09

いろいろ花宮は指示を出していたが、一言でまとめるとボス以外の犯人を少年探偵団に丸投げした。もちろん、タイミングや無力化させる方法は説明してある。なお、小学2年生にしては上出来な作戦なので、上手くいくとは限らない。しかし、花宮が支持した作戦で失敗しようと問題ないし、危なそうなら勝手にコナンが変えるだろうということで、あえて穴のあるままにした。

そんな花宮と古橋は4階の書店に来ていた。理由は、ボスを誘き寄せる為。ぶっちゃけ場所はどこでもよかったのだが、ボスが来るまで暇になるから、暇つぶしができる書店を選んだのだ。

踏み台に座り、お目当ての本を読んでいる。その様子を古橋は眺める。立て篭もりが起こっているとは思えないくらい平和的な光景だ。いや、高校生が美少年をガン見してるのはちょっと気持ち悪いが。

書店に来てから十数分後。バッジからまた声が聞こえてきた。


《やりましたー!》

《はんにゅー口のところにいた奴倒したぜ!》

《歩美頑張ったんだよ!》


まずは、搬入口の犯人を倒したと言う報告だった。声の後ろでは、微かに"馬鹿っ!お前ら声が大きい!"と言うコナンくんの声が聞こえる。


「すごいね!流石少年探偵団だ」

《こんなの楽勝ですよ!》

《残りの犯人もおれらに任せろ!》

「うん。頑張って」


これで残りはもう一つの従業員用出入り口と、地下駐車場の2人、人質を見張っている2人、ボス3人組だ。

人質を見張っている2人を倒すのには、今1階にいるボス3人組が邪魔だ。ここでようやく花宮は無線機を使ってボスに連絡をとることにした。

子供の声だと怪しまれるどころではなくなってしまうので、実際に話すのは古橋だ。


「こちら、ディチョット18。ボス聞こえますか?ボス?」

《…………何者だ》

「あなたの仲間です。忘れました?」

《我々にディチョット18はいない。何者だ?早く答えないと人質の誰かが死ぬぞ》

「あぁ、お前らはディチャセッテ17までだったな。人質の命には興味がないので、殺したければ殺せばいい」

《なに?》

「俺は4階の湯川書店にいる。別に来なくてもいいが、その時は……まぁお前にとって重要な情報が得られなくなるだけだ」

《どう言う意味だ?……おい!》


伝えるべきことは伝えたので、無線機の電源を落とす。

この無線によって、ようやくボスは何かが起きていることに気づいた。まず、4階の見回りをしている2人に連絡を取ろうとして、繋がらず。次は3階の2人に連絡して、でもやっぱり繋がらない。もちろん、2階の2人もだ。1階は数人は繋がったが、2人は出なかった。

情報を握っているのは無線の男だが、何があるかわからない書店に、行きたくない。万が一警察が突入してくる可能性があるため、出入り口を見張っているところからは人員は避けない。ボスは自分と一緒に行動していた2人を書店に向かわせるしかなかった。

ここで1人で行かせなかったのは、今まで1人で見回っていた者達の連絡がほとんどつかないからだ。

つまり古橋は銃器を持った2人を一気に相手することになるのだが………


「がっ……!!」

「お前どこからッ!?ぐっ」


本棚の影から1人目を奇襲。それで意識は落とせる。急に襲われて驚いているところにまた一瞬の隙が生まれるので、ここで2人目の意識も落とす。

高校生とは思えないくらい鮮やかな手口だった。そしてそのまま流れる様に銃器と無線機を奪い、持っていた紐で縛る。

古橋が戦っている一方で、花宮はまた少年探偵団から犯人の1人を倒したと言う連絡をもらっていた。今度倒したのは従業員用の出入り口にいた見張りだったようだ。

次の行動はと言いたいところだが、古橋が2人を倒すのがあまりにも早すぎた。なので、少年探偵団達が駐車場の2人を倒すのを待ってから、再度ボスに連絡を取ることになった。


「こちら、ディチョット18。お前ら意外と弱いんだな」

《…………》

「無視するな。どうせ聞いてるんだろう?」

《……何が目的だ》

「それを知りたければ今度はお前がここに来い」

《チッ……》


ボスの頭の中は無線機の向こう側の事で頭がいっぱいだ。

着々と自分の仲間の人数が削られているのに気づくこともなく、ボスは4階の湯川書店へと向かった。

そして書店へと辿り着き、中に入って一番最初に目についたのが、本を読む子供だった。この状況で本を読んでいるなんて、あまりにも異常だ。それに、無線機から聞こえてくる声は子供の声ではなかった。

この子供は一体なんなのか―――

そう、ボスが思考した時。


「動くな」


ボスの後頭部に、硬いものがあたった。


「お前がわざわざ2人もこっちに送ってくれたおかげで武器が手に入った」


古橋が銃器を突きつけていたのだ。花宮に目が行きすぎて、近くに古橋がいたのをボスは見逃していた。

ここで、花宮が本をパタンと閉じる。


「来るのがおせーよ。黒豹のボスさん」

「お前ら一体なんなんだ!?何が目的だ!?」

「何者でもない。ただ、黒幕の邪魔をしたかっただけだ」


特に猫をかぶる理由が無かったので、今回の花宮は素の花宮に近い話し方をしている。


「黒幕……??」

「まず、なんでここまでお前らは倒されていったか。答えは単純だ。ここのモールで立て篭もりをするのには人数が少なすぎる。せめて非常口も含めた出入り口の数くらいは用意しねぇと。普通ならその数の倍は用意するがな。では、何故人数が少なすぎるのにも関わらず、ここのモールで事件を起こしたか」

「それは……」

「どうせヒーローショーをやっている今日のここなら、子供を人質にとりやすい、とかだろ?」


花宮は今、機嫌が良かった。主人公を思い通りに動かせ、待っている間にお目当ての本を読めて、そしてこれから15人目の計画を潰せる。


「でも本当にそうか?ここより立て篭もり安くて子供もいる施設なんぞ他にいくらでもある。だが、ここが選ばれた。この施設はどうかと提案したものがいたからな」

「まさか」

「この計画を立てたのは誰だ?お前がボスになったのはなんでだ?誰が初めに声をかけてこのメンバーが集まった?」

「そんなはず……」

「お前の後ろにいる奴の他にも動いてる人達がいてな。さっきそいつから犯人撃破の連絡があった。これで残ってんのはお前と、人質を見張っている2人だ。このモール内にいるのはな」

「有り得ない」

「そう思うならお前がさっき思い浮かんだ奴のところに連絡をとってみるといい。返事は、"何も問題ありません"だろうな」


ボスはゆっくりと胸元にあるポケットから無線機を取り出した。そして、ボタンを押す。


「……こちらウーノ1ドゥーエ2、聞こえるか」

《こちら、ドゥーエ2。どうかしましたか?》

「何か問題は起きていないか」

《……いいえ。何も問題ありません》

「そうか」


ここまで来て、問題が起こっていることに気づかないわけがない。つまり、答えは明白だった。


ドゥーエ2が、裏切り者……」

「そっちからすると、そうなるな」

「さっき、黒幕の邪魔をしたいと言っていたな」

「あぁ」

ドゥーエ2は何が目的なんだ?」

「ふはっ、ここまで来てまだ分からないのかよ。お前らの裏切りものは、客と一緒に抜け出して、中にいる人質を利用し、外に出た客の中から1人を更に人質にして、その親族から金を脅しとることが目的だ」

ドゥーエ2はどこにいる」

「それは知らねぇな。だが、この無線機の機種の電波が届く範囲は5km。少なくともここから5kmの範囲内にいるだろ」

ドゥーエ2は最初から……」

「最初からお前らを囮にして、別で大金を手に入れる予定だったんだろうな」

「俺たちは何のために」

「金のためだろ?それが騙されていたってだけで。よくある話だ」


ボスは……ボスだった者は、不思議な感覚だった。もっと他の理由があるかもしれないのに、目の前の子供の言葉がすっと頭の中に入ってくる。

話している内容は到底子供が話す様なものではない。だけど違和感がなかった。


「俺は……」

「このまま立て篭もりを続けても、何も意味がない。どうせお前らの破滅は見えてる。だが、このままだと、ドゥーエ2だけが金を手に入れ、1人で逃げるぞ」


花宮はボスだった者の思考を先読みする。それは合っているとは限らないものだったが、言葉に出すことによって、自分はそう思っているんだと本人に思わせる。そしてボスの思考を誘導していくのだ。


「自分は破滅に向かっているのに、自分を巻き込み、陥れたドゥーエ2だけ逃げるのは許せないだろう。なら、今度はこっちが陥れる番だ」

「どうやって」

「簡単だ。今すぐ警察に降伏すればよい。そうすればお前は囮ではなくなる。そして、警察に仲間の1人が逃げたと伝えろ。ついでにこう言えばいい。本当のボスはアイツだったとな」

「あぁ、そうだな……そうか……」

「さて、お前はどうする?」

「わかった。降伏しよう。そしてドゥーエ2も道連れにする」

「それはよかった。それじゃあ、検討を祈ってるよ」


ボスだった者は虚な目をしながら、書店を出る。

その後、まだ少年探偵団に倒される前だった人質の見張りをしていた2人とともに、ボスだった者は降伏。花宮に聞いた通りドゥーエ2のことを警察に話した。

ボスだった者が降伏したことによって、モールに人員を割かなくてもよくなった警察側は、ドゥーエ2の行方を追った。

解放された子供の中から、保護者がいない子供を見つけるのは簡単で、ドゥーエ2が人質にとっている人を見つけるのも簡単だった。

そして、モールを囮にして油断しきっていたドゥーエ2はあっさりと捕まった。

花宮が3つだけ解体した爆弾は、指紋を拭き取り、ランプとタイマーの機能だけは残していたので、不良品だったのだろうと判断された。さすが花宮、用意周到だ。なお、残りの爆弾は、警察の爆破処理班が全て解体した。

テレビでは、犯人グループ内で仲間割れをし、バラバラになったところを警察が捕獲したと報道されている。犯人グループのほとんどを倒した少年探偵団の存在は、新聞と雑誌の記事に小さく載っただけ。

それらに、花宮と古橋の名前は一切なく、世間は2人の存在を知られないまま、この事件は終わったのだった。

何もかもが、花宮の思い通りだ。