4「やあ、マリア・スミス! まさかこんなところで君に再会するなんて思わなかったよ」 金髪の美少年が親しげにマリアへ話しかけてきた。昔はお互い顔を知っているというだけで言葉もマトモに交わしたことなどなかったのに。 「今日から身の回りのお世話をさせていただきます。宜しくお願い致します、ディオさま」 「ああ、よろしくマリア。顔見知りがいてくれてぼくも心強いよ」 ディオが少しずつマリアとの距離を詰めてくる。嫌な予感がした。 「あの、それではご用がありましたらお呼び下さい」 部屋から出ようとしたマリアの腕をディオが掴む。 親しげな態度とはまったく違う、アザができそうな強い力。 「っ!」 マリアが息をのみ身体を硬直させた一瞬。背中を壁にたたき付けられ鈍い痛みが走った。人形のように整った顔が至近距離にある。長い睫毛の奥で敵意にギラつく目が少女の姿を映していた。 「用事ならあるさ、マリア」 「い、痛いっ……! 痛い、です……!」 少女が身をよじるも腕が離れる様子はない。壁に押しつけられたまま逃げる術もなかった。ディオが笑う。人を見下す酷薄な笑み。きっとこれが彼の本当の笑顔だ。 「当然だ。痛いようにしているからな。君がぼくの頼みを聞いてくれるなら、そうそうに解放してやろう」 言葉とは裏腹に、ディオの腕に力がこもる。マリアの耳に口を近付け、囁くように言葉を紡いだ。 「君がかつて見た"ぼく"は忘れろ。もしこのジョースター邸で言いふらしたりしたら、君もここで働けないようにしてやるからな」 掴まれた箇所の骨が軋む。 「いっ、痛い痛いッ!!」 「ここで妙な噂が立ったりしたら困るんでね。悪く思わないでくれよ」 腕はもう痣になっているだろう。ディオは怯えるマリアを満足げに見下ろしていた。 "彼女の見たディオ"は、貧民街で飲んだくれの父親と一緒に暮らしていたディオだ。酒場で駆けトランプをして日銭を稼いでいた。他にももっと、いろいろな方法で生活費を稼いでいたと思う。 「ジョ、ジョージ様はっ、そんなことで貴方を見捨てたりしません!」 「随分信頼しているんだな。生憎ぼくは他人の意見など参考にするつもりはないんでね」 マリアがディオを睨み付け、ディオはマリアを嘲笑混じりに見下ろしている。 少女が苛立ち紛れに声を荒げた。 「私は告げ口みたいなことはしません! 貴方も、貴方を引き取って下さったジョージ様に感謝されてはどうですか!」 緩んだ少年の腕を振りほどきドアに近づく。最後にディオを睨み付け、それから逃げるように部屋を出た。 取り残された少年は足音が遠ざかるのを確認し、やがて小さく肩をふるわせ始める。 「フン、気の強いメイドだ。せいぜい楽しませてもらおうか」 彼の目は、獲物をいたぶる獣のような光を帯びていた。 [しおりを挟む] 目次戻る |