第二の人生を歩む








「さて、では行こうか」
「はい!あぁじゃなくて、えっと、うん!」


ははは、と笑いを零しながら、まぁ無理はするな。とマスタングさん……お兄ちゃんは言った。


「だ、だって、家族なんだから敬語はよしてくれ、って……!お兄、ちゃんが……!」
「いや、まさかそんなに無理して話すとは思わなくてな……ふふ、」


レストランを後にし、お兄ちゃんと共に車に乗り込んだ。
車を走らせながら、お兄ちゃんは他に行きたいところはないかと訊ねられた。
他に、行きたいところ……。


「あ。えっと……じゃあ、文具店に」


文具店に行き、手帳や日記帳、ペンなどを幾つか買ってもらった。
そして、お兄ちゃんの家……今日からは、私のでもある家に帰った。




***




「さあ、今日からここが君の帰る家だ」


玄関の扉を開けてどうぞ、と中へ通される。
ただいま……?と疑問符を付けつつお兄ちゃんの方を見ながら言うと、おかえり、と微笑みながら返してくれた。

マムの部屋はここだ、と荷物を置きがてら案内された。
扉を開けると、そこには可愛らしい寝具や机、クローゼット、本棚まであった。
聞くと、全てリザさんが家具を選んでくれたらしい。
家具の中には、私の好きな色や柄があしらわれたものがあってめちゃくちゃテンションが上がった。
次リザさんに会ったら絶対お礼言おう。

夕飯の支度を手伝いながら、お兄ちゃんにあれから何か思い出したことはあるかい?と聞かれた。
あれから……お兄ちゃんが、私を孤児院に入れてくれた後のこと。
少しでも記憶が戻れば良いな、と言われていた。
私もその時は同じ事を思っていた。
けれどいざフタを開けてみれば、記憶が戻るとか戻らない以前に、そもそも記憶が“あるはずが”なかったのだ。
――さて、これをどう説明したものか。
まさか異世界から転生して来ましたー!なんて軽く言えるわけがないし、第一言っても信用されない。ここは無いと言っておいた方が良いだろう。


「……ううん」
「そうか……」


――色々あって考えるのを後回しにしていたけれど、お兄ちゃん……マスタングさんは何故見ず知らずの私の事を引き取ろうと思ったのだろう。
マスタングさんに子供や兄弟が欲しい描写も原作にはなかったはずだし、イシュヴァールに他国の人間、ましてや子供が急に戦場に現れたんだもんな……軍で監視するためとか?いや仮にそうだと私は今頃軍に引き渡されているはず……んん、分からない。


「……何故自分が私に引き取られたのか、疑問に思っているのか?」
「え、」


ドンピシャで当てられ、言葉に詰まってしまった。
まさか声に出てた?
マスタングさん……お兄ちゃんは、ふふ、と笑いながら顔に書いてある。と言った。


「まぁ、そうだな……理由はその内話そう。ただ、マムが考えているような理由ではないことは確かだ」
「……そう、……ですか」
「早く、思い出せると良いな」
「……」


――……この人になら、話しても良いかな。
いや、でも今じゃない。
ちゃんと信用されるようにならないと。
それまで、ごめんね。


「……いや、孤児院での暮らしも楽しかったし、これから始まるお兄ちゃんとの生活も楽しみだから、別に戻らなくても良いかな。これからはマム・マスタングとして、第二の人生を歩んでいきたいと思ってる」
「ふ、若いのに殊勝な事を言うんだな、君は」
「ふふ。だから……これからよろしくお願いしますね、お兄ちゃん」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。なに、心配するな。私の妹なんだぞ、素敵な人生が歩めるに決まっている」


ふん、と鼻を鳴らしながらドヤ顔をするお兄ちゃん。
……ああ、この人は本当に漫画で見たロイ・マスタングだな。

夢なんかじゃない、ここがこれから私が生きる世界現実なんだ。

//2022.05.06
//2022.05.06 加筆修正