魂の話。



「魂が同じであれば、同一人物だと思いますか?」


とある仕事を一件終わらせた帰り、食事を摂る為立ち寄ったレストランで案内された席に座る。
手渡されたメニューに目を通しながらご遺族の方が呟いていた言葉を思い出し、アズに尋ねたのが先の言葉だった。

アズの答えはYES。
簡潔にまとめると、「生き物の本質は魂にある、肉体は所詮器。」と言う事だった。

例えば恋人だったとして、その人の顔や身体に好意を寄せたのかと言われるとそうではないと答える人が多いのではないか。性格や考え方などを多く挙げられる印象を受ける。

それらはその人を取り巻く環境で魂に刻まれていった経験値のようなものである。
その点で言うとアズのいう本質という言葉には、少し納得する。
けれど、それを否定する考えも、同じ魂でも前世と今世で環境が異なり違う人格形成かされるのであれば別人ではないのか。という紙一重のものだ。


「でも、魂は同じでも性格や考えは環境に影響されて変わるんですよね。」

「うん。でも、魂の記憶っていうのは根本にあるものだから意外と通ずるものが多いんだよ。そこから前世の器だった人物との共通点が垣間見えるんだ。例えば…」


例えば彼。と指を指したのは少し離れたところで席を立ったグレーのコートを着た男。
彼は前世、足を悪くしてしまって上手く歩くことができなかったらしい。そう話を聞いてる間に彼はアズの言う通り自分の足に足を引っ掛けて転けた。

偶然、ですよね?と半信半疑でアズを見やれば、どうかな。笑顔が返ってくる。

それから彼女、とまた別の人物を指した。
赤い帽子が特徴的な少し派手目な女性。彼女は前世、たくさんの男を弄んでいたらしく、今世は前世の影響で男性との縁がない。まさに今別れ話をされているようだった。

そして二つ隣の席で運ばれてきたデザートに手をつけようとしている青年、彼は前世が左利きで右利きに強制したためそれが引き継がれているが今は両利きだ。

今料理を運んでいる男性は前世で首を切られて亡くなったせいか首元を触る癖がある。実際フロントとキッチンを忙しなく行き来してる間に何度も首に手をやっているのを目にしている。


「それから、時々人間のような行動をとる動物がいるだろう、それは前世の魂が人だったからだ。逆も然りだね。」

「面白い話です。でもやっぱりいまいち納得は…」

「ふふ、そうだね。器が変われば歩む道も環境も変わる。けれど、器が変わっても同じ環境で育てば前世とほとんど変わらない人格が形成されるんだよ。
或いは、何か大きなきっかけで記憶が甦る、とかかな。」

「実証済み、と言うことですか?」

「まあね。実験のつもりはなかったけれど。ある人間の願いを聞き届けたら結果そうなったんだ。面白い話だね。」


命の本質は魂にある。という言葉はそういうことか、と納得する。
もしも僕が生まれ変わって、似た境遇で育てばまた僕のような人生を歩む…そしてもしそこでまたアズと出会うことがあればアズとの思い出の蓋が開くかもしれないと言うことだ。


「アズは、僕の魂が生まれ変わっても今と同じように好きでいてくれるってこと?」

「僕は君の魂を僕のそばに置くつもりだよ。
君が拒まない限り…いや、どうかな…拒まれたら傷ついちゃうかな。」

「そっか…でも僕はアズのことを見たらまた好きになると思います。」

「ふふ、そうだと嬉しいね。」


まるで愛の告白のようなことを口走った気がして、熱が顔に集まるのがわかる。楽しそうにしているアズもそれを気づいてるんだろうなと、気を紛らわせるために水を喉に通した。




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