フワフワと浮いている棺に、さっきよりも大きな鏡。そして、多くの人が溢れている部屋だ。
その中で何人かの者が、表れたクロウリーに声を掛けている。ユウにはどういう立場の人達なのかよく分からないが、どうやらそれぞれに割り当てられてる群れのリーダー的な人達らしい。
「(ポケモンも群れで生活する子達多いもんね。うんうん)」
ユウはまだ、現実逃避から抜けていなかった。
「さ。寮分けを行いますので、どうぞ闇の鏡の前へ。あぁ、使い魔の二匹は私が預かっておきますから」
「アッハイ。イーブイ、ちょっとだけ辛抱しててねー」
「ブーイー…」
「ふぐぐー!!」
心配そうなイーブイの声と、離せと文句を言ってるのだろうグリムの声をバックミュージックに、大きな鏡の前へ歩を進める。
その間にもヒソヒソと周囲から疑惑の声が上がっていた。
「おい、誰だアイツ」
「知らねぇ。遅刻したんじゃねぇの」
「使い魔二匹もいんのかよ」
「1匹は大人しいけど、もう1匹はうるさそうだなぁ…」
「ちっちゃくね?ほんとに同い年か?」
「でも二匹も使い魔がいるなら、相当の奴なんじゃ…」
「ほぉー…何処に配属になるか楽しみだなぁ」
「ミ゚…もふもふ…ウポァ…」
「(なんか変な期待されてない?ハードル爆上がりしてない?胃が痛くなってきた…気がする………ってか待って、最後大丈夫?息してる?)」
数多の地方を旅してきたメンタルなのだ。そうそう容易く折れやしない。
そうして鏡の前に現れると、その中に仮面のような顔が現れた。目元に細かな装飾が施されて、厳つさと不気味さを際立たせている。
『汝の名を告げよ』
「えっ鏡まで喋んのここ……ん?ナ?ナって…あ、名前?ユウです」
『…汝の魂のかたちは………』
おっ嫌な予感しかしない沈黙だ。
『……分からぬ』
「(知ってた)」
悟りを開いたかの如く、スンッとユウの顔から感情が消えた。イレギュラーはどこまで行ってもイレギュラーなのか。
そこで衝動を大きく受けたのはクロウリーだ。仮面越しでも分かるほど狼狽えている。イーブイはその隙にユウの肩に戻ってきた。
「なんですって…?」
『この者からは、魔力の波長が一切感じられない。色も、形も、一切の無である』
「怖ぇーこと平気で言うじゃんこの鏡…」
"無"って。"無"って。(2回目)
絶望の闇が更に色濃くなった。
『よって、どの寮にも相応しくない!』
「(宿無し勧告かな?)」
ユウは思わず眉間を抑えた。目を開けても閉じても絶望しか見えない。荷物0での野宿は旅の時でも無かったなぁ。ハハ(白目)
すりすりと擦り寄ってくれているイーブイが唯一の癒しで救いである。ありがとうマイパートナー。
クロウリーが闇の鏡とアレコレ問答している間にも、鏡の間にいる人達はどよめきが抑えられていない。ユウはエスパータイプでもないので、その声を精密に聞き取ったりは出来ないが。
新たな問題に直面したクロウリーは手が緩み、グリムは「ぷは!」とその手から逃れる。
「だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!オレ様は魔法が使える!そのイーブイを連れてるだけの魔法の使えない奴よりも、学園に通うのに相応しいんだゾ!」
「確かに、一理ある」
「あなたもう少し緊張感持ってくれません!?」
「余裕があると言って欲しいのですが」
クロウリーの叱責を軽く受け流す。だってそもそも、世界が違いますしおすし。なら同じ世界に住んでるグリムの方が入学条件としては正しいだろう。
それにしても、どうやらグリムは魔法が使えるらしい。そしてこの学校に入りたい、と。
「とびっきりのを、今見せてやるんだゾ!」
「えっ、ちょっとグr」
「ん゛な゛〜〜〜!!!」
阿鼻叫喚。
グリムの放った魔法によって、その言葉でしか表せられない事態に陥ってしまった。
しかし、グリムを止めようと動く人は少ない。尻に火がついたと叫ぶ男の人を助けようとする人も。あ、なんか黒髪褐色の人が行った。
けれどそんな惨状の中でも、多くの人は他者へ擦り付けたがる面倒くさがり。自身が疲れるくらいなら誰かに任せようとする人ばかりだ。
そう、ユウの目に映った。
その光景を見て、常識が通じないとか、知らないものとか、これから先のこととか。色々と考えていたユウの決して広くない頭の容量は、パンッと弾けた。
イーブイが使い魔に分類する世界で、グリムも使い魔と呼ぶのなら。
それ即ち、ポケモンという事で良いのだな?
「……イーブイ、お願い出来る?」
「ブイ!」
ユウの真意を察し、大きく頷くイーブイはすぐに肩から降りた。流石マイパートナー。そうして、四肢に力を入れ、身を低くして構える。
ポケモンバトルの時間だ。
「でんこうせっか!」
「ブイッ、ブ!」
勢いよく駆け出したイーブイは、火の海の部屋内を電光石火でダメージを負わず、グリムの元に近寄る。その早すぎる動きに、何人かの人は目を見張り、興味深そうに見つめるが、ユウもイーブイも気付かない。
浮遊しているグリムのすぐ前にイーブイが現れれば、グリムは必然的にイーブイに視線を寄越す。
「なんだゾ、イーブイ!偉大なる魔法士になるグリム様の邪魔をするんじゃないゾ!」
威勢と共に火が吹かれ、それをイーブイの独断で避ける。それから次の攻撃に入るまでの一瞬の隙を、ユウは逃さない。
「イーブイ、あくび!」
「ブ…ブイ〜」
は? と、様子を見ていた生徒たちは目を点にする。
敵の真正面、すぐ真ん前にいて、呑気なあくび。
ポケモンバトルを知らないものには、完全に舐めてる図だ。
「ばっ、バカにしてんのかだゾ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
案の定、グリムはキレて火を吹こうとする。
けれど怒りで視野が狭まれば、隙は更に大きくなる。
「【首をはねろ(オフ・ウィズ・ユア・ヘッド)】!」
「ふぎゃっ!?」
ローブを被ってる赤髪の男性が、何かを唱えるとグリムの首にハートの様な枷が着いた。1歩遅れて、グリムの口から放たれるはずだった炎は、ポヒュンッと間抜けな音を出してただの煙になった。それからもグリムが炎を出そうと力んでも、何も出てこない。
その後に言うメガネの男の人の言葉曰く、魔法封じの魔法らしい。なるほど、そういうのもあるのか。
てかグリム。きみ、猫系ポケモン(?)じゃなかったのね。
そこに1番ビックリしたユウである。
「ブーイー」
「ん、お疲れ様イーブイ。ありがとう」
「ブイー!」
そんな中戻ってきたイーブイを、抱き上げて首元を撫でる。気持ちよさそうに目元を緩めている。怪我やダメージも負ってないようで、ユウはホッと安心した。
そのままイーブイを肩に乗せ、赤髪の男の人に対して喚いているグリムの元へ近寄っていく。
「あ!イーブイ!お前、なんでオレ様の邪魔、を…なん、だ…ゾ…ねむく…な……て………」
勢いよく振り向いてきたグリムだが、そこで『あくび』の効果が出たらしい。ふらふらと浮遊する力が抜けていき、落ちていった。それをユウは両手で受け止め、よしよしと撫でてやりながら状態を見る。
「ん、怪我もない。普通に寝てるね」
「…きみ…一体、何をしたんだい?」
「ん?何って、イーブイのあくびですけど」
「…?」
「???」
イマイチ、常識などの感覚がズレている者同士では話が進まない。
赤髪の男性とユウが互いに首を傾げていると、ゴホンッと大きな咳払いがユウの背後からする。発生源はやはり、クロウリーだ。
「それで。その狸はあなたの使い魔でしょう。どうにかして下さい!」
「はぁ……ツカイマ?てやつでは無いんですけどね…追追、よく言い聞かせておきます」
「えぇ、お願いしますね!では皆さん、入学式はこれにて閉式です!寮長の皆さんは新入生を寮へ!」
ゾロゾロと人が移動していく中、腕の中でプウプウと鼻息を鳴らして眠っているグリムを見る。
世界も何もわからず、帰るタイミングすらも見失っている感が否めないが、とりあえずと受け持つ事になってしまったユウなのであった。
グリム ゲットだぜ!
「と、言った手前申し訳ないのですが…そちらの使い魔は魔法が使えるようですが、肝心のあなた自身が使えないのであれば意味がありません」
「そんな殺生な…」
「せ…?ま、まぁ、そんな貴方をこの学園に入学させる訳にも行きませんので、元の場所にお帰り願いm」
『何処にもない』
「…闇の鏡よ、今なんと?」
『この世界のどこにも、この者の在るべき場所は無いと言ったのだ。無である』
「自分の説明を"無"の一言で終わらされるの、控えめに言って腹が立ちますね」
そうして"無"だらけのユウとイーブイは元の世界に帰ることは、結局出来ないらしい。