○ハロウィン with 降谷さん
「なまえさんも懲りませんね」
泣く泣くメイド服に猫耳という格好で油井さんに接客していたら、偶々来た降谷さんが助けてくれた。何してんだと、油井さんにボディーブローをかます降谷さん、素敵。お店に入って来た瞬間、意外なものを見たとばかりに変な顔になっていたことは忘れてあげよう。
「油井さんがあんなこと知ってるとは思わなかったんだもん」
「大体いい大人がハロウィン如きで浮かれるのが間違っているんだ。遊ぶ余裕がある油井には仕事を増やしてやった」
「おおう…油井さんドンマイ。降谷さんは本当にこういう浮かれポンチなイベント嫌いですよね」
「別に嫌いではない。魔女だの猫だのに浮かれる暇があるなら仕事をしろと思うだけさ。ハロウィンイベントのおかげでどれくらいの警察が動いていると思っているんだ…!」
「降谷さん、どうどう」
何やら働き詰めのせいかリア充に向けて毒を吐き出し鉄砲をぶっ放しそうな勢いだったので、慌ててアルツーラを淹れてあげた。うん、珈琲の香りには気分を落ち着ける作用もあるし、沢山嗅がせなければ。これから戻ってまた仕事らしい。頑張るね!ごめんけど見習えない。あのセリフを言ったらまた怒られるだろうか。でも物は試しだと、珈琲カップを傾け始めた降谷さんに向けて、あの言葉を言ってみた。
「降谷さん、トリックオアトリート」
「……お菓子もないが悪戯も認めない」
「だろうね」
ギリッと音が聞こえそうなくらい珈琲カップの取っ手が握られた。降谷さんの荒んだ心を癒してあげようと思ったのだけれど、要らぬ世話だったらしい。私に向けられる目が据わっているのを見て、これは不味いと悟ったが後悔先に立たず。くどくどと降谷さんならではの解説が始まった。
「なまえさん、まだ分かっていないんですね。いいでしょう。元々ハロウィンとは古代ケルト民族の宗教の1つであるドゥルイド教で行われていたサウィン祭が起源と言われています。サウィン祭とは本来ならば秋の収穫を祝い悪霊を追い払う祭りでしたがどういうわけか日本には単なる仮装パーティーとして…」
「あー!!分かったから!ストップストップ!ごめんね、降谷さん!もうしないよ!」
「…分かればいいんです」
全く珈琲くらいゆっくり飲ませてくれと、目頭を押さえながら溜息を吐いた降谷さんに、ごめんねの意味も込めてハロウィン仕様の珈琲請けを多めに付けてあげた。この後も仕事頑張ってください。
結果、お菓子をあげました。
○ハロウィン with 赤井さん
「Trick or treat」
「んん?!私のセリフかな?!」
降谷さんが仕事に戻ってから数分後、夕暮れを背に赤井さんがお店に入って来た。ナイスタイミングだよ、赤井さん。あと数分後早かったら店内で年末特番宜しく格闘技が始まってたよ。まあ、それはさておき扉が開いて誰かを確認する前に、やけにいい発音で例のセリフを言われる。いや、赤井さんが1番こういうイベントに参加しなさそうだけどね。
「いらっしゃい、赤井さん。取り敢えず座ってはどうでしょう?」
「あぁ、そうだな。それで、どっちがいいんだ?」
「あ、選ばせてくれるんですね。ならお菓子で」
「残念ながらいま腹は空いていなくてな。悪戯で我慢するといい」
「じゃあなぜ聞いたよ?!」
ジャケットを探るそぶりも見せないから変だと思ったけど案の定これだ。長い足を組んで、背もたれに身を預ける赤井さんは、大層偉そうである。きっと私に行う悪戯でも考えているんだろう。全くいい大人がハロウィン如きで浮かれるなんて、と自分のことを棚に上げて、降谷さんの言い分を心の中でなぞる。
「…考えたんだか」
「悪戯の話?」
「ああ。少し頼みたいことがあってな」
「それガチじゃん。やだよ、去年もそんなこと言って私のこと置いてったじゃん。見張りだとかなんとかで」
「…?…迎えに行っただろう?」
「日付が変わってからね!絶対回収すること忘れてたでしょ?!」
そうだったか?と何やら納得してない赤井さん。なんか良くわかんないけど仮装パーティーに連れて行かれて散々な目にあった記憶が懐かしい。それもこれも前回のハロウィンで私がお菓子を用意していなかったため、悪戯と言う名の頼まれごとを引き受けることになったんだが、前回と同じ轍は踏まないと今年はちゃんとお菓子用意したのに。むしろ私がもらう方なはずなのに!
「何、大したことじゃないさ。うちのボスがなまえの珈琲を飲んでみたいと言っててな。見繕ってくれ」
「タンブラーのお買い上げを希望します!」
「了解」
するりと出された財布に、私の方が吃驚した。何だ、と聞かれたが慌てて首を横に振った。本当に今年はこれが赤井さんの悪戯らしい。去年よりも簡単すぎて何だか気が抜けてしまう。取り敢えず豆は好き嫌いのない人が多いブルマンで用意して、タンブラー代とともにふんだくっておいた。そうして赤井さんも自身の珈琲を注文したのだが、時間もそこそこにすぐに席を立つ。どうやら時間がないのに寄ってくれたらしい。疑ってごめんね、赤井さん。
「…なまえ」
「はーい?」
釣銭を数える手を止めて顔を上げると、グッと引き寄せられた。おいおいおい。そんな驚きは望んでいない!口から心臓が飛び出ないように息を止めたが、するりと首の辺りを彼の手が撫でで直ぐに離れて行った。
「…ゴミが付いていた」
「おおおおおお!ああありがと!紛らわしいなあ!」
「…顔が赤いがどうした?」
「それ聞く?!分かってるのに聞いちゃうんだ!さっさとお仕事に戻ったらいかがですかねえ!」
「フッ…帰りは背後に気をつけろよ」
「縁起でもないことを言わないで!」
私の慌てっぷりを存分に楽しんだ赤井さんは、後ろ手に片手を上げてお店から出て行った。全く心臓に悪い。実はこっちが悪戯だったのかと、未だにばくばくする心臓を服の上から押さえた。
結果、完全に揶揄われました。
すっかり暗くなった街中は、仮装やフェイスペイントをした若者が練り歩いている。その姿を窓から眺めつつ、溜まった洗い物に手をつけた。そうして今年もハロウィンの夜が更けていく。なんだかんだ楽しかったので、来年もまたやろうと思います。
〜おまけ〜
○ハロウィン with ジン
「店を開けるか悪戯か選べ」
「お持ち物が物騒ですね?!直ぐに開けます!」
仕込みも片付けも終わってお店を閉めようと鍵に手をかけたら、ずいぶんご立腹なギンさんが立っていました。何やら黒いブツが見えた気がしたので、彼が満足するまでお店を開けることにしました。それでも新しいネルフィルターをお菓子の代わりにくれたので、許そうと思います!