ふたりの図書室 後藤百合の入学した高校は不良が多いことで有名だった。試験当日体調を崩し志望校の受験に失敗。二次募集で定員割れしていた学校に入学したわけだが、しばらくは強面の同級生や先輩に馴れず肩身の狭い思いをしていた。 本が好きなので図書委員に立候補し、毎週水曜日は彼女が貸し出し管理を行っている。 もっとも彼女以外の図書委員は全員いないも同然なので、実質水曜日の放課後と昼休み以外図書室は機能していない。 だがその貴重な時間に、必ず図書室へ顔を出す人物がいた。 不良だらけの学校には珍しい読書好き。百合と同様学校の色に染まれない人間かというとそうではない。 入学当初から高身長と強面で校内ヒエラルキーのトップに躍り出た男――空条承太郎。 本とは縁遠い存在に見えて、彼は海に関する専門書や、飛行機・船といった乗り物に関する専門書を好んで読んでいた。 「貸し出し頼むぜ」 そうして彼は今日も図書室に来て、本を借りていく。 稀に図書室で一冊読んでいくこともあった。 全校生徒のなかでふたりしか図書室を利用しないので、必然百合との会話は多くなる。 あまり喋るほうではない承太郎だが、百合も喋るのは得意ではない。だから波長が合うのだろう。 周りにいる女子生徒を怒鳴り散らしているイメージが強いけれど、話してみると非常に穏やかな男だった。 「そうだ空条君、今度新しく本を購入することになったんですが、なにか希望図書はありますか?」 「図書委員でもないおれがリクエストしてもいいのかよ」 「私以外の図書委員は幽霊委員ですし、空条くんと私以外、図書室を使う人はいないので」 百合の言葉を聞いて承太郎が口の片端をゆがめた。 「違いねぇな」 今日彼が借りた本は船舶海洋工学の専門書だ。 「じゃあ生物海洋学の本、あったら入れといてくれ」 「わかりました。調べて、よさそうなものを頼んでおきます。文章中心のものがいいですか? 図解が多いものがいいですか?」 「図鑑はあったから、少し専門性の高いモンが読んでみてぇな」 「わかりました」 「後藤」 「なんでしょう?」 承太郎と百合の目があう。最近気づいたのだが、ハーフだからなのか彼の目はやや緑がかっている。 「……お前、おれと同学年だろ」 「そうですね」 「タメ口でいいぜ。敬語だと、妙な感じするしよ」 言い終えて、承太郎が帽子を深く被り直す。緑の目は見えなくなってしまった。 百合はなんだかくすぐったい気持ちになる。 「――うん。良さそうな本、いれておくね!」 帽子で目元を隠したまま、承太郎も少しだけ笑ってくれた。 [しおりを挟む] 目次戻る |