夜の0時過ぎ。
今日は仕事が長引いてしまって、こんな時間の帰宅になってしまった。
(うぅ…太志郎くん怒ってるだろうなぁ…)
恋人である太志郎くんと同棲してはや一ヶ月。
ヒーロー業をしている太志郎くんは、なんというか、すごい心配性だ。
私が夜、仕事から帰ると「今日も遅かったなぁ」とか、「変なのおらんかったか」とか。
あの巨体を揺らしながらとにかく私の心配をしてくれる。
不安げな様子でおろおろと私の心配をする彼の姿は、失礼かもしれないけれどとても可愛いのだ。
(なんか…おっきいゴールデンレトリバーみたいなんだよね…)
犬系彼氏ってやつかな…。
『ーーーふふっ』
私は犬とカブる彼氏の姿を思い描いて小さく笑ってから、玄関の戸をガチャリと開けた。
『ただいまー…………あれっ』
おかしいな。
いつも「おかえり〜」と出迎えてくれる巨体が今日はいない。
今日はいつもより遅くなってしまったから、
"女の子がこんな時間まで何してんねん!"とか。"遅くなるなら連絡入れとけ言うたやろ"とか。
そんなことを言われると思って覚悟していたのに…。
電気はついてるし、テレビの音も聞こえてくるから いることにはいるんだろうけれど…。
(もしかして遅すぎて怒ってるとか?)
だとしたら謝らなくちゃ。
私は少しはらはらとしながらリビングに続く扉をそっと開けた。
『ただいま、太志郎くん帰ったよ…?』
「……」
『太志郎くん?』
「ぐー…」
『ぐー?』
リビングに入って思わず目をぱちぱちとさせる。
地響きが少し小さくなったような、そんな重低音がソファから聞こえてきて。
こっそりとソファを確認すれば、キングサイズのそれに身体を預けて眠ってしまっている太志郎くんの姿があった。
(寝ちゃってたのか…)
太志郎くんがソファで居眠りなんて珍しい。
体型もいつものファットさん体型じゃなくてコミットしてるし、今日は何か戦闘があったのかも…。
「太志郎くんも今日はお疲れだったんだね。」なんて独り言を漏らせば、返事をするようにふがふがと鼻息が聞こえてきた。
『ふふっ…ただいま。帰ってきたよ。』
鼻をつんつんとつつきながら太志郎くんの寝顔を盗み見る。
私はこの寝顔が大好きだ。
(かわいい…)
だらりと開けられた大きな口も、少しだけ豪快な寝息も。みんなみんな、愛おしい。
それに、そんな太志郎くんの寝顔見ると、「帰ってきたなぁ…」って感じがしてとっても落ち着くのだ。
(やっぱりワンちゃんみたい。)
「ん゛ん〜…名前…」
『ふふっ、』
何かを探るようなての動きにニヤニヤが止まらない。
もしかして私の夢を見ているのかな、なんて。そんな己惚れたことを考えてしまう。
ーーーけれど、
『私の夢を見てくれるのは嬉しいけれど、起きてくれなきゃ寂しいな。』
そう言って、えい、と眠りこけている頬にキスを落とす。
…すると今までぐでんと伸びていた身体が急に上体を起こして。逆に私が押し倒される形となった。
『ーーーたいしろ、…くん……?』
「あかん…寝たふりなんかするもんやなかったわ…なにかぁいいことしとんねん自分…。」
気付けば両手は大きな手によりまとめられてしまっていて。
気付けば脚は閉じられないように彼の大きな膝が挟まれていた。
突然のことに、私はぱちぱちとまた目を瞬かせる。
『………もしかして、起きてた?』
「"太志郎くん帰ったよ"から起きとったで。」
『最初からだったのね……』
(もうやだ……死にたい…。)
じっくり観察したり、にまにましちゃったり。なんだか恥ずかしいことまで言ってしまった気がする。
……挙句の果てにはキスまでしちゃったし。
(ああああ…もう、恥ずかしい、恥ずかしい…。)
私がしてしまった恥ずかしい事の数々が思い出され死にたくなってくる。
私は顔を見られるのが恥ずかしくて両手で顔を覆いたかったけれど、手首を絡めとられてしまっている今、そんなのは無理で。
恥ずかしい気持ちでいっぱいになって感情がぐちゃぐちゃになった私を太志郎くんは愛おしそうに見下ろした。
「おかえり、名前。おつかれさん。」
『た、ただいま…太志郎くん…。そっちもお疲れだったみたいだね。』
「せやねん…太志郎くんむっちゃお疲れやねん…だから癒してほしいなぁ…なぁ、名前?」
れろりと口周りを一周する舌の動きはまるで犬そのもの。
けれどそれはワンちゃん、とかそういう可愛らしい生き物じゃなくて、狼とかライオンのような肉食獣のように見えた。
嫌な汗が私の頬に流れ出す。
『え、今日……私も疲れて…』
「明日二人ともオフやし、な…?」
『ちょッ、たいしろ……ンんッ…』
文句を紡いでいた唇は彼のそれで塞がれる。
馬乗りになって角度を変えながらキスを重ねる彼に私は"かわいい"と評価したことをうっすらと後悔した。
(あぁ…明日はショッピングに一緒に行きたかったのに…)
この様子じゃ明日は外出なんて出来ないな。なんてことを想いながら私はゆっくりと目を閉じた。