みんなでハロウィン

「ふむ、こんなものかな」

今年もやってきました。泣く子も黙るハロウィーン。毎年10月後半からハロウィン当日まで、店内もハロウィンらしく飾ったりしている。珈琲はいつもと変わらないけれど、ちょっと軽食も拘ってみたりしているが、これが中々評判が良かった。最近の100円均一って優秀すぎてあれもこれも買ってしまったのだが、なるようになったと思う。ものの数百円で満足いく内装になったので、いそいそと脚立から降りた。元々欧州の古民家カフェチックな内装なので、ちゃんとハロウィンの飾りも浮くことなく馴染んでいる。うんうん、と自分の仕事ぶりに関心しつつカウンターの奥へ戻ると、丁度扉が開いて今日のお客さん第一号が現れた。

○ハロウィン with 松田さん

「…ったく、ここもハロウィンかよ」

「お、松田さんいらっしゃーい!疲れてるね」

「今日は仕事場もハロウィン一色だったからな…んで、なまえもすんのか?」

「ご名答!トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」

「可愛くねえ」

「酷い」

メニューを渡した手でお菓子を強請ると、松田さんは溜息を吐きつつポケットの中を漁り始めた。顔をしかめる割にはちゃんとノッてくれるとこ、好きだよ。職場もハロウィン一色だってことはきっと甘いものが苦手な松田さんもたくさんお菓子をもらったに違いない。あ、逆か?

「ん」

「おおっ!…ってこれゴミじゃん!」

「腹減ってたから途中で食べたんだよ。序でに捨てといてくれ」

「うわーないわー。悪戯決定」

「お前も毎年飽きねぇのな」

「お祭りだからね、楽しまないと損じゃない?」

はいはい、と受け流した松田さん。常連さんだから毎年こんなやりとりするのはもう慣れているのだろう。だがしかし!今年は違う。去年までは何だかんだでお菓子もらえなくても悪戯しなかったけど、余裕こいて居られるのも今の内だ。今年はちゃんと悪戯用意しているんだよ、松田さん。いつもの珈琲をサッと真逆の味のそれへと入れ替える。そして何食わぬ顔で彼の前に置いた。

「お待ちどーん」

「おい、巫山戯んな、淹れ直せ」

「なぜバレたし!?」

「分かり易過ぎんだよ」

睨まれて珈琲を奢らされた挙句、悪戯も失敗してしまった。中々上手くいかないものである。
結果、たかられました。

○ハロウィン with 萩原さん

「なまえちゃん機嫌がいいね」

「ハロウィンだしね〜この時期好きなんだよ」

「俺も俺も!色々美味しくなる時期だしね」

「分かる分かる!萩原さんも食欲の秋なんですなあ」

松田さんと入れ替わるようにやってきたのは萩原さんだった。今日は昼休憩の関係で松田さんとは別行動らしい。それなのに同じお店に時間差で来るあたり、やっぱり親友なんだなって思う。それはさておき勿論萩原さんにもあれをやるつもりだ。両手を出して満面の笑みを浮かべてみた。

「萩原さん、トリックオアトリート」

「お菓子ないから悪戯していいよ」

「んん?!」

「楽しみだなあ、なまえちゃんの悪戯」

さあ、どんとこい、とばかりに両手を広げた萩原さん。私よりいい笑顔で今か今かと悪戯を待っている。いやいやいや、意味が分からないよ。悪戯どんとこいとか何だよ。確かに萩原さんはそっちの気というか何というか自主規制するけど、私とめっちゃ絡みたがるよね!知ってた!それでいいのか、警察官。

「ほら、何するつもりだったの?」

「う、うーん…改めて言われると思いつかないというか…あ」

「ん?」

「禁煙とかどう?」

「ん〜無理かな!」

「即答?!」

「それ以外の悪戯ならいいよ。ほら、考えて考えて!」

結局、むにっとほっぺたを摘ませてもらうことで落ち着いた。顔?何が嬉しいんだかデレデレだったよ。
結果、悪戯を強請られました。

○ハロウィン with 油井さん

「お、今年もハロウィンやってんなあ」

「油井さんおひさ〜!珍しいね、夕方来るの」

「たまたまこの辺でちょっとな」

カフェタイムも過ぎて店内のお客さんが捌けた頃、狙ったように油井さんがやって来た。今日は木枯らし1号も吹いたみたいで外は結構寒いらしい。油井さんの耳が真っ赤になっていた。

「とりあえず今日のオススメのホットで」

「はいはい。外寒い?」

「結構冷えるな。帰り気をつけろよ〜」

「油井さんもね」

瓶から今日のオススメを取り出してネルフィルターにセットする。ポツリポツリと最近あったこととかを話しながら、蒸らした珈琲粉へお湯を注いでいく。ふわりと酸味とも香ばしさとも言える香りが立ち昇った。油井さんはその瞬間が好きらしく、抽出する時はじっと私の行動を見ているので、何だかむず痒い。

「あ、そういえばさ、あれやっていい?」

「おー、今年は何やんだ?」

「取り敢えず、トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃ…」

「ほらよ」

「わわっ!せめて最後まで言わせてよ!」

ぽいっと投げられたのはGIGOVAのチョコレートだった。おい、まじか。どうした油井さん。バレンタインならまだ先だよ!まさかの高級チョコに驚きで固まってると、机に両膝をついた油井さんはニヤッとしながらずいっと身を乗り出して来た。なんだ、その何か含んだ表情は。

「菓子もやったが悪戯も捨てがたいよなあ」

「いや、捨ててくれていいよ。油井さんそんなキャラじゃないでしょ」

「偶には嗜好を変えてみるのも面白いだろ」

「それ油井さんだけね」

「あ、あれしてほしい。メイド服で猫耳」

「何の拷問?!」

「ほら、ここのアルバイトの子がなまえの分も買って来てただろ?着ろよ」

にかっと悪びれなく言う油井さん。何故誰にも言ってないことを知っている。流石はnockだったことあるね、後半半分脅しだけどあれを着る気はない。断固拒否の意思を示せば携帯をちらつかせ私の恥ずかしい写真を流出させると仄めかされた。完全なる脅迫である。結局数分間だけ着るはずのなかったコスプレ衣装を着ることになってしまった。
結果、悪戯をリクエストされました。