#001

長い長い、悠久の時を生きてきて、僕―――といっても花なんだけど―――はいろいろなことを知った。


僕は、太陽から生まれたということ。
僕には特別な力があり、それは歌うことで発揮されること。
僕が、山火事で焼かれそうになったり、動物に食べられそうになったりした時は、いつも「あの人」が守ってくれたこと。
「あの人」は、どうやら美しくなりたいみたいだった。そのために僕を守り、利用していたようだった。
それでもよかった。
例えどんな理由でも、孤独で弱い僕を大切にしてくれるなら、それで良かった。
それにこの人は僕を独り占めしない。
歌うことで、周りの草花や木々にも、僕の力を分けている。

僕はこの人が大好きだった。
僕を守ってくれる優しい人。
この人の歌声はとても綺麗で、いつも聞くのを楽しみにしていた。

……それなのに。


「見つけたぞ!」
「あの花だ!」
「よし、慎重に持ち帰れ!」


森に似つかわしくない鎧の音が辺りに響く。
誰?どうして、僕を探すの?
火を近づけないで、やめて、こないで、
……こわい。

ざくっ。
土に何かが刺さる音。
気がつくと、僕は地面と離され、そして意識は真っ暗闇の中に落ちていった―――。



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