事に下僕を捕まえられたのだ。

その流れを説明しよう。

まともに栄養をとってなかった二度目の体は、想像以上に体力がなく、歩きづらい。そんな中、花宮真は夕方に公園に向かった。公園は部屋の窓から見えている、だいたいアパートから100メートル程離れている場所にある。

わざわざ夕方という時間帯にしたのは、明るい時間帯だと他の子供や、子を持つ親に話しかけられる可能性が高かったからだ。話の通じない子供に話しかけられるはめんどくさいし、子持ちの親に自分の状況を怪しまれて通報でもされたら困る。

そうしてフラフラになりながらも夕方の薄暗く誰もいない公園にたどり着き、人の目につくブランコに座った。後は誰かに話しかけられるのを待つだけだ。

最初に話しかけてきたのは、純粋に1人でいる花宮真を心配した20代女性。


「ねぇ君、どこの子?もう遅い時間だけど、お母さんとかお父さんはいないの?」


あぁ、なんと優しいのだろう。けれど彼が求めるような人ではなかった。


「おとうさんはいないよ。おかあさんをまってるの」

「こんな時間に1人で??」


「うん、もうすぐくるんだ。だから、しんぱいしなくてもだいじょうぶだよ」

「でも……危ないよ」

「おかあさんね、しらないひととはなすとおこるから、もういってくれるとうれしいな」

「本当に大丈夫??」

「だいじょうぶだから、ばいばい」


と、こんな感じにこの女性は帰していた。ここで帰ってしまった彼女を責めてはいけない。そうなるように仕向けたのが当の本人である花宮真だからだ。ちなみに、表情豊かにするのがポイントである。下手に無表情だったりすると余計な心配をかけ、帰ってもらえなくなる。

そうして1人目には帰ってもらい、次の人。2人目は成人した子供がいそうな50代のおばさん。けれど、この人も求めるような人ではなかったようで、花宮真は1人目と同じような感じで帰らせた。

もう完全に日は沈み、公園の前の道に人が全然通らなくなった頃、彼に話しかける3人目が現れた。スーツを着ていて、指輪はしていない、おそらく独身の30代男性。花宮真は、第1の下僕をこの男性にすると決めた。


「ねぇぼく、1人なの?」


彼は返事をしなかった。自分の目線に合わせようとする男性をスルーし俯く。


「名前は?」


まだ返事はしない。


「お家はどこ?」


まだまだ返事をしない。


「お父さんとかお母さんは?お姉ちゃんやお兄ちゃんでもいいけど、大人の人はいないの?」


答えはない。


「もうこんなに真っ暗なのに、心配する人は誰もいないの?」


そしてようやく返事をした。


「おとうさんもおねえちゃんもおにいちゃんも、ぼくにはいないんだ。おかあさんはいるけど、おしごとだから」

「家はここから近いの?」

「うん。でもいまかえっても、ひとりだから……しんぱいするひとなんていないよ」

「そっか。じゃあ寂しいんだね」


声には出さないが、そこで小さく頷いた。


「もしよかったらなんだけど、おじさんの家、くる?美味しいご飯食べさせてあげるよ。あとはゲームとかも」

「いいの?」


ここで顔を上げ、花宮真はやっと男性と目を合わせた。


「じゃあ今度こそ名前を聞いてもいいかい?」

「僕、なみと。おにいさん、よろしくね」


こうして花宮真は今日の夕飯をゲットした。

あとはもう下僕化するのは簡単だ。一緒にいる間に"優しいね""凄いね"など相手を沢山褒めて、いい気分にさせる。そして、さりげなく次のご飯を食べさせてもらう約束をする。それから何度かご飯を食べさせてもらう内に、ネグレストの環境をふんわりと相手に伝え、花宮真が頼れるのは自分しかいないんだと思い込ませる。そうすると、男は花宮真の役に立とうと、更に彼の願いを叶えようとする。彼は誰でも出来る小さな願いしか言わず、男にその願いを叶えさせてもらう。また"優しいね""凄いね"と褒める。男は更に彼の期待に応えようとする。彼は小さな願いをいう。男はそれを叶え、彼はまた褒める。それの繰り返しだ。そうすると、だんだんと期待に応えたいから、裏切ってはならない、に変わる。

これで、下僕の完成だ。洗脳したともいう。

3歳児が大人の男性を洗脳したと言うと、とても恐ろしく信じられない事のように思うのだが、花宮真が大人の男性を洗脳したと言うと、なんとも思わなくなるのだから不思議だ。

花宮真はこうして下僕をゲットした。そして日を追うごとにおっさんからお姉さんまでどんどん下僕を増やしていった。下僕化の方法はそれぞれ違う。どうやったのかは皆様のご想像にお任せしよう。

とりあえず下僕も増え、ご飯を食べる量も増えた。結果彼は見事な健康体を手に入れたのだ。目指すは身長180センチ。