02 |
それから時は流れ、花宮真、8才の小学2年生。彼は下僕を使いつつやりたい事を好きにやるという感じで自由に過ごしていた。
ちなみに母親はキャバ嬢で働き始めたが、まだアルコール依存症は治ってない。そして彼が家を出かけることがあるのには気づいているが、下僕がいる事は気づいていない。
そして、そんな母を持つ花宮真は、この世界の事をまだちゃんと理解していなかった。
それはよく晴れたある日のこと。花宮はいつも通り今日の夕飯を用意してくれる予定の下僕のところへ向かおうとしていた。
その下僕はちょっと太ってるが、趣味は人助けといった感じで、金はほとんどボランティア団体や外国の貧しい子供達に寄付するような人だった。ご飯をもらう対価もなく、花宮のもつ下僕の中では比較的マシな部類だ。
そんな人を助けるのが好きな彼が花宮の下僕になったのは、それを正しいことだと花宮に思わされたからだ。先ほど"比較的"とつけたのも本当のいい人なら警察にでも通報しているし、そもそも子供の言いなりなんてならないから。
まぁそんな下僕の事情は置いといて、とにかく、花宮は夕方にその公園に向かい、その太めの男性と合流し、夜その人の家でご飯を食べる予定だったのだ。
公園に向かってその下僕と会うまでは順調だった。
「お兄さん!」
「波人くん、元気だったかい?」
「うん、みんなのおかげで僕は元気だよ」
「そうなんだ、よかったね。あ、お菓子持ってきてたんだった。食べる?」
「ありがとう!でも、いいの?夕飯もくれる約束なのに」
「全然構わないよ。波人くんは元気でいて欲しいからね」
「お兄さんは優しいんだね」
「ははっ、そんな事ないよ。じゃあもう行こうか」
「うん!」
夕方の公園というのは、人通りが少なくなる。大体の家が日が暮れる前に子供を家に帰らせるからだ。
だからこそ、人目につかない夕方の公園を待ち合わせ場所にしていた。けれど、その2人を目撃した人がどんな印象を受けるか考えて見てもらいたい。
一見、仲良く会話する光景は微笑ましく見えるだろう。手を繋いで公園を去ろうとする姿も、親子に見えるかもしれない。
だけど、花宮は美少年で、下僕は太ってる男性、つまりデブ。顔は似ていない。年はあまりにも離れすぎている。しかも会話の最中、下僕は花宮にお菓子をあげていた。
そう、見る人が見れば誘拐犯と誘拐されそうな子に見えてもおかしくなかった。
もしここにちょっと違和感に気づいやすい存在がいたら、犯罪をどうにかしようとする存在がいたら………どうなるのか。
答えはこうなる。
ドゴォ!
サッカーボールがものすごい音を立てながら下僕に当たった。その衝撃で、彼は倒れた。
「お兄さん!?」
あまりにも突然な出来事に、花宮も驚いている。
「キミ大丈夫!?」
花宮はこの状態を作ったであろう人物がいる方向に振り返って言った。
「てめぇふざけんなよ」
ガチギレである。
無理もない。誘拐犯から少年を救おうとした善意からくる行動であっても、その事により今日の夕飯を花宮は失ったのだ。もしかしたら彼はもう花宮の言うことを聞く下僕ですらなくなってるかもしれない。
「え、何言ってるの、キミ今誘拐されそうだったんだよ!お父さんかお母さんは?」
花宮はため息をつくと、自分と近い年齢の少年に向かって言った。
「それ、勘違いだから。今度は邪魔すんなよ」
花宮は今日の夕飯を諦めて自分の家に帰る事にした。気絶した下僕を介抱するのが面倒だったのと、誘拐は勘違いだけど、かといって自分の状況を説明するわけにもいかなかったからだ。
自分を呼び止める少年を無視して、公園を後にする。
(朝は食べる予定なかったから次の飯は明日の給食か)
花宮はそんな事を考えながら帰り道を歩いた。
これが、箱山波人に生まれ変わった花宮真と江戸川コナンとして過ごしている工藤新一との最初の出会いだった。
そう、ここは名探偵コナンの世界。花宮はその事にまだ気づいていなかった。
それから2人がまた出会ったのは、約一週間後の事だ。
一度バレたので、待ち合わせ場所を変えたのだが、またしても花宮は下僕と合流している場面を江戸川コナンに見つかったのだ。
けれどコナンくんは今回急にサッカーボールをぶつけるという事をしなかった。前回助けた筈の少年から"それ、勘違いだから"と言われていたのを覚えていたからだ。しかも、今回の下僕は女性。ただの知り合いのお姉さんの可能性もある。
だから、容赦なく犯人にはサッカーボールをぶつけるコナンくんも、流石に一旦様子見をした。
「君が波人くん?」
「初めまして、お姉さん」
「噂通り可愛いなぁ」
「ありがとう」
「お姉さんのお家においで」
「うん」
ただ、今回不運だったのが、この下僕はネットで見つけた相手で、今回会うのは初めてだということだ。
そう、この2人、ネット上でちゃんと絵のモデルをやる代わりに、ご飯をあげるという取り引きをした。下僕と言いつつも、ちゃんとモデルになるという対価を払う予定でいるのだから、この下僕もマシな部類だ。
そんな取り引きはされていたが、何も知らない人がこの会話を聞いたら、可愛いと噂になってる波人くんをお家に招く女性だ。しかも花宮は"初めまして"と言ってしまっている。だから、例えば犯罪は絶対に見逃せない探偵がこの光景を見たら、前回と同じく2人の関係を誘拐犯と誘拐されかけてる子と判断してもおかしくないのだ。
結果、犯罪は絶対に見逃せない探偵である江戸川コナンはこの女性をショタコンの誘拐犯と判断した。
サッカーボールが女性を襲う。
一般人でこのボールを避けられる人はいない。当たり前のように女性はサッカーボールに当たり、気絶した。
花宮はボールが飛んできた方向を振り返った。
そこにいるのは前回も夕飯の確保を邪魔した少年だ。
「またお前かよ」
「え?」
「邪魔しないでくれるかな」
「ねぇ、前回も勘違いって言ってたけど、どういうこと?誘拐されそうになってたんじゃないの?」
確かにコナンくんは花宮の夕飯確保を邪魔してしまったけれど、コナンくんを責めないであげてもらいたい。何故なら、誰もあの光景を見て少年がネグレクトを受けていてご飯を貰えないからショタコンを下僕にしてご飯の確保している、なんて思わないからだ。
どう考えてもおかしいのは花宮であって、コナンくんはなにも悪くない。
「お前には言わない。はぁー、もうどっか行ってくれよ」
「でも……」
見て少し会話するだけでその人が良い人か悪い人か判断できる花宮の才能には脱帽する。
コナンくんは間違いなく良い人で、真人間だ。そんな人がもしネグレクトを受けているという花宮の環境を聞いたら、通報して花宮と母親を引き離す。また、知らない大人から食料を得ているという事も危険だと辞めさせられるだろう。
目の前の少年がそういう人間だと判断した花宮は自分の環境を言わなかった。
「今度俺を見かけても放っておいてくれないかな」
「誘拐現場は見過ごせないよ!」
「だからそれ、勘違いだよ」
「じゃあどんな関係なの?」
「前の人は普通に俺の知り合い。今までに何度も一緒にご飯食べてる。この女性はネットで仲良くなった人。あぁ、現実で会ったのは初めてだから誘拐犯の可能性は否定できないか。その判断する前にお前に気絶させられた訳だけど」
花宮は一つも嘘を言っていないのだから流石だ。
けど、今までに何度も事件の犯人を捕まえているコナンくんも負けていない。
「そうだったんだ……じゃあなんで前回は男の人を放置して帰ったの?」
知り合いなら……というか知り合いじゃなくても気絶した人は置いて帰らないのが普通だ。そう、例えばその人が悪い人でない限り。
「俺はキミから逃げたんだよ。逃げた後でお兄さんから連絡貰ってその日の予定が無くなったんだけど」
この発言も嘘ではない。花宮はコナンくんに自分の状況を話したくなくて逃げた。そしてその後意識が戻った下僕から連絡をもらい、花宮がその日の予定をなかった事にした。
「へー、そうなんだ。僕の勘違いだったみたいだね!ごめんなさい」
実は前回、コナンくんは花宮が去った後、下僕が起きるまで待って、その下僕に少年との関係性を聞いていたのだ。結果知り合いの子供という返答があった。
花宮の話と矛盾していないし、被害者だと考えている花宮を疑い続けるのも無理がある。
違和感があるものの、とりあえずコナンくんは花宮の言い分に納得するしかなかった。
「うん、わかったならもう行ってくれないかな?」
「僕、このお姉さんに謝りたいんだけど……」
「どうぞ。いつ起きるか知らないけどな」
花宮からすればさっさと帰ってもらいたかったのだが、謝りたいという言葉を無視して無理矢理帰らすのはおかしい。しかたなく、花宮はその要求を呑んだ。
その女性を待っている間、コナンくんは花宮に質問しまくった。
「そういえばキミの名前は?」
「箱山波人」
「お母さんとお父さんは何してるの?」
「父さんはいない。母さんは夜働いてるけどどこで働いているかは知らない」
「兄弟はいるの?」
「いない」
「どこの学校?」
「帝丹小」
「そうなんだ!僕と一緒だね。何年生?」
「2年」
「年上だったんだ。あ、僕は1年生だよ。波人お兄ちゃんって呼んでいい?」
「お好きにどーぞ」
流石に質問する事が減ってきたのか、だんだんと静かな時が増え始める。コナンくんは会話を続ける気が一切ない花宮相手によく頑張った方だ。
そのおかげか、完全に無言になる前に女性が目覚めた。
「……ぅ…」
「お姉さん起きた?」
「……天使がいる」
「お姉さん、俺だよ。もしかして寝ぼけてる?」
「あー、波人くん。えーと………」
「お姉さんごめんね!僕がサッカーボールぶつけちゃったんだ!!」
「そうだったんだ。大丈夫だよ」
「そっか、よかったー」
「もう暗いけど、ぼく、1人で家に帰れる?お姉さんが送ろうか?」
「平気!じゃあまたね!」
こうしてコナンくんはようやく帰った。
残された下僕と花宮も、その後下僕の家に行き、花宮は夕食をゲットした。