put on…





「は〜食べた!やっぱあそこのパスタ美味しいわ」
「ねー咲子 次、あそこ寄って良き?」
『ふふ…!良き良き!』



人間、なんとも単純なもので。

一晩寝てしまえば少しだけだけど気分的に楽になった気がする。

ダメージが回復した、というよりは深く考えてぐるぐるするのを諦めた、って言った方が正しいかもしれない。

轟さんのこととか、クリエティさんのこととか、爆豪さんのこととか……。



考えても考えても自分の中で答えが出ない以上、ずっと引きずって重苦しく悩み続けているわけにもいかない。

私はいつも大学で一緒にいる友だち二人を誘ってショッピングモールに遊びに来ていた。



「ーー…てか咲子が誘うなんて珍しいね。しかも当日とか。」
「それね。」
『な、なんか…買いたいな〜…って思って…?』

「「いやなんで疑問形」」



別に楽しいからいいけど。と、なんでもなさそうにさらりと呟く背中にこっそりと救われる。

突然だったし迷惑だったかな、と小さく不安に思っていたけれど杞憂だったみたい。

本当は二人にいろいろと相談したいところなんだけど…。流石にまずそうだし、今は胸の内にそっと閉まっておこう。






「なんか買いたい、って言えば私リップ欲しかったんだよねー」
「えーまた化粧品買うのアンタ。前も何本か買ってなかった?」
「だってさ〜最近むしゃくしゃすることばっかなんだもん。爆買いして憂さ晴らししたいんだよ」
『う、"憂さ"…』



整えられた眉を寄せ、しかめっ面をする隣の友人に苦笑い。

スマホを片手に前々からチェックしていたらしい化粧品のレビューページを探す彼女に連れられ、私たちはコスメ専門店へと足を進めた。

……そんな時。






『ーーあ……。』



(あれって…。)



立ち止まったのは一枚のポスターの前。

黒々とした綺麗な髪。

力強く自信に満ちあふれた綺麗な切れ長の瞳と目が合って、思わず声を漏らして立ち止まる。



ー…他の誰でもない、昨日私が会った……。



『クリエティさん……。』

「あ、ほんとだ。クリエティ様。」
「あ〜そういえばこの間雑誌載ってたわ。最近ここのブランドのイメージモデルになったんだよね、クリエティ様。」
『へぇ…すごい。』



ぼーっとポスターを見つめる私だったけれど、二人の声を聴いてふと我に返る。

私が立ち止まったのは所謂"ちょっとお高い化粧品"ばかり取り扱うコスメセレクトショップの前だったらしい。

よくよくポスターを見てみれば、あんまり化粧品に詳しくない私でも聞いたことがあるような有名ブランドの名前。



(クリエティさん、ヒーローなのにこういうコスメブランドのモデルさんもやってるんだ…。)



いや、むしろヒーローだからこそ、なのかも…。



(…というか"様"って一体…。)



「私もデパコス一個は欲しいな〜」
「でもここのは流石に高過ぎでしょ。」
「だよねー。クリエティのお家がそもそもお金持ちだって言うし。住む世界が違うんだよもー!」

『………』



住む世界が違う。

本当にそう。

綺麗で、轟さんや爆豪さんと同じヒーローをしていて、すごく…キラキラしていて…。



(私とクリエティさんじゃ…… ………?)






『ーー…put on “creation”…?』

「あーそれ、クリエティの個性の"創造"からもじったキャッチコピーらしいよ。」
『"創造"を、つけよう……』


クリエティさんにばかり目がいっていたけれど、ふと視線を外せばそんな単語が目に飛び込んできて。

見たところこのキャッチコピーはクリエティさんがつけている新発売のリップのことを言っているらしい。



ぷるん、とした形の良い唇。

透明感のある艶やかな口元は、女の私ですらドキドキしてしまう。

……私は悩ましげに微笑む彼女に釘付けになってしまった。






『…………買っちゃおうかな。』

「「え!?」」



言葉にしたのはほとんど無意識。

…けれど、全く後悔はなかった。



「咲子マジ?」
「ほんと今日どうした?っていうか手持ちで足りる!?」
『…まぁ、なんとか…』



頭の中で思い浮かべるお財布の中身とお値段をうっすらと思い浮かべて文字通り算段する。

…うん、大丈夫…かな。



「でも色味とかは美容部員さんと相談した方がいいかもね」
「せっかく奮発するんだもんね!」
『わ、なんかいきなり緊張してきた…。』



どく、どくと緩く主張し始める心臓に気持ちが逸りだす。

焦りと、劣等感と、それ以上の期待とわくわく。



("put on "creation" "か…。)



少しでも、あなたに近づくことが出来たら、なんて…。

そんな図々しいことを考えてしまった。