『…どうしよう。』
綺麗に整頓されたばかりの部屋の真ん中で、私は正座をしながら考え込んでいた。
目の前には外のしを付けた挨拶品が鎮座している。
これは例のお隣さんである轟さんのために用意したもの。
昨日は部屋の掃除を無我夢中でしてたことが原因なのか、お隣に誰かが引っ越してきた事なんて全然気づかなかった。
おかげでお隣さんが越して来たら渡さなくちゃ、と前前から用意していたお菓子を渡しそびれてしまって。
まぁ、昨日は轟さん私の話も聞かずに帰っちゃったんだけど…。
どうしよう、なんだか行きにくいな。
ふと、私を悩ます問題の彼の部屋のほうへ視線を向ける。
けれど真っ白な壁をいくら見つめていても何も聞こえてこない。
静まり返った部屋は時計の秒針の音だけが空しく響くだけ。
生活音が全くしないお隣の部屋。
昨日話をしてみた感触も相まって益々謎が深まるばかりだ。
ここ、そんなに防音が行き届いてる訳でもないだろうに。
『もしかしてお留守なのかな。』
誰も人がいないのなら仕方がないんだろうけど、なんだかいそうな気がする。なんとなく。
『行ってみようかな。』
ここでうだうだ言っていても仕方がないし。
長引けば長引くだけぎくしゃくした関係が深まるだけだ。
引っ越してきたばっかりだったみたいだし、昨日の態度は疲れていただけなのかもしれない。
あれこれと理由を付けて無理矢理前向きに考える。
それに、こういうのって第一印象が全てじゃないよね。話してみるといい人かもしれない。
『更に向こうへ…PLUS ULTRA!』
この言葉、絶対こういう使い方じゃないな。
私は心の内でそっと独りごちてお気に入りのパンプスに足を入れた。
『こんにちは、……あ、ごめんなさいお休み中でしたか?』
「ー…いや、大丈夫だ。悪い。」
結論から言えば、やはり轟さんはお部屋にいたみたい。
少し眠そうな顔をしてしょぼしょぼとした目を擦りながら扉を開けた時にはちょっぴり罪悪感を感じてしまった。
ちなみに今は十一時。
この時間ならもうしっかり活動しているかな、と思って来てみたんだけど…意外とずぼらな人なのかな?
丸い頭のところどころにひょこひょことした寝癖を発見して、緊張していた体から少しだけ力が抜ける。
『あの、これ…昨日私ご挨拶しそびれてしまったので今日伺いました。』
おずおずと携えてきた挨拶品を差し出せば、轟さんはなるほどと言った顔つきでそれを受け取る。
「改めましてよろしくおねがいします」と付け加えれば「あぁ。」と端的な返事。
「"園生"…。」
『あ、はい!えっと、園生咲子って!言います!』
突然、自分の名前が呼ばれて思わず声が裏返ってしまった。
やだな、轟さんはのしに書いてあった名字をただ読んだだけなのに。
自意識過剰って思われてたらどうしよう。
熱が集まっていく顔と気恥ずかしい気持ちをどうにか誤魔化したくって、思わず深々と頭を下げれば轟さんが吹きだした。
「お前…俺の友達に似てる。」
『えっ…ともだ……?…えっ?』
「これからよろしく頼む。」
少しだけ砕けた彼の雰囲気に気圧されて、思わず聞き返すようにそう呟けば。
目を細めてどこか懐かしむような表情をする轟さんの姿があった。
『はいっよ、よろしくお願いします!』
…………………
イケメンって怖い…