04


※モブの女の子の名前は"あの子"としています。



電気と喧嘩をしてから二日が経った。

私たちが喧嘩をしている事は男子のみんなにも周知されてるらしい。

私たち二人が話さなくなっても誰も何も言わなかった。



「でさー…名前、そこで私…」
『えーなにそれ』

女子のみんなとお昼を食べて、教室でまったりとした時間を過ごす。

私は響香ちゃんの声に返事をしつつ、同じく男子と談笑している電気を盗み見た。

(本当に無神経なんだから…。)

いつもとおんなじアホな顔。

きっとまた峰田君たちと女の子のこと話してるんだ…。この前のこと、忘れた訳でもないだろうに。

「あれ、どこ行くの?」
『ちょっとお手洗い。』

不思議そうな顔をする響香ちゃんにこっそりと伝えて席を立つ。私はそのまま教室から出てとぼとぼと女子トイレまで歩いていった。






(はーあ、やっぱりあの時あんなこと言わなければよかった…。)

お昼休みが終わるまでにまだ時間があるせいか、廊下には人が結構いて。

私はいつもより騒がしいそこを歩きながら、電気の事を考えていた。

(このまま別れちゃうのかな…私たち。)

喧嘩別れしてそれっきり。

そんな別れを想像してしまいふるふると首を振った。

そんなの嫌だ。

急いで仲直りしなくちゃ…

(でも…)

ここ私が謝っちゃったらこういうのがずっと続いていく気がする。

それに以前、"あなたは悪くないんだから謝るのはおかしいわ"と言ってくれた梅雨ちゃんの事もある。

かと言ってお互い避け合っている今電気が謝りに来てくれるとは思えないし…。

『はぁ…』

どうしよう。






個室のドアを閉めて、思わずため息をつく。

こういう時、自分が素直でやさしい女の子だったらなぁ、なんて。

そんな叶わないだろう願望を抱いてしまう。

だからきっと電気もかわいい、と言って"あの子"の名前を挙げたのだ。

ヒーロー科にいる私だって聞いたことあるくらいに有名な彼女の名前を。

可愛くて、優しくて、おしとやか。そんな理想の具現化みたいな、"あの子"。

彼女の姿を見た時、私もかわいいな、って思ってしまった。






(もし…もし私が"あの子"だったら。)

きっと電気は浮気もしないで幸せな彼氏彼女としてお付き合いするんだろうな。

("あの子"なら電気とお似合いだ。)

『ふっ…うっ、う…』

ぽたぽたと個室の床に涙が落ちていく。

私はそっと顔を覆ってその場で立ち尽くすことしか出来ずにいた。



ーーーその時。



「ねぇ、A組の上鳴くんに告られたってマジ?」
「うん。昨日の夕方。」
「わ、マジで?」


えっ。

個室の外から聞こえてきたのは、今の今まで頭の中に姿を浮かべていた彼女の声。



(どういう、こと…)



(電気が"あの子"に告白…………?)






頭が真っ白になってしまって何も考えられない。

けれど、鼓膜を震わす彼女の声だけは妙にくっきりと聞こえてきた。

どくどくと警鐘のように心臓が慌ただしく跳ねる。



「どうしようかな、って思ってまだ返事は待って貰ってるんだ。」
「上鳴くんってヒーロー科の?」
「結構格好いい子だよね!」
「っていうかあの人彼女いなかったんだ。意外かも!」
「ねー」


彼女たちのきゃいきゃいとしたやり取りがトイレに響く。

私はそんな彼女たちの声を聴きながら呆然と立ち尽くすことしか出来ずにいた。