02


「あら、どうしたの。」
『づ、つゆちゃ…』

あれからどうやって寮にまで帰ったのか正直覚えていない。

泣きながら全力疾走をしたせいで顔も熱いし息も絶え絶え。

何も知らない人から見ればびっくりするだろう。

きっと私、いますごく情けない顔してる。



こんな醜態、出来れば誰にも見せたくない。

けれどどうしても一人になりたくなかった私は自分の部屋に入ることもなく梅雨ちゃんのお部屋を訪問していた。

しゃがれた声でなんとか梅雨ちゃんの名前を呼べば「中に入って」と優しく部屋へ促される。

こういうパニックになっちゃってる時、優しく話を聞いてくれる誰かがいるのって本当にありがたいな。



『ありがと…』
「大体想像はつくわ。名前ちゃん、最近ずっと悲しそうだったもの。」

「座っていて頂戴」とクッションを整えながらティッシュまで近くに置いてくれる梅雨ちゃん。

こくこくと頷いて指示に従えば梅雨ちゃんはキッチンに行ってしまった。どうやらお茶を用意してくれるみたいだ。

てきぱきとカップやソーサーを用意する梅雨ちゃん。

突然押しかけて来ちゃって悪いことしちゃったな、なんて途端に申し訳ない気持ちになる。なにか持って来るべきだったかな。



「ずばり、原因は上鳴ちゃんね。」
『…っ、』

名前が出た瞬間、胸がきゅっと締め付けられる。

核心を突かれた私が返事が出来ずに呆然と俯いたままでいたら「ごめんなさいね、最近上鳴ちゃんといると辛そうだったから」と謝られてしまった。

眉尻を下げ、いつもよりゆっくりと話す梅雨ちゃんの声になんだか泣きたくなってしまう。

勝手に怒って、勝手に喚いて友達の家に押しかけて…。私何やってるんだろう。



ずっと滲んだままの視界をクリアにしたくてそっと目を瞑る。

考えてみれば私はいつも自分勝手だ。だから電気だって…。

喉元に熱が込み上げてきて徐々に後悔の念が押し寄せてくる。

贖罪をするように梅雨ちゃんに自分がしてしまった事を断片的に吐き出せば、梅雨ちゃんは真剣な表情でそれを黙って聞いてくれた。



『私、わたし…電気にひどいこと…』
「いやいや全っっっ然ひどないから!!!」
『っ、お、お茶子ちゃん…!?』

バタン!!と荒々しく開けられた玄関。

しんみりとした空気を一瞬で吹き飛ばしてしまう程ど派手に登場してきたのはお茶子ちゃんだった。



状況が上手く飲み込めない。

気づけば止めどなく溢れていた涙は引っ込んでしまっていた。

少しずつ冷静になっていく頭。

よくよく見ればお茶子ちゃんの後ろには百ちゃんや透ちゃんなどクラスの女の子たちが集まっているようで。



これは一体どういうことなのかと梅雨ちゃんに無言のまま目で訴えれば「ごめんなさい、みんなに知らせちゃったわ」とスマホのグループ画面を見せられる。

メッセージアプリには事の詳細が細かく書かれていて。

みんなはこれを見て返事もせずにすぐさま駆けつけてくれたみたいだ。



「あーあーまた派手に泣いちゃって。大丈夫?」
「彼女こんな泣かすとか本当なんっなん…!?上鳴くん許せへんわ…。」
「ここに上鳴さんの今後を話し合う会議を開きます!!蛙吹さん、私もお手伝いをいたしますわ。リラックス効果ならハーブティーの方がよろしいですわね」
「いいぞぉヤオモモー!!今日は朝まで徹底討論だー!」
「あ、私たくさんお菓子持って来た!良かったら食べて食べて!」

『みんなぁ…』

大好きなみんなの顔を見て、私の心がほろほろと崩れていくのを感じる。堰を切ったように声を上げて小さな子どものように泣き出せば、三奈ちゃんと透ちゃんにぎゅぎゅっと両脇から抱きしめられた。

『う、…っふ、うれ゛しぃよぉ…』
「今日くらいは泣いちゃえ泣いちゃえ。」
「その為にみんな来たんだから!」
「二人の言う通りだわ。はい、お茶。熱いから気を付けてね」

私の身体を優しく拘束する腕にそっと顔を寄せる。

無理に元気を出せとは言わない皆のやさしさに甘えていれば爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

『―…いただきます。』

澄んだ琥珀色の水面が小さく揺れる。

私は梅雨ちゃん達が煎れてくれたハーブティーに口を付けた。