ひまわりのような君

『環くんかーえーろ!』



HR終わりのチャイムが鳴って、教室がざわめき始めた瞬間。



愛しい声が俺の耳をくすぐった。



隣のクラスの俺の彼女。名字名前さん。



俺の彼女はとっても眩しい。



快活な声も、ぶんぶんと俺に手を振る白い腕も。俺なんかに笑いかけてくれるその笑顔も。



まるで君は夏場に燦然と輝くひまわりのようだ。



(みんなみんな、何もかも眩しい…。)



俺は眩しい彼女を直視することができなくて、手元のカバンへと視線を落とした。



「はぁ………駄目だ…今日も眩しい……!」

『えっ!ごめん環くんなにか嫌だった?』

「ううん…何も…何もないよ…。」



さっきまで教室の外にいたのに、いつの間にか彼女は中へと入ってきていて。



下を見たままの俺を不思議に思ったのか、可愛くこてん、と首を傾げている。



俺は眩しい彼女を直接視界に入れないよう手で影を作って俯いた。



(あぁ…可愛い……。眩しい…。)



手の隙間から見えるつるりとした白い肌、小さな唇。



痛みのない黒髪は真っすぐな彼女の性格を表しているようだった。



(………どうしてこんな可愛くて眩しい彼女が僕の彼女でいてくれるんだろう…。)



そんな後ろ向きな事を考えずにはいられない。



(彼女には、俺みたいな人間じゃなくてミリオの方がお似合いだろうに…。)



『どうかした?』

「なんでもない……」



ミリオの隣で笑っている名字さんの姿を想像して、じくり、じくりと胸が軋むように痛む。



俺と違ってミリオは明るいし一緒にいて面白い。



こんな後ろ向きなことを考えてしまう俺なんかより、よっぽど彼女の恋人にふさわしい気がして。



やりようのない焦燥感に思わずごくりと生唾を飲み込む。



…すると今まで不思議そうな顔をしていた彼女がぱっと顔を明るくさせ。「分かった!」と可愛らしい声を上げた。



『まーた"俺なんて…"とか考えてたんでしょ!』

「え…」



図星を突かれ、思わず声が漏れる。



ふ、と彼女の方へ視線をやれば名字さんはくすくすと面白そうに笑っていて。



そんな彼女の笑顔を見て、俺の正直な心臓はとくりと高鳴った。



…しかし次の瞬間、名字さんの言葉によって俺の心は凍り付く。



『環くんがそんなこと言うならミリオくんにしちゃおうかなーっ』

「えっ」



それは…俺とは別れてミリオと付き合うという事だろうか…。



想像だけにとどめておきたかった恐怖が現実になろうとしている。



俺はごくりと生唾を飲み込んだ。



『だっていま環くんだってそう思ってたんでしょ?』

「それは…そうだけど…」



そう付け足せば少しだけ妙な空気が流れる。



俺が視線を彷徨わせながらどうしたものかと思案していると、



名字さんが突然「ふふっ」と吹きだした。



「えっ…?」

『環くんの困ってる顔、見るの好きなんだ私。』



「ごめんね?」と両手を合わせて可愛らしく謝る彼女に言葉が出ない。



(あぁ、そうか…俺はからかわれただけだったのか…)



そういえばそもそも彼女とミリオはあまり面識がなかった気がする。



ぼんやりしていたとはいえ、こんな簡単な冗談に引っかかってしまうなんて…。



我ながら情けない。というか普通に恥ずかしい。帰りたい…。






『ーーーでもさ、環くんがそういう事考えるのはやっぱり嫌だな』

「そういうこと、って?」

『"俺なんか…"とか。"どうせ俺なんて…"とか?』



俺のマネをしているのであろう名字さんの唇が少しだけ尖る。



そんな子供っぽい様子も可愛いな、なんて呆けていたら「あっ!いま別のこと考えていたでしょ」と怒られてしまった。



『もー環くんてば!話ちゃんと聞いてる?』

「聞いてる…聞いてるよ」



だからそんなに近づいてこないでほしい。



心臓がどくどくと暴れて今にも破れてしまいそうだ。



俺は真っ赤になってしまっているであろう顔を背けて彼女と距離をとろうとする。



…が、しかし



『だめ!もう何回言っても治らないんだもん!』

「………なっ!?」



不意に、名字さんが俺の顔をそっと掴んで引き寄せる。



俺はその一瞬の出来事に上手く反応できず彼女のされるがままになってしまって。



ふっと、一気に近づいた二人の距離。



彼女のぷるりとした唇が俺の耳元に近づいて、彼女の吐息がかかる。



そのむず痒いような、くすぐったいような不思議な感覚に酔いしれていると、彼女はにこりと微笑んだ。



『次、そんなこと言ったら環くんのほうからちゅーしてね。』

「えっ……!?あ…っ」



瞬間。



耳たぶにふにゃりと柔らかい感触がして。



はむ、と耳たぶを口唇で挟むようにキスされ、顔面に血が上る。



それに驚いて思わず顔を両手でガードすれば、彼女はおかしそうにクスクスと笑っていた。



眩しい君



***

「ねぇねぇ何してるの?なんだか楽しそう!交ぜてーっ」

「駄目だよ波動さん!いま環は名字さんといい雰囲気なんだから…!」

「よりによってこの二人に見られてたなんて…死にたい…」