はい、どうも。
トレーナー歴6年目の一般トレーナーです。名をユウと申す。
元はカントーに住んでいたのだけど、両親の仕事の都合によりシンオウに移住し、成長。10歳になってみんなと同じ様に旅に出ました。
言うて相棒はシンオウ御三家ではなく、カントーからずっと一緒にいるイーブイなのだけど。
そうして年単位でトレーナー旅をし、今はガラルでの旅を終えて実家に帰宅してきた。
「ただいまぁ、お母さん」
「ブーイー!」
「あら、おかえりユウ。イーブイちゃんもね。今回の旅はどうだった?」
「ん、楽しかったよ。バトルはまだ勝手がよく分かんないけど…地方によって違い過ぎるよ…」
「誰だって得手不得手はあるわ。それより、お父さんが書斎にいるから挨拶しておいで。拗ねてたわよ」
「…連絡少なかったのは反省してるよ…つい忘れちゃって…」
事実、旅をしていたらいつ何があるかわかったもんじゃない。なるべくスマフォの電池を残しておこうと思うと、連絡は疎かになってしまう。でんきタイプの子がいても、みんながみんな充電とか出来るかと言ったらそんな訳ないし。負担かけるわけにはいかないし。
そういっても、やはり両親が自分を心配してるからこその言葉であるとも理解しているので、少し気まずい。次はちゃんとするよ。週一くらいで。
「全く…あ、ほら。イーブイちゃん。ポフィンあるわよ」
「ブイっ!」
「あっ、お母さん。イーブイ食べ物で釣らないでよ」
イーブイがいるのといないのとでは説教の長さが違うのに。
しかし、ポフィンに目を輝かせながらもふもふな尻尾をブンブンと振り回している姿を見ては何もいえない。自分のイーブイマジ可愛い。
「もう…じゃぁ、挨拶してくるよ。イーブイ、食べ過ぎないで、みんなの分残しとくんだよ」
「ブーイ!」
いいお返事である。あの子は有言不言実行な健気な子なので信頼できる。眩しい笑顔のお返事イズ、エンジェル。
トントン、と二階への階段を上がっていく。旅から帰ってきてここを通ると、いつも時の流れを感じてしまう。旅に出る前は広く感じていた廊下は、今はとても狭く感じる。
二階に上がり、最奥の部屋。そこが父の書斎だ。
扉の前に立ち、一度深呼吸。ながぁーーーく息を吐いて、決心して三回ノック。少しの間を開けて、「入れ」と硬い声が返ってきた。
「失礼します」
ガチャリと音を立てて扉が開く。入ってすぐに閉め、ぐるりと書斎を見回した。
自分が旅に出る前と比べると、紙やら本やらが明らかに増えている。父はポケモン研究員…それも、時空や時間といった、ここシンオウに濃く爪痕が残っている分野の研究員だ。何かしらの研究に熱が入っているのだろうと、一目でわかる。
そんな部屋の様子を見てから、やっと父のいるデスクへと視線を向けた。所謂ゲン○ウポーズ姿の父は貫禄がある。強面がその貫禄に威圧感を上書きしていた。が、強面なのは元からだし、赤子の頃からその顔に育てられてくればそんなの屁でもない。
フローリングに落ちている本などを蹴ったりしない様に注意しながら、父の前に歩み寄る。険しい目つきの父の視線に、にこりと笑顔を返すと、ピクリとまゆが動いた。
「ただいま、お父さん」
「…あぁ」
「今回はガラルに行ったよ。あそこ凄いね、ポケモンがでっかくなって戦うのってピンと来なかったけどね、やってみると今までの戦い方が全然通じなくて。でも結構楽しかったよ」
「…そうか」
「うん。まぁ、ジム戦では苦戦ばっかりだったけどね」
「…知っている」
「あ、中継見てくれたの?こっちでも流れてたっけあれ。まさか、後輩さん脅したりしてないよね?」
「………」
「黙秘は肯定と取るよ。…まぁいいけど。それでさ、お父さん」
一通りの近況報告をしたあと、まだ身に付けていたホルスターを撫でる。その仕草を見た父の眉がはねたのを見て、自分は今回のお説教は無くなることを確信した。
「新しい子達を紹介したいんだ。少し、庭に顔出してくれる?」
「出ておいで!ジメレオン!アーマーガア!ギャロップ!ポットデス!ストリンダー!」
田舎寄りにある家の特徴の一つである広い庭に向けて、モンスターボールを放る。すると今呼んだ5匹が一斉に姿を表す。ちなみにストリンダーはローの姿である。
「まあまあ!また可愛い子達がたっくさん!ユウと一緒にいてくれてありがとうね、みんな」
よかったら食べて、とイーブイにもあげていたポフィンを紹介した子達に配るお母さんはだいぶはしゃいでいる。
その様子を肩に戻ってきたイーブイと眺めながら、黙りこくっている父に目を向ける。1匹1匹に強面厳つい目つきで視線を送る姿は傍から見たら恐怖だろう。今回のパーティの内気弱なストリンダーはギャロップの影に隠れてポフィンをもそもそ食べてる。ごめんね。怖いけどいい人なんだよ。怖いけど。
内心ストリンダーに謝っていると、ぽん、と頭に何かが乗って、それがゆるゆると動く。撫でられているのだと気づくのに少し遅れた。
その手の主は距離的に間違いなく父である。見上げると、ポケモン達を見つめたままの目は険しい目つきであるが、家族からしたら分かりやすいほどに頬を緩ませている。そのまま、お父さんは一言。
「よく育てられているな」
ムズムズと胸元に燻る感覚のまま、自分も頬を緩ませた。
「自慢の仲間だもん」
お披露目も終わり、今まで旅してきた子達とガラルズが仲良くなっているのを縁側から眺める。
ジメレオンはフシギソウ、ランクルス、ニャビー達の頭脳派苦労ポケズと意気投合している。何かを話し合ったかと思えば、小さく仕方ないなぁと言わんばかりな、大人の微笑みでため息を吐かれる。
アーマーガアはピジョットやフライゴン、ヒノヤコマなどの鳥(?)ポケ達と空を自由に飛んでいる。気持ちよさそうだ。
ギャロップはウインディやルガルガン(まひる)などと一緒に戯れて駆けているし、ポットデスは女の子達同士話に花を咲かせている。
ストリンダーはあまりコミュニケーションが得意ではないのだが、アブソル やレントラーなど一匹狼ズもいる様子に心落ち着かせてつ様で、1匹のんびりとくつろいでいる。ふむ、我ながら自由な子達だ。
母は女の子ポケ達と話に花を咲かせているのだが、父は暫く駆け回る子達を観察して満足したのか、自分の隣にやってきた。
「…ユウ」
「なあに?」
「暫くは休暇か?」
「まぁ、そのつもり。そろそろ旅だけじゃなく仕事も考えなきゃだし。まぁ、今のところは研究者か探検家あたりを目指してるけど」
10歳で成人扱いなのだから。早めに仕事の目処は立つ。
旅を経て色々な経験や知識を得たが、やはり幼い頃から見た、ポケモン達の謎を知ろうとする父の背中が目標になっていた。
ジョウトを旅した時にアンノーンに会ったのは運命ではないかとユウ自身は思っている。その出会いがあってから、ユウはこの2つの仕事に目標を絞ることが出来たのだ。なんなら旅の合間に古代語の翻訳などもしたりする。
「そうか。…では一つ、伝えなければいけないことがある」
「ん?」
やけに重苦しい言い出しに、思わず背筋を伸ばして身構える。
「父さんの部屋に、書類や本が多くあっただろう」
「あ、うん。お仕事関係かなって深く聞くつもりなかったけど…聞いた方がいい奴なの?」
「あぁ。…というか、知らんのか」
「え、何が」
本気でわからない、と首を傾げて見せると、これでもかと眉間にシワを寄せてため息を吐かれた。失礼しちゃう、と言いたいがこの反応をするときは大抵自分が何かの確認を疎かにしている自業自得なので何もいえないのだ。
「…スマフォのニュース、調べなさい。すぐに出てくるだろう」
「ん。えっと…」
ぽちぽちとスマフォを操作し、ニュースアプリを開くと、1つのニュースがとても大々的に取り上げられていた。
『ポケモン失踪!反転世界への迷子続出』
全くもって不安しか感じられない見出しである。しかし、十中八九これだろう。試しに「これ?」と見せたら、渋い顔で頷かれた。
「ポケモンの失踪…人為的なもの、では無いんだよね…?」
「今のところはそう言った痕跡や証拠が無いからそうなっている。しかし、それも決定的ではないからな…」
ニュースの記事を見ていくと、父の言う様に証拠などが一切無く、また反転世界を研究してるムゲン博士の保護活動もあって、失踪したポケモン達の多くは住処、トレーナーなど、元の場所に帰れている。
しかし、中にはボス級ポケモンなどが失踪したままな状態であったりもすると書かれていた。野生のポケモンが巻き込まれている場合、数値として正確に測れない分、どの位の被害になっているのかが分からない。
トレーナーの手持ち達は今のところ、失踪届が出されていたポケモン達は全員無事らしいが…いつまで失踪状態が長引くか分からず、また失踪件数も増えている事から不安の声が多い。
「こんな事になってたんだ…」
「全く…情勢はいついかなる時も知っておくべきだぞ」
「いやぁ…最後にスマフォ開いたの、帰宅連絡入れた時くらいなもんで…」
全くとニュースアプリを開いたりする事がなかった。隙あらば忘れてしまう。
「はぁ…にしても、怖いね…もしかしてお父さんの今の仕事、これ関連?」
「あぁ。反転世界と言えど、パルキアやディアルガが関わっていないとも言いきれない様子でな…失踪報告の中で反転世界での保護が確認されたのは、この失踪騒ぎの初期の頃と比べて今は格段に少ない。…セレビィの時渡りと同じ様な事象に巻き込まれている可能性も見えていてな…もしかしたら、反転世界とは別の異世界がありそこに飛ばされたりしているのでは、という憶測もある」
「不安要素が高い、と…失踪の被害にあった子達の共通点は?」
「鏡、もしくは鏡の様に反射する物が近くにあり、そこに吸い込まれたと」
「…まぁ、反転世界での保護が確認されてるならそうだよね…」
知ってた、と言わんばかりに遠い目になってしまうのは仕方ないだろう。
「で、自分たちには鏡とかの前に安易に近寄ったりしない様にって事?」
「あぁ。何分、シンオウ中心にどの地方でも確認されているからな…」
「詰みかけてない?」
自分たちの生活において、"鏡"という条件に合致、または類似する物がどれ程あるだろうか。数え切れるわけが無い。
途方もなく空を見上げる。ピジョットが旋回してる。気持ちよさそうだ。現実逃避である。
すると、ピロンっと手元にあるものとは別の、父のスマフォから通知が鳴った。
「ん?なんだ……な!」
スマフォを覗き込んだ途端、顔色を変える。と思えばいきなり立ち上がり、バタバタと書斎へ駆け上がっていく。
「ブーイ?」
そんな父の様子を不思議そうに眺め、イーブイは膝に乗ってくる。どうしたの?と問いかけるように傾げられてる頭を撫でながら、苦笑を零す。
「お仕事の方で進展があったみたいだねぇ」
「あらあら。おにぎり作る暇も無さそうねぇ」
バタバタした騒ぎに母も戻ってきた。そのままキッチンに消えていったので、恐らく作り置きされてる軽食でも纏めて渡すのだろう。
ゾロゾロと集まってきたポケモン達を撫でながら、外から玄関の方へ向かう。
「お父さん、お仕事行くみたい。行ってらっしゃいって言ってあげてくれる?」
「ブーイ!」
「ガァアー!」
「デスデース!」
「ガウ!」
大きなお返事と、小さくもしっかりした返事。しない子もいたが、了承とばかりにしっぽを振ったりとアクションはしてる。うーん、愛い。
そんな事をしているとガチャッと玄関の扉が開いた。慌てて準備をしてもピシッと仕事着を着こなしている。
「アラモスタウンで大掛かりな歪みが発生した。詳しくはニュースが流れるだろうからそれを見なさい。見なさい」
「2回ゆった。はいはい、見ます見ます」
「いつ帰られるか分からない。母さんやユウを頼むぞ、みんな」
ポケモンたちはさっきよりもいいお返事を一様に返した。自分が言うよりもいいお返事じゃないか。解せぬ。
「行ってらっしゃい、お父さん」
「お気を付けてね」
「あぁ。行ってくる」
ポケモン達の見送りの鳴き声をBGMに、車に乗って父は行った。遠くなっていく車が見えなくなるまで見送り、ポケモンたちはまた各々自由に行動し始めた。
自分とイーブイは、母と一緒にリビングに行く。ソファにボスッと体を沈めれば、膝の上に上機嫌にイーブイが乗ってくる。もふもふと首元を撫でながらモフると気持ちよさそうに目を細めた。ここ好きだもんね。いくらでも撫でてあげる。
それにしても、とさっきまでの会話や父の様子を思い返して溜め息が零れる。何分、物騒とまではいかないが不安な事態である。それに振り回されるのはやっぱり研究者なのだろう。幼い頃から父が突然飛び出していくのは良くあったのだ、仕方ない。
「研究者は大変だなぁ…」
「そうねぇ。でも、だからこそみんなの事が更にわかっていくんだものねぇ」
「…ねぇー」
「そういう所が憧れるって思ってるのに言わない素直じゃない所はあの人似ねぇ」
「自覚してるんだから詳細語るのやめてよ…」
「ブイ…ブイブーイ…」
「イーブイまで…」
素直になりなよ、と言わんばかりに頬を前足でつつかれてしまった。気恥しさを誤魔化そうと、ウエストポーチに入っているモンスターボールを磨いてく。それを見て、母は柔らかく微笑みユウを一人残した。イーブイは嬉しそうに目を細めてその作業を見つめている。
ユウは、この作業は好んでいる。大好きなポケモン達との繋がりを形にした物。どこでも一緒に行けるボール。ユウの1番の宝物だ。綺麗に磨いて、ポケモン達にとって恥ずかしくないトレーナーでありたい。
黙々とする作業ユウを、下から覗き込むイーブイ。ユウが大切に行うその作業をみるのが、イーブイは大好きなのだ。自分たちを大切にしているのだと伝わってきて。
一つ一つ磨き、ウエストポーチに戻す。やがて作業が一区切り着くと、ユウは背中を反らせてソファに全身を預けた。集中力が少し削れて疲れたらしい。イーブイはそんなユウの手元に擦り寄る。
「ブーイー」
「ん。どーいたしまして、イーブイ」
ありがとうの声が聞こえ、ユウは微笑んでそれに返事をする。
あと残りは未使用のいくつかのボールくらいだ。一息つこうと、ユウはテレビを付けようとした。が、リモコンが見当たらない。
「あれ、お母さん。テレビのリモコンは?」
「あら?あぁ、テレビの後ろとかにないかしら?ニャビーちゃん、よくそこに隠してるのよ」
「お気に入りを隠す癖は相変わらずなのかぁ…」
「ブイブ」
わかる、と言わんばかりに力強く頷くイーブイに苦笑しながら、ユウはソファから身を起こしてテレビに近付く。起動していないテレビは暗い鏡だ。さっさと見つけて仕舞おうとしゃがんで覗き込む。
テレビを支える所の影になるように縦に仕舞われていた。いや、器用か。何故ここで器用さを出した。
「あ、あった」
「ブイ!?ブイブ!ブイ!」
「ん?イーブイ?どした…」
リモコンを取ろうと手を伸ばしかけたところで、イーブイが声を荒らげた。一体なんだろうか、とリモコンを取ろうとした手を棚にかけ、顔を上げる。
「…のぉー…?」
歪んでる。テレビの画面が、円を描くように。
次第にその円は大きくなっていく。ぐるぐると回っている。
逃げなければ。
頭では理解している。なのに、体は全くと言うほど動かない。未知との遭遇。理解の範疇の外。そんな物との対峙は、人の行動力を根こそぎ奪うのだと、ユウは遅すぎる理解をした。
「むイッ!」
完全に闇に取り込まれる寸前、何かを加えてくぐもった声を出しながら、イーブイがユウに飛びつく。
そして1人と1匹は、暗闇に飲み込まれていった。
「ユウー?イーブイちゃんー?どうかしー…あら?」
イーブイの荒らげた声が聞こえたリビングを、不思議がった母が顔を覗かせた。しかしそこは、もぬけの殻。
気配の消えた主を不安に思ってか、庭にいたポケモン達もリビングに集まっている。ふむ…と少し悩んだ後、母は結論を出した。
「思い立ったらすぐ行動するのも、あの人似なのかしらねぇ」
そう笑って、母はポケモン達のフーズを用意する事にした。