I will not tell you.
「この旅も、もう終わっちゃうのね」
「ああ、そうだな」
「何だか寂しいな」
ルカくん、イリア、コーダ、スパーダくん、アンジュさん、リカルドさん、エル、コンウェイさん、キュキュさん、この8人と1匹と私で続けた旅も、終わる。
そりゃあ、目的を達成出来たから終わるわけであって。
私は心のどこかで、ずっと続くのかな、続けば良いなと思ってしまっていた。
だって、とても居心地が良かった。
大好きな人だって出来た。
……まだ、気持ちは伝えられてないけれど。
まぁ、伝えたところで困らせちゃうだけだし。
「ナマエは、やっぱ家に帰んのか?」
「……そうだね。 まずはテノスに戻って、家の手伝いかなぁ」
「……そうか」
「ん、じゃあね、皆。 楽しかったよ」
§
「レグヌムからテノス行きの船が出まーす!乗船する方はお早めにー!」
「あーあ、これで本当にお終いかぁ」
もうここに来る事も、大好きな人と会える事も無い。
気持ちを伝えるチャンスは、さっきが最後だったのだ。
「やっぱり、言うべきだったかな」
今まで座っていたベンチから立ち上がり、船へと向かう。
「…………さよなら、スパーダくん」
想いを捨てるかのように呟いた。
「……誰と、さよならだってェ?」
「!」
港の入口に、見慣れた緑があった。
「スパー、ダ、くん」
「何だよ、ダチの見送りに来ちゃマズいのか? それとも、オレだけじゃ不満か?」
ふるふる、と首を横に振る。
「……嬉しい」
「言いたい事がある。 聞いてくれるか?」
「……うん」
ボスッと乱暴に頭に何かが被せられる。
これは多分……スパーダくんの帽子だ。
「わっ!ちょっと、何!?」
「いいから! このまま聞いてくれ」
あのな……と言って一呼吸置いてから発した言葉に私は耳を疑った。
「オレ、ナマエの事、必ず迎えに行ってやっから。 約束する。 だから、それまで待ってろ」
少し、震えた声だったけれど、確かに聞こえた。
「な、なん、で」
「バッバカ! おま、そういう時の理由なんて1つしかねェだろ!」
深く帽子を被せられて、未だスパーダくんの顔が伺えないが、多分顔を真っ赤にしているのだろう。
そして私も同じく真っ赤、だと思う。
暫くの沈黙。
それは船員の「まもなく船が出航しまーす!」という声で破られた。
「っあ! 船、乗らなきゃ! ほ、ほらこれ! 返すね!」
急いで帽子を脱いで、返そうとする。
だがそれはスパーダくんの手によって遮られた。
「次、会った時に返してくれりゃいいから」
ほら早く乗れよ、と言われ、船に乗り込んだ。
「出航しまーす!」
その合図で、船が動き始めた。
急いで甲板に出て港を確認すると、スパーダくんが私に気付いて手を振ってくれていた。
ありがとうって言ったの、聞こえたかな。
大好きって言ったのも、伝わったかな。
§
あれから4年が経つ。
アルベールさんはアンジュさんにベッタリだし、アンジュさんはと言えば、すっかりテノスの料理にハマってしまっている。
何故分かるかというと、私の親が経営する飲食店に2人揃って来てくれるからだ。
「ナマエも大人になったわよね」
「そりゃあ、あれから4年も経てばそうなるよ」
「そういえば、スパーダくんってば、ナマエをどれだけ待たせるつもりなのかしらね?」
「アハハ、もう私の事なんて忘れたんじゃないかな。 お貴族様だし、もう結婚してるかも」
「あら、ナマエを置いてそんなことしたのなら、わたしがスパーダくんに人の道を説いてあげる!」
「お尻ペンペンでも良いかもしれませんよ」
それはアルベールさん限定でしょう、と一頻り笑った後、お使いを頼まれていたのを思い出し、少しだけ待ってて、と2人をお店に置いて港にある食材屋さんに来た。
もちろん、あの帽子を被って。
もしかしたら今日来てくれるかもしれない、その時の目印にとして毎日被っていた。
……まさか、4年も被るとはね。
「ええと、これとこれと……」
ふいに、船の汽笛の音が聞こえた。
どうやら船が到着したようだ。
「レグヌム発、テノス行きの船は無事、テノスへ到着致しました。お気を付けてお降りください」
ドクンと、心臓が大きく脈打ったのが分かった。
もしかしたら。
買い物の手を止め、船の降り口に視線が行く。
「……来るわけないか」
誰が降りてきたのかも確認せず、食材に視線を戻し、買い物を続けた。
「うん。 このくらいでいいかな。 また来ます」
踵を返し、港を出ようとする。
「よォ、久しぶりだな」
懐かしい、あの声がした。
急いで振り返ると、やっぱり、あの綺麗な緑髪の持ち主。
「!……スパーダ、くん」
「悪ィ、待たせたな」
「約束も、私の事も忘れたのかと思ってた」
「どっちも忘れるかよ。 オレは守れねェ約束なんてしねェし、好きな女の事も忘れねェよ」
「ふふ、そっか……っあ、うちのお店に寄って、何か食べてく?丁度、アンジュさんとアルベールさんがいるんだよ」
スパーダくんを背に、自分のお店へと歩き始める。
「なぁ」
「……何?」
ふと、呼び止められる。
「…………」
目線だけ後ろにやり、立ち止まって返事をしてみるも、スパーダくんからの反応は無かった。
「…………スパーダくん?」
痺れを切らし、いざ体も振り向こうとすると、後ろからスパーダくんの両手が伸びてきて、抱きしめられた。
「ど、どうした、の?」
「オレ……」
「うん?」
「……ナマエが、好きだ」
「……………………ぷっ、あはは!」
「なッ、何で笑うんだよ!?」
「だ、だって、順番が、っふふ」
「う、うっせ! ……で、返事は?」
「分かってるくせに」
私は、ずっと前から貴方の事が大好きよ。
振り向き、目を見てサラリと言ってのける私を見て、「バッバカ!」なんて言って、またあの時みたいに顔を真っ赤にしていたなんて教えてあげない。
原生地様より、『守れない約束はしない』をお借り致しました。
//2019.05.02
//2021.10.30 加筆修正
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