「ハジメちゃんは淫魔の血も入ってるのかな。ナカ、きゅうきゅうしちゃって気持ちよくってさあ、そこらの雌なんか全く相手にならないね」


「っ!く、そが!も…むりっ!あぁっ!イ、っ!」


「イキなよ、好きなだけ。お前がぐっすり眠れるようにしてあげるからね」


 残されている痛覚を上回る快感に、ナカはあっさりと陥落する。赤く染まった下肢が引きつり、及川を盛大に締め付けながら岩泉は吐精した。びゅく、大きく飛沫を上げて腹に白濁を撒き散らし、なおも鈴口からはとろとろと残滓をこぼす。それはつうっと後孔へ伝い、赤と混じりあった。桃色になった粘液はモノと共に後孔が呑み込む。及川はそれをナカに塗り込むみたいにゆるりと腰を動かし、ぐちゅぐちゅと響く淫猥な音を岩泉に聞かせた。涙を刷いた少しだけつり上がった猫の目が、へらりと笑う及川を睨めつける。


「あは、そんな可愛い目で見るなよ。愛を感じちゃう」


「ぅ、ぁっ…あ!あっ…ああ!」


 ぐり、ナカのいいところを抉られ、途端見開いた目からは鋭さが消えてゆく。背を反らして、握り締めたシーツは密な皺を作るけれど、ぞわぞわと這い上がる快感を逃がすことは叶わなかった。もう痛みなど遥か彼方、むしろそれすら岩泉を追い詰める要素にしかなり得ない。汗が吹き出て唇は震えた。激しくはない抽挿だというのに、ナカははしたなく及川に縋りつく。下腹がきゅうっと収縮した。あるはずのない子宮が種を欲しがるみたいに。


「なあに、孕みたいの?子宮作ってあげようか。あー、今でもここ、半分まんこみたいなのにね。もう完全に雌になっちゃうね」


 大きな手のひらが愛おしそうに、すりすりと下腹をさする。


「あぁっ!…や、やっ!い、やだっ!…ふ、ぅっ!……あああぁ…!」


 びくびくと震えるモノからは、白濁混じりの粘液が力なくとぷんと少しだけこぼれた。そうしてナカは及川が動きを止めるほどに、きつくモノを締め上げている。喘ぐみたいにぎゅうぎゅうと。締めれば締めるだけぐっといいところに当たるものだから、その度に身体を跳ねさせまた締めて。どうしようもない熱と、際限のない過ぎる快感に、まなじりからは涙があふれた。


「孕ませたげるからゆるめて?」


 指の背で涙に濡れる頬を撫でられ、噛み締めすぎて血の滲んだ唇にちゅっと口づけられる。岩泉の苦痛も何ら厭わない及川にあって、こと口づけだけはひどく優しかった。こちらとしてはその差異によって際立つ痛みや快感が、余計に辛いのだけども。上唇を食んで次は下唇、そのままぺろりと舐められると、次の心地よさをよくよく知っている舌が及川のそれを迎え入れる。くすぐるみたいに咥内を這い回る舌と、ゆるゆる角度を変えながら合わさる唇。ぐうっと上顎を押されて、鼻に抜けるあえかな声が漏れた。それと共に幾分かナカの締め付けが弱まるのが自分でもわかる。及川が腰を引いて、モノがずるりと内壁をこすりながら出てゆくのがさみしかった。きゅん、追い縋るナカをよそに、先端ぎりぎりまで抜かれぐちゅんと勢いをつけて突き入れられる。またひとつ涙の粒が転がり、甘ったれた声で及川の名を紡いだ。びりびり痺れる下腹は痛いほどなのに、もっと奥へと淫らに及川を誘う。


「ふっ、ああぁぁぁ!と、るっ!とお…る!…っ!」


「ああ、今日はどうやっておやすみしようか。心臓を抉り出そうかな。頸動脈切ってぜーんぶ血を出しちゃおうかな。真っ白いハジメちゃんは天使みたいで可愛いから迷うね」


「ひ、ぁぁっ!むり、いやっ!……も、とおる…いく…っ!」


 きっと今日もイキっぱなしの岩泉を好きに抱いて、及川が幾度かナカに精を吐き出したら、殺されるのだろう。殺すと言っても存在の消滅を意味する死ではなくて、限りなく仮死に近い死。実際心臓も呼吸も、身体の機能全てが働かなくなるのだから、死には違いないのだけれど。その殺し方は、いつも及川の気分ひとつ。ただこの身の原型をとどめないような、例えば八つ裂きだとか、焼き尽くすだとか、そんなことは間違ってもしない。曰く岩泉という形が残っていなければならないから、と。及川とはどこまでも面倒くさい男である。けれどそうは言っても、力が出せないだけで痛覚はあるのだ。痛いに決まっている。苦しいに決まっている。だから抱き潰されて朦朧とする意識を、そのまま眠りの渦に蹴り落としてくれるだけでいいのに。そうどれだけ詰め寄ったところで及川は歯牙にもかけない。何度でも言う、及川とはどこまでも面倒くさくて過激な男であった。



 夢をみている。死んでいるのに、ゆめをみている。それは幼い頃のふたりであったり、とろとろと甘やかされる自分であったり。どうしてかしあわせなゆめしかみない。そこに必ずいる及川は、いつだって美しかった。翼が真白であろうが深黒であろうが。そう、本当は及川であれば何だって構わないのだ。告げてはやらない真実。与えられる歪んだ執着。まるで世界の理みたいなこの愛しい関係に、何と名前をつけたらいいのだろうか。





 ……ああ気持ちよさそうに眠ってるね。心配しなくても朝には傷ひとつないハジメちゃんに戻してあげるからね。溜め込んだ魔力が暴走したら大変だからっていつも怒らせちゃってごめんね?けどハジメちゃんの怒りもちゃんと全部俺が吸い取ってあげる。そのための結界だもんね。それにねお前に殺してやるって言われるのはすごく気持ちがいいんだ。それだけでイけそうなんだからねわかってる?俺の手で死ぬハジメちゃんも俺の手で生き返るハジメちゃんも可愛くてたまんない。もちろん酷くされてるのにあんあん鳴いちゃうお前もたまらなく好きだよ。一生って言ってもあと何百年何千年あるか知らないけど逃げられると思うなよ。お前のためなら神でも殺せる。お前に傷をつけられるのは俺だけなんだって忘れないでね。それがお前自身であっても許さないんだからな。過去も未来もお前と共に。愛してるよハジメ。あいしているよはじめ。






 


prev|next
ALICE+