平和に行きましょう。

いち


 五条悟が在籍した期間、夏油と家入の他に4人目の同級生がいた。いたにはいたが、任務任務になる度問題行動を起こしては停学、謹慎、果てに海外に飛ばされる等まともに教室に並んだ事は初日しかなかった。「あれ」は五条が嫌悪する腐ったミカン共よりも救いようがなかっただろう。上層部にだって非術師を守るという大義名分はあるし、何より人間として会話の余地がある。なのに「あれ」にはそれがなかった。
 ゲーム感覚で呪霊も無関係の人間も殺そうとする。奴にとって呪霊も人間もその程度で、あまりの異常性から上層部も早々に任務にかこつけて殺そうと手を回していたらしい。結果は、意外にも頭のキレた奴による生け捕りするはずの呪詛師ら及び、任務に同行していた監視役兼暗殺を担っていた呪術師数名を皆殺しと終わったが。




 屋敷の人間達に向けられる視線には、憐憫と罪悪感、そして大きな安堵があった。
 心当たりはある。というより、心当たりしかない。この屋敷は山桜桃を誘拐同然に連れてきた男の家であったし、男の家は山桜桃の本家筋であった。分家の女如きが、本家のご当主さまの一挙一動に逆らえる道理など存在していない。
 生家で過ごしていた頃、まだ生きていた両親は必要以上に山桜桃を本家に関わらせないようにしていたのは知っていた。女の身で呪術師として大成することは難しいと考え、非術師と同じ暮らしが出来るよう基盤を整えていてくれていたのだ。今となっては全く無意味になってしまったが。
「戻った」
 振り向くと、鴨居より高い位置にある頭上から見下ろされていた。体格もそれに見合う体重もあるというのに、この男は驚く程物音を立てない。
 気付くと、ついさっきまでいた山桜桃の側付き達がいなくなっていた。
「おかえりなさいませ、旦那さま」
「こっち来い」
 手をついて礼をしているのに問答無用で引き摺られる。この野郎と心中で毒づきながら、横に座った男の膝に乗せられた。胡座の中心は収まりが良さそうに見えて、実はあんまり良くない。しかしそうしていると男の機嫌が目に見えて良いから、面倒臭いのもあって抵抗はしていない。
「何か変わったことでもあったか?」
「…いえ、特には。側付きにつけて頂いた人達とお庭を見たり、本を読みました」
「そうかよ。何かあったらすぐ言えよ、そいつぶっ殺してやるから」
「またそんなこと仰る」
 笑っているようで全く笑わない目とかち合い、身が竦む。




















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