「ごめんごめん、調べ物してたんだよ!ほんとにごめんって!だから炎はやめぇー!!」
と、グリムと一悶着あり、学園長のムチにて再び拘束された状態のまま案内された、使われていない寮。通称、オンボロ寮。
外も中も、まぁ名前に恥じないほど…。
「いや、趣あり過ぎるでしょ」
「ブイィ…」
「ボロボロ過ぎるんだゾ」
イーブイとグリムが可愛らしい顔を歪めて不満を言うのも仕方がないだろう。
学園長はそそくさと調べ物を免罪符かのような言い方をして行ってしまった。3つのため息が重なる。
「はぁ…やっぱ信用ならない…とりあえず、掃除しなくちゃ。イーブイ、グリム。手伝ってくれる?」
「ブイ!」
「な!なんでオレ様まで…!絶対嫌なんだゾ!ツナ缶も出ないのに、タダ働きなんて!オマエらでさっさとやるんだゾ!!」
いい子なお返事をしたイーブイと正反対に、プイッとグリムはそっぽを向いてしまう。
ユウとしては一人でやるのも吝かでは無いのだが、時間が時間なので早めに終わらせたい。
なので、一芝居打つことにした。
「…そっかぁ…大魔法士になるのだろう天才グリムなら、掃除くらいパパっと終わらせてくれるかなって思ったんだけどなぁ…」
「ム!」
「これだけボロボロだと、自分やイーブイでも手が回らなくて、頼れる人に助けられたいし…」
「ムム…!」
「でも仕方ないよね。イーブイ、2人で頑張ろ?」
「ブーイ…」
ユウとイーブイが、明らかにしょんぼりと重い空気を意図的に背負った状態でグリムから背を向ける。
「そ、そぉんなに言うんなら、このグリム様が力を貸してやってもいいんだゾ!!!!!」
「(計画通り)」
そうして、勢いに乗ったグリムも加わり、掃除が開始された。少し大雑把な部分があるが、一先ずの晩を乗り越えられる程度なら良いものだ。
「イーブイ。掃除しながら、ちょっといい?」
「ブイ」
グリムが上機嫌に屋根付近のホコリを落としている間、少し話し合う。
「イーブイたちを見て"使い魔"って呼ぶって事は、多分ポケモンがいない、もしくはどこかにいるけど"ポケモン"っていう種族として知られてないってことだと思うんだ」
「ブイ」
「で、さっきのグリムを見ると、イーブイ達の使う"技"は"魔法"扱いでも通じさせられるんじゃないかなって思う訳で」
「ブーイ」
「申し訳ないんだけど、元の世界に戻るまでこっちでは"使い魔"って体になりそうなんだよね。いいかな?」
「ブイブ。ブーイー」
仕方ないから、と快く頷くイーブイ。イーブイも理解していた。この世界では自分のようなポケモンはイレギュラーどころか未知の生き物であるのだろう、という事に。
そんなイーブイに「ありがとう」と頭を撫でれば、甘い声を出して撫で受ける。うーん、可愛い。やはり癒しであった。
「オマエらー!!オレ様ばっか働かせるんじゃないゾ〜!!!」
「おっと、ごめんごめん。グリムが頼もしくてつい。さ、下の方を掃こうか」
「ブイ!」
そうして再び掃除を再開する。
やがて雨が降ってきて、雨漏りが目立ち始める。人間の力では何とも出来ない事なのだが、上機嫌なグリムによってパパッと目立つ雨漏りは直された。
「グリム様様だ。ありがとね、グリム」
「ふふん!オレ様にかかればこのくらい、どうって事ないんだゾ!」
「ブイブ!ブーイ!」
2人でグリムを褒めちぎる。なんとも調子がいい。しかし、得意げに鼻を鳴らす姿は可愛いのでプライスレス。
そうして談話室らしい所は粗方済ませ、あと優先するのは寝室である。
「あとは寝室かなぁ。グリム、一緒に来てくれる?」
「おう!このグリム様に任せるんだゾ!」
「頼もしい〜」
ユウの両肩にそれぞれ乗って、廊下を歩く。ギシ、ギシ…と古く音が鳴る廊下を歩いている。
「ブイッ!」
「ん?イーブイ?」
突然、左肩に乗っているイーブイが震えた。何だろうかとユウが視線を向けるも、ただの壁がそこにある。
「なんだゾ、イーブイ。何も無いじゃ…ふな゛ぁ゛ーーーーーー!!!」
「うるさっ!え、なに!?」
情けないという声音は、いきなり恐怖の悲鳴となる。右肩に乗っている関係で声がユウの耳にダイレクトにダメージを与えた。
一体何事か、ユウがそちらを見ると、ふわりと白いものが浮いた。
布か。否、半透明だ。
ビニールテープか。否、そもそも風は吹いてない。
じゃあ何だ。何が浮いて、揺れている。
ユウがその正体を見ようと目で追い、見つけたのは…。
「ゴォ〜〜〜〜〜〜〜ス!!」
「「ギャアアアアアアアアアアアアァァアァァァァァァアァァ!!!!」」
「ブイーーーーーーーーーーーーーー!!」
真後ろからの声に、1人と2匹の悲鳴がオンボロ寮に木霊した。
そのまま1人と2匹が廊下の隅で蹲り、ガクガクブルブルと震えていると、突然頭上からケタケタと明るい笑い声が響く。
「いやぁ、上手くいったねぇ」
「ほんとほんと。はは、君は人を驚かせるのが上手いねぇ!」
「ボクたちも見習わなきゃねぇ」
「ゴスゴス、ゴォース!」
「…は?」
思わず、とユウは最後の鳴き声に釣られて振り返ってしまう。
白い人型の浮遊しているものがいる。
それも充分な驚き要素だ。が、如何せんユウの世界ポケモンに、こういった半透明な人型の存在は馴染みがない。故に"魔法の世界だし"と勝手に脳が処理落ちする寸前に無理矢理処理させられる。
が、もう1つの存在については言及せざるを得ない。
ふわふわと紫のガスのようなものを纏った、黒い球体。釣り上げた目を楽しそうに弛めてる顔は、いたずらっ子そのもので、ユウは見覚えしか無かった。
「ごご、ゴーストなんだゾ!でも紫のは見た事ないゾ!アレもゴーストか!?」
ガクガクとユウの胸に隠れるようにへばりつくグリムの言葉に、ユウは恐る恐るとウエストポーチに手を入れる。
そうして取りだした、1番古いポケモン図鑑のカメラレンズを、その球体に向けた。少し遅れて、ピコンッという電子音と共に、該当データを画面に表示する。
『ゴース。ガスじょうポケモン
うすい ガスじょうの せいめいたい。ガスに つつまれると インドぞうも 2びょうで たおれる。』
「ポケモンがっつりいるじゃねぇか!!!!!!!!!!!!!!!!!」
2度目のユウの叫びが木霊した。
「ポケモンってなんだゾ!?ゴーストじゃないんだゾ!?」
「おや?おやや?キミはこの子について知ってるのかい?」
「知ってるも何も、えーっと…きみ、ゴースであってる?よね?よね??」
「ゴスゴス!」
「あってたー!やっぱりー!!そこの半透明さんが名前知らないのにゴースで反応したってことは自分と同じ世界から来たってことでしょ!?てことは薄々分かってはいたけどやっぱりここかよ反転世界とは別の異世界って!!役満で確定じゃねぇか!!!ポケモン達ここにいるの!?ファッ!!?」
「なんだゾ!?何の話だゾ!!?オレ様にもちゃんと説明するんだゾ、ユウ!!ゴーストでもいいから話せだゾ!!」
「ブ!?ブイブ!ブイ!?」
「イーブイは元から何言ってんのさ分かんないんだゾ!!!」
「いやぁ、この子、ある日突然やって来てね!気が合って仲良くなったんだよ〜」
「イヒヒッ!この子はとっても筋がいい!僕達はすっかり友達さ!」
「だけどやっぱり、多い方が賑やかで楽しい。キミもそう思うだろう?きみ…いや、ゴース!」
「ゴォ〜ス!」
「そういう訳だ!キミたちも仲間になろうよ!イ〜ヒッヒッヒッ!」
「えっ死亡フラグ???ポケモンバトルで回避するやつ??確かゴーストタイプとノーマルタイプってどっちも効果なくて相性最悪の泥仕合不可避では???レベルで殴るしかないのでは???」
「ブイブイブ!ブイ!!」
「オマエら〜〜〜!!!オレ様の話も聞きやがれなんだゾ〜〜〜〜〜!!!ふな゛〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「おわあー!!グリムグリム!ストップー!!って、目を閉じちゃ当たるもんも当たらないよ!!イーブイ!ゴースとゴースト達をアイアンテールで行く手阻んで!身動き出来ないようにして!」
「ブイ〜!!」
そんなこんなのドタバタ騒ぎ。
結局、イーブイの誘導とグリムの炎で何やかんややり、ゴーストとゴースを撃退。そのタイミングで現れた学園長は運がいいのか悪いのか分からない。
どうやら、あのゴースト達が悪戯をして生徒たちを追い出し無人寮になったらしい。
「学園長。報連相ってご存じですか?」
「はて?何故突然、野菜の名前を?」
「報告、連絡、相談の略称ですよ。最低限のマナーでしょうが」
「いやはや、すみません。何分他にも色々と仕事があり、すっかり忘れてしまっていまして!」
1人と2匹の中での信用度が落ちていってることに気付いているのだろうか。いなさそうだ。
そして何故か、学園長ディア・クロウリーとのバトルをする事になった。
なんでだ。
「(自殺願望者…では、ないだろうけど)」
「終わったらツナ缶用意するんだゾ!」
「えぇ、約束します。私、優しいので。では変身薬を、ゴックン!」
トントン拍子で事が進み、バトルが進んでいく。
その間にも、グリムとの連携は少しずつ、裁縫糸ほどの細いものではあるが、繋がってきている手応えをユウは感じていた。実際、イーブイも少しずつグリムが動きやすいようにと、本来のサポートに回る部分が多い。
バトルを終える頃にはグリム、イーブイ共に1日を通して動きまくってたせいで疲労が溜まり、ヘロヘロになっていた。対して、学園長は息一つ乱さずに何かを悩んでる。
「…普通に凄い人なのはほんとみたいだね…」
「ブゥーイー…」
「ハァ…ハァ…オレ様…もう、疲れたんだゾ…早く、ツナ缶寄越すんだゾ…」
「食い意地が凄いなぁ」
凛としてる学園長の姿は凄いはずなのに、何だかとても解せない。出会って一日しか経っていないのにユウとイーブイの中ではすっかり"信用出来にくい人ランキング"上位爆走してるからだろう。
「あぁ、息が整いましたか?ではお話させて頂きますがね…ユウさん」
「え、はい」
「実は、そちらのイーブイという使い魔との関係や、入学式でそちらの狸が起こした騒動を見ていt」
「狸じゃないんだゾ!」
「グリムグリム、ちょっと静かに」
尚も噛み付くグリムを抱き上げて宥める。
「宜しいですか?」
「はい」
「えぇ、それで今の姿を見ても、私は確信しました。貴方には猛獣使いの素質がある!と!」
「はぁ…まぁ………あながち間違ってないんだよなぁ…」
言い方が違うが、"モンスターと手を取り合って共に困難を乗り越える"という解釈は一致する。
「そこで、です。たn…グリムくん。キミは、学園へ入学したいと言っていましたね」
「ふな!入れてくれるのか!?」
「闇の鏡に選ばれなかった、しかもモンスター。そんな存在の入学は本来であれば断固拒否です。そしてユウさん。元の世界へ戻るまで、ただで居候をさせる訳にもいきません」
「なんだ…ぬか喜びだゾ…」
「まぁ最後まで聞きなさい。一先ず、この寮の提供は無料でします。が、戻るまでの間の衣食住については、ご自分で支払っていただきます。宜しいですか?」
「はぁ…」
魔法のない世界から来たのであれば全面的な責任は闇の鏡を所持している学園に掛かるのだが………ややこしい事に、ユウの元の世界、ポケモンの世界では絶賛異世界迷子キャンペーン()中なのである。
ユウの図式の中では、ユウの世界の綻びがたまたま闇の鏡との繋がりになってしまったという図になっている。
テレビから来たのが、その仮定の何よりの証拠だ。こちらではギラティナの反転世界の入口のように、類似するものではなく、れっきとした鏡を使っての移動になっている。それは入学式の新入生たちが鏡を通って出入りしているのを見て分かってる。
つまり、学園だけの責任でなく、ユウの世界にも責任があるという解釈だ。
であれば、その処置も甘んじて受け入れられる。
故に、特に反論はなかった。
「せめて、仕事先とか紹介してくれます?」
「おや、話が早い!物はこちらでは大して役に立たないだろう物しか持ち込んでいないあなた達が出来ることと言えば、学内整備などの雑用くらいでしょう。それを、学内滞在の許可の理由とし、また、仕事として雇用する扱いにしますので、労働に見合った対価もお支払い致します!3人1組の"雑用係"!如何でしょう?」
「前半の言葉は苛立ちましたが、後半の言葉には感謝します。よろしくお願いします」
即決である。しかし、出された条件は何も悪くない。イーブイもペコリと頭を下げている。
「えぇ、えぇ!決断が早くて助かります!あぁ、元の世界に帰るための情報集めや学習の為に、図書館の利用も許可しますよ!先程の調べ物の際、貴方は難なく私たちの言語を理解していましたから問題は無いでしょう?」
「じゃあ仕事終わりに利用させて頂きます」
「あぁ!貴方は本当に話が早い!」
2人と1匹の間で、今後の立ち位置の話が固まりつつある。が、当然不満を言う存在がこの場に1匹。
「やいやいやい!オレ様を置いて話を進めるんじゃないゾ!オレ様はあのカッケー制服着て生徒になりたいんだゾ!!」
「まぁまぁまぁ、グリム。よく考えてみ?」
「ふな?」
暴れだしたグリムを両手で掴んで、真正面から見据える。
「学内に滞在出来るってことは、パパッとお仕事が終えられたら、いくらでも自分の興味あることを学内の施設を利用して勉強出来るんだよ。自分が図書館を利用してる時、グリムも一緒に来て、気になることを調べて勉強しよ?」
「ただ勉強するだけじゃ飽きるんだゾ〜!!オレ様は、ドカーンッと実践でする方が性に合うんだゾ!」
「それこそ、雑用係は持ってこいじゃん!1つの仕事に縛られないで、色々な仕事が与えられる。て事は、その仕事に適応する魔法を実践で試したりも出来るってことだよ?」
「ふな…!」
「窓拭きの時は浮遊魔法で物とかを浮かせたり、洗濯物は水魔法でやったり。グリムの得意な炎魔法だって、落ち葉や刈り取った葉を燃やしたりするのに役立つし、応用すれば刈る必要なく調整した炎魔法で済ませられるかもしれない。そうやって仕事をしながら、魔法を磨いていく。最初は出来なくても、慣れて実用的な魔法を難なく使えるようになっていけば、周りの生徒だって"すごい!"って尊敬の目で見てくるかもよ?」
「ふなぁ…!!」
最初は不満だった目が、今やキラキラと輝き出している。
トドメの、一押し。
「天才大魔法士グリムの道のりは決して緩くないけど、それを経てこそ築き上げる歴史や伝説は強く世界に爪痕を残す。そもそもモンスターが名門学園にいるってだけで凄いんだもん。出だしのインパクトは好調。ならあとは、地道でも力を磨いていき、しっかりと魔法をモノにして人間に知らしめるんだよ。『限られた時間と労力の中で優れた魔法士になった!グリム様はすごいんだゾ!』って」
「ふなぁぁぁ!学園長!このオレ様にドーンっと任せるんだゾ!!」
やるんだゾー!!
ブイブーイ!!
キャッキャッと2匹がはしゃいでるのを、微笑ましく見守るユウ。そんなユウを、しみじみと見下ろす学園長。
「………貴方、本当に猛獣使いの素質ありますよ」
「グリムは猛獣と言うより、小さな子供を相手にしている感覚ですけどねぇ」
利益の見方が人間と同じだ。
「にしても、あれだけ詳しく魔法の運用法を思いつくなんて…貴方、本当は魔法についてとても詳しいのでは無いですか?」
「いえいえ。まだこっちの魔法については分からないことだらけですよ。あれは自分のいた世界のモンスター達がしてくれていた事を例にあげた事です」
「…はい?モンスター、そんなに多くいるんです?」
「人間と生活を寄り添い生きていってるくらいには」
「…魔法、ない世界なんですよね?」
「モンスターがいないとは言ってませんねぇ。イーブイだってモンスターですし。それから学園長、後ろ」
「はい?」
やっとこちらの話が出来そうなのだが、半信半疑では些か話が進まないだろう。そういった時の手っ取り早い方法を、昔の人はこう言った。
『百聞は一見にしかず』
「ゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜ス!!!!!」
ドォンっと、目の前にゴースの顔。
一切の気配なく至近距離の背後に立たれたいれば。
「ひぎゃぁぁあぁあぁあああぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
生き物は当然、驚いてしまう。
「にしてもまさか気絶するとは。グリム、運べたりしない?」
「オレ様使いが荒いんだゾ!!絶対嫌なんだゾ!!」
「だよねぇ。ゴースト達と一緒に戻ってきたゴースを見れば話しやすいと思ったんだけど…やり過ぎたねこりゃ」
「ゴス?ゴスゴース?」
「あーあー、大丈夫大丈夫。ナイス脅かし。だからそんな悲しい顔しないで」
「ブーイー」