蚊帳の外「花京院くん、転校したんだって」 「えっ、だってそんな話全然言ってなかったじゃん!」 「やだーショック−! カッコ良かったのにー!」 クラスメイトの話し声を百合は茫然と聞いていた。 彼女の目線の先には誰も座っていない机がある。 先週まで花京院典明が使っていた机だった。 「花京院くん……」 名前を呼んでももう答えてくれる男はいない。 なぜなにも話してくれなかったのだろう。彼はいつもそうだ。他人と一線を引いている。 百合は花京院と同じ幼稚園、小学校、中学、高校に通っていた。幼なじみということになるのだろうか。 けれど、世間一般に認知される幼なじみほど親しい間柄ではない。 花京院典明は大人しい男の子だった。幼稚園のころはひとりで本を読んだり絵を描いたりしている子。 大きくなるにつれ友人も増えたがそれも広く浅くといった感じで、結局だれとも本当の意味では仲良くなかったのだと思う。 百合はそんな花京院と仲良くなりたくて小学生のころから地道にアプローチを続けていた。 たまに一緒に帰ったこともある。委員会が一緒だったことも、隣の席だったことも、一緒に遊んだことも、まあ何度かある。 だが結局百合にも花京院はどこか距離を置いていた。 その証拠に今回の転校は百合だって知らされていなかったのだ。 クラスメイトの会話が聞こえてくる。 「花京院くんの転校先、誰か知らない?」 「わかんないけど、家は引っ越してないって話だよ」 「えーじゃあなんで転校したんだろう!」 住所が変わっていないなら好都合だ。家の近くを通れば花京院に会えるかもしれない。そうしたらさりげなく高校を聞くことだってできるし、なぜ転校したのか聞くことだって出来る。 ――ううん、もうそんなんじゃダメ これまでずっと、もうすこし仲良くなったら、仲良くなったらと思って先送りにしてきたが、いい加減行動を起こした方がいいだろう。 今までのアプローチは間違っていたのだ。もうちょっと積極的にならなければ、きっとこのまま一線を引かれた状態で終わってしまう。 ――家まで行って、花京院くんに告白する! そうすればきっとなにか変わる。フラれたらそれはそれだ。だって今告白しなければ、友人のまま親しくすることも叶わない。 ――頑張るのよ百合! 大丈夫、今花京院くん、恋人いないから! 1番近い女子が自分だという自負もある。黙って転校までされて、望みは薄いが行動しなければなにも変わらないのだ。 ――彼女の小さな決意は、転校初日に花京院が行方不明になったことで機を逸することとなる。 そして百合が決意した50日後花京院典明がエジプトで事故死したという報道がテレビで流れた―― [しおりを挟む] 目次戻る |