はじめまして、お隣さん

『終わったぁー…』

三月の末日。

私は引越しの後片付けに追われていた。

ちょこちょことした小物の整理が終わったことに満足して、取り込んだばかりの布団に勢いよく体を沈める。

どっと押し寄せてくる疲れを感じてうっすらとした眠気が襲いかかってきた。

本当は部屋の中のものを簡単に片付けるだけだったはずなのに、いつの間にやら結構大掛かりな模様替えにエスカレートしてしまっていて。

段々と収拾がつかなくなった部屋がやっと片付いた頃には外は淡くオレンジ色になっていた。

うーん、午後には買い物に行けると思ってたんだけど…



うとうとしつつ時計にちらりと目線をやってみればもうすぐ夕ご飯の時間。

このまま寝ちゃってもいいかな、なんて思ったけど夜中に起きて変な時間に食べるのも嫌だし 起きて何か作らなければ。

くぐもったうめき声をあげて抱きしめていたクッションを横にもそもそと起き上がる。

冷蔵庫の中に何かあったかなぁ、と恐る恐る冷蔵庫を開けてみれば寂しいくらい空っぽだった。

そうでした。まだ何も買ってないんでした。



『スーパー遠いし今から食材を買いに行くの、……も?』

うんうんと考えあぐねていたタイミングで聞こえてきたのはチャイムの音。

夕暮れ時の急な訪問者に思わず固まる。

誰だろう。

軽く身なりを整えて、ぱたぱたと小走りで玄関に向かう。

「はーい」という返事が少し間延びした声になってしまったけれどこの際気にしない。



『すみませんお待たせしー……?』
「………」

左右で違う髪色。
左目を覆う火傷の跡。
こちらを冷たく見下ろす眼光。

(うはー…)

めちゃくちゃ怖い。

目の前にいる男の子(多分私と同い年くらい)は容赦なくその鋭い視線を私に突きさしてくる。

どうしよう、この仏頂面からして勧誘目的じゃないみたいだけど。



『えっ、と…何か?』

とりあえず何か喋らなくては。

そんな気持ちが先行して何を話せばよいのか分からないまま口を開いてしまった。

すると、男の子はどこから取り出したのかきちんと包装がされた箱を差し出してくれた。

外のしがされていて、ご挨拶という文字の下に"轟"と記されている。この人の名前なのかな。



「今日から隣に越してきた、403の轟焦凍です。」
『あ、はい!はじめまして。私402の…』
「じゃ」
『ー…って、えー!!』

私もきちんと挨拶しなくちゃ。

轟さんと同じように自己紹介をしようとしたら無慈悲にも轟さんは私の声を無視して玄関を閉めてしまった。



『な、なんなのあの人…。』

マイペースな仏頂面のお隣さん。

轟くんの第一印象は確かそんな感じだったと思う。

それが、始まり。


…………………

『わ、タオルセットだ…!』