#002

……ふと気がつくと、また僕の意識は闇の中を揺蕩っていた。

『……Let your power shine……』

またあの優しい歌が聞こえてくる。
それと一緒に、なんだか擽ったいような、撫でられているような感覚が僕を包む。

……ここには、あの花達はいないのか……

『ねぇ、もうおわり?』

『ええ、終わったわよ』

どうやらあの人には大事な人ができたみたいだ。
その人―――それは小さな少女だった―――に、意地悪なことを言いはするけれど、とても大事にしているみたいだった。
何も知らないその少女に、手取り足取り物事を教える。
料理、洗濯、掃除の仕方。
文字の読み方、火の付け方。
……外の世界がどんなところか。人間が、どれだけ恐ろしい存在であるか。
少女は不満こそ言ったが、その人のことを「お母さん」と呼び、きちんと言うことを聞いているみたいだった。

どうやら僕はその少女の髪となり、あの人は少女ごと僕のことを守ってくれているみたいだった。
これはこれで幸せだった。
その少女はとても活発で、弱小な花であった僕はその少女を持ち上げられるくらい強くなっていたし、その少女が描く絵は本物のあの花達に負けず劣らず色鮮やかだった。

だけど、そんな日々も長くは続かなかった。


『〜〜〜〜!!』

少女の焦る声、あの人の怯えた声。
少女の泣き声、誰かが僕をぎゅっと掴む。
やめてよ、痛い、離して、苦しい、怖いよ、助けて―――
いろいろな感情がごちゃまぜになり、

ざくっ。

今度は土ではなく、身体に鈍い痛みを覚える。
ざらざらという、何かが地を這うような音とともに、僕の体は段々固まり、力を失うのがわかった。

僕の意識は、今度こそ真っ暗闇の中に急速に落ちていった―――

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