口は災いの元?

『ねぇ…勝己、私って貧乳?』
「…………………………は?」

人もまばらなお昼休みの教室。私はよく熟れたミニトマトををつつきながら冒頭の台詞を勝己に投げかけた。

出来るだけ、言葉を選んだつもりだったけどどうやら駄目だったらしい。ちらりと盗み見た勝己の何とも言えない表情に私はそう静かに確信する。

幼馴染でもある勝己とそういうお付き合いを始めてからはや4ヶ月。ちょっとした喧嘩はした事もあったけど、こんな緊迫感を感じたのは初めてだ。

どうしよう、まさかこんな空気になるなんて。

良くも悪くも裏表のない勝己は物事に対してはっきりとした口調で返す。けれど、今の私の質問の真意が分からないのか勝己はいつものように即答することは無かった。

たっぷりと長い沈黙のあとに返された勝己の声は"何を言ってるんだコイツは"と言いたげなもので。勝己の周りにたくさんのはてなマークが見える…気がする。

近くで様子を見守ってくれていた響香ちゃんは"もう見てられない"と顔を覆い、梅雨ちゃんもどこか心配そうにこちらを見ている。大丈夫、頑張ります。

「何言ってんだお前」
『わ、私たちって付き合ってもう…結構経つでしょ?けど、か…勝己何もしてこないから…。』

そうなんです。何も、本当に何もしてこない。

告白したのは私から。勝己はそれに応えてくれた形でお付き合いすることになったんだけど、何も進展がないのだ。

ふ、普通お付き合いとかするからにはそういう雰囲気になってもおかしくはないんじゃないかなって。手を繋いだりとか、キスしたり…とか。それともこういうのってまだ早いのかな…。

今まで勝己以外の男の子とお付き合いしたことがないし、すきになったこともないから分からない。こう思ってるのも私だけ?

小さい頃はよく手だって握ってたし(私がよく迷子になっちゃうからだけど)、距離ももう少し近かったと思う。

それなのにこんな関係になってからは二人きりになる頻度はむしろ減ってしまったし、手だって握っていない。これってお付き合いしてるって言えるのかな…。



『上鳴くんにね、相談したの。その事。そしたらね、"女の色気が足りないんじゃないか"って。』
「…………………………は?」
『み、峰田くんにもアドバイス…というか、助言を貰ったんだけど…む、胸が小さいんじゃないか、って言われまして。』

男の子ってどんなこと考えてるの?と上鳴くんにきいたらノリノリで教えてくれた。あと峰田くんも。曰く、彼女がいるのに手を出さないのはやっぱりおかしいとの回答が返ってきて。

どうすればいいんだろう、って呟いたら峰田くんから"そういうこと"が原因だと言われた。(そのあと梅雨ちゃんと近くにいた響香ちゃんが成敗してくれたけど。)

勝己だってお、男の子だし…。そういうことに興味があるのはなんとなく理解出来るんだけど、私だとそういう気持ちにならないのかな。

今まで、胸のサイズ特に気にしたことは無かったんだけど(むしろ平均くらいかなとも思ってたんだけど。)、その時少し遠くにいた百ちゃんの姿を見て確かにと思ってしまったのだ。男の子はああいうボンキュッボンがいいのか…。

勝己は嫌なことは強制されでもしない限りやらないし、自分の意思にそぐわない事はきっぱりと断るタイプだ。だから私の告白を聞いて、好きじゃないけど付き合ってあげよう、って思ってる訳じゃないと思うんだけど…。

「気にしなくていい」、「爆豪ちゃんは爆豪ちゃんでいろいろ考えているのよ」って響香ちゃんも梅雨ちゃんも言ってくれたけど、本人に確かめたいのと言ったら協力してくれた。



『やっぱり…私だとそういう気持ちにならない?も、もっと胸がおっきな女の子とかがいいんだったら…私、その…えーっと、……………あっ』

別れたほうがいい?
そうすぱっと聞いたほうがいいはずなのに言葉にしようとした途端、涙がぽろぽろと溢れてしまって。急いで顔を涙を拭こうとしても次から次に止めどなく流れてくる。

駄目だ。駄目だ。こんな風に泣いてたら勝己が振りづらくなっちゃう。

勝己はいまどんな気持ちなんだろう。困ってる?怒ってる?喜んでる?何れにせよ、いきなり泣き出したら面倒くさいし嫌だよね。謝らなくちゃ…それと、お礼も言わないと。



『ごめんね、勝己…それと今まで、』
「んな訳ねーだろ」
『えっ……?』
「今まで誰のために我慢してきたと思ってんだ…クソ」
『?……が、がまん?』

久しぶりに口を開いた勝己はいつもよりとっても小声で上手く聞き取れない。お箸を握っていた掌は血管浮くほど力が込められていて、木製だったお箸は派手な音を立てて無残にも真っ二つに折れてしまった。

『あぁ、お箸…』
「名前今日俺ンち来い。」
『え?勝己のお家?いきなりどうして…って、どこ行くの?』
「名前ちゃん、どうやら爆豪ちゃんを煽ってしまったようね」
『煽る?なんで?』
「名前、嫌なことされたら大きな声出すんだよ。顔叩いちゃっていいから。」
『?響香ちゃん…?』

勝己がどこかへふらふらと行ってしまったタイミングで、何とも気まずそうな顔をしながらどこか顔が赤い響香ちゃんといつもと変わらぬ梅雨ちゃんがやってきて。

肩に手を置く友人二人の意図が分からずぼんやりとしていたら峰田くんと上鳴くんの悲鳴が廊下から聞こえてきた。


………………

『爆音…!!どうしたのかな…!?』
「アイツら馬鹿な事吹き込むから…」
「当然の結果だわ。」