複雑
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酔っ払った彼女が、自分の肩に頭を置く。ため息をついて軽く小突くけれど、へらへら笑うばかりで離れてくれない。
「なまえ、貴女本当に学習しませんね」
「んぁあ……いばゃく……?」
真っ赤な頬が、にっこりと持ち上げられる。幸せそうな目で見つめられ、またため息をついた。
「なまえちゃん、べろんべろんだね!」
向かいに座っている殿下にそう言われ、三度目の溜め息。殿下も中々に酔っている様子だ。忘年会とはいえ、お偉方や他事務所の方々もいるのに……まぁ殆ど皆酔っ払ってしまっているが。
「全く、警戒心が無さすぎて呆れるばかりであります」
「そうだね、なまえちゃん可愛いから心配だね」
「可愛いかどうかはさておき、こうなるとまた自分が送らなくてはなりませんから……ハッキリ言って面倒ですし、迷惑ですよ」
自分がそう言うと、殿下はにやりと笑って頬杖をつく。
「なら僕が送ろうか?」
「……本当に家まで送ります?夢ノ咲時代の噂が本当かどうか知りませんけど、些か心配ですよ」
「失礼な子!ちゃんと送るよ、まぁその後どうなるかはわからないけどね♪」
「ウッワ……なら任せられませんよ、遊び相手は選んでください」
「あはは!きみにそんなこと言う資格あるのかね?付き合ってもいないし、なまえちゃんの合意さえ得られたら、僕がなまえちゃんとセックスしようがきみに関係ないよね?」
挑発するようにそう言われ、思わず顔を顰めてしまう。酔っぱらいの戯言だと流してしまえばいいのに、俺も少しは酔っていたんだろうか、ムキになって言い返してしまった。
「酩酊状態で合意もクソもありません」
「ま、それはそうかもね?じゃあ素面のときにでも誘おうかな」
「は?やめてください」
「だから、それきみに言われる筋合いないよね?ま、逆に言えば僕も、きみがこの後送り狼になろうが関係ないけどね。ふふ、きみって本当、こういうことには不器用だよね」
彼が何を俺に気付かせようとしているのかなんとなく察して、水の入ったコップを煽り、彼女を支えて立ち上がった。
「お先に失礼します。俺が送っていきますから、ご心配なく」
「うんうん、健闘を祈ってるね!」
うるせぇ、という言葉を飲み込み、彼女のバッグを持ってその場を後にした。
「ぃばゃくん〜〜〜……えへへ……」
「うぜぇ……なんで殿下にあんなに煽られなきゃいけないんですかねぇ。聞いてます?なまえ」
真っ直ぐ自分の家に連れ込んでしまったのは、何故だろう。……なんて白々しすぎるか。彼女をベッドに下ろすが、やはりへらへら笑ったままだ。しかもぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
「いいこ、いいこ……いばらくん、いいこ……かあいいね、ふふふ……」
「はぁ……聞いてます?あんた、今から俺に犯されるんですよ」
脱力しきった体をベッドに沈ませ、上に覆い被さる。彼女はぼーっと焦点の定まらない目で俺を見る。熱い頬に触れてキスをすると、彼女はそっと首に腕を回した。
「……ん、」
唇を割って、熱い舌を絡める。キスの合間に服をはだけさせて、直接肌に手を這わせた。彼女は抵抗をする気配もなく、ただ力を抜いて俺を受け入れていた。それが意識が朦朧としているせいなのか、はたまた別の理由があるのかはわからない。
「……あぁ、クソ」
唇を離して、彼女を見下ろす。ぼーっと惚けたまま微かに笑っている。
「別に、」
独り言のように言葉を吐き出す。彼女の熱い頬に触れて、柔らかな髪を指先に絡ませた。
「アンタのこと傷つけたいわけじゃないんだ」
我ながら情けないな、と思いながら、彼女の瞼にキスをする。彼女はやはりぼんやりしたまま、何も言わなかった。
「はあ、本当嫌になるな……もっと警戒してくださいよ、自分の身の回りを」
彼女の上からどいて溜め息をつくと、彼女はくいくいと俺の服の裾を引っ張った。
「……いばらくんだから、いいよ」
……本当に、この女は。
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